論考

Thesis

ディープエコロジカルな社会とは? 今、私たちがすべきこと

1.はじめに

 「ある所に1本のりんごの木と、一人の少年がいた。少年はいつも、木の下で遊び、彼 らはとても仲が良かった。少年はやがて、故郷を離れ、木は寂しく暮らしていた。ある日 少年は大人になり、結婚するために戻ってくる。木は、嬉しくてたまらなかったが、彼は 浮かない顔で、家をたてるお金がないと嘆く。木は、自分のりんごの実を売るようにと言 った。

 その後も、やさしいりんごの木は、何度も友達の彼を助け、最後には、自分の体を伐らせてしまった」これは、あるファンタジーの大体の筋書きである。

 このファンタジーを読んだ日本の子供達は、一様にこんな感想を持ったと言う。
 「少年が悪い、自立心に欠けている」
 「自分で頑張って、家を建てればいいのに」

 明星大学教授の高橋史郎氏によれば、日本の子供達には「助けられる事はマイナスである」という発想があり、弱さに対する共感がない。さらに、子供達にガンバリズム(頑張 ること)を強要し、弱さに対してその意味を実感させる教育がない。
 教育の中で、互いの弱さや違いを認めあい、違いの中から学ぶ、違いを生かしあうとい う事を、子供達に教えていかなければならないと言う。

 私は、このコメントを大変興味深く受け止めた。
 私自身の中にも、弱い事は恥であるという意識や、強いガンバリズムがある事に気づかされた。

 8月中旬に仏教学者であり、社会活動家であるアメリカのジョアンナ、メイシー氏のワ ークショップに参加したが、その中で氏は「私達は産業成長社会の中で、いろいろなもの を押し付けられている」と語っていた。
 私達の生きている産業成長社会の中では、人は他と競争し、金を稼ぎ、物を買い、消費 し、そして死んでいくという、機械のような存在である。コマーシャルや学校によって、 私達はそのように教育されてきた。

 「お互いが尊重しあいながら自然とともに生きる、デイープエコロジカルな社会では、 人は誰もがかけがえのない存在であり、すべてのものとつながりあって生きている事に気 づいている」ジョアンナメイシーは言う。そしてジョアンナは、今私達の「いのち」が 新しい社会システムへの移行を強く望んでいる事を、確かに感じるのだと語った。

2.日本はモア アンド モア教の信者である

 「オウムが信者を洗脳した事を、誰もが非難するでしょう?でも日本はもっと大規模に 、(学校で、会社で、マスメディアで)モアアンドモア教を教えこんでいるじゃないですか!オウムはサリンをまいたけど、日本はフロンをまいているじゃないですか!」
 こんな軽妙な語り口で、年300回の講演をこなし、ネットワーク地球村という環境NGOで の活動を続けるのは、松下電気副参事の高木善之氏である。

 オゾン層や熱帯雨林の破壊などの地球環境問題と、いかに日本が深く関わっているかを 事実として挙げながら、「いい、悪いは別です」とつけ加える事を決して忘れない。
 分かりやすい説明と、徹底した非対立の姿勢に、賛同の和が広がっている。

 地球環境問題が深刻である事は、誰の目にも明らかである。温暖化を例にとれば、50 年後には地球の平均温度は、少なく見積もっても5度は上昇すると予測されている。
 京都大学教授で、環境倫理学と生命倫理学の権威である加藤尚武氏によれば、17世紀 の思想家は、地球の有限性にいつかぶつかるかもしれないけれど、実際問題として考える ことはないだろうと思っていた。しかし、人間が無限の物質的拡大と、エゴの満足の充足 につとめた結果、地球全体の生態系にまで影響を与えるほどのパワーを持ってしまった。 (9月6日環境新聞より)

 日本は、近代以降、富国強兵につとめ、欧米諸国に「追い付き、追い越せ」でやってき た国である。そして今、経済的にはチャンピオンになり、世界からはものすごい金を握っ ていると見られている。しかしながら日本の経済活動は、環境汚染や環境破壊に対する正 当なコストをきちんと負担しているとは言えず、かけがえのない地球資源を浪費し、水や空気を汚すことで後世につけを残している。

 地球村のコンセプトは「こどもたちに美しい地球を」私達は、次の時代を担うこどもたちに、美しい空気、水、そして土を残していけるだろうか。
 明らかに異常な事が、起こりつつあるのである。

 例えば「命の膜」と言われるオゾン層。92年9月、NASAは南極上空のオゾンホールが、北米全体を覆いつくすほどの大きさになっている事を確認した。アメリカでは、米 環境保護局が、91年4月「50年以内にアメリカ国内だけで、皮膚癌で死亡する人は20万人も増える」と発表している。

 オーストラリアでは、夏でも長袖を来て、日焼け止めクリームを塗り、サングラスをかけて外出しなければならず、日本上空でも、有害な紫外線を食い止めてくれるオゾン層は 、確実に10~15%薄くなっている。

 しかしながら、日本政府のフロンに対する対応は遅れており、捨てられた冷蔵庫やカー クーラーの中から、処理される事なくフロンが撒き散らされている。
 毎年、全国で廃棄される冷蔵庫の数は350万台。1台につき、平均880グラムのフ ロンが使われており、年間3080トンのフロンが放出されている。

 自治体には、「回収技術もお金もない」と言う。
 回収技術はある。ただ、誰も(自治体も、業界も、そして消費者も)そのコストを負担したがらないだけの事。
 「日本はモアアンドモア教の強烈な信者。いのちよりも、経済成長を重視する」
 高木さんは言った。そして、つけ加えた。「いい、悪いは別ですよ」

3.事業者の責任とごみ行政

 このように、地球環境問題に対する危機意識は、まだまだ大変お粗末であると思わざる を得ない。しかしながら国内におけるごみ問題に対処するべく、6月に制定された「容器 包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)」の中 で、事業者がごみ処理にかかる費用を負担すると明記した事により、循環型社会の構築に 向けた新たな取り組みが始まりつつある。
 この法律に関する政府広報のキャッチコピーは「捨てる社会から、生かすリサイクル社会へ」である。

 一般ごみの6割を占める商品の容器や包装について、これを資源として生かし、リサイクルをすすめれば、ごみ減量だけでなく省資源や環境保護にもつながると国民に協力を呼 びかけている。
 びん、かん、紙等、商品に付されたすべての包装容器を対象に、消費者、市町村、事業者が役割分担してリサイクルをすすめる事が義務づけられ、2年以内に施行される。

 業界やマスコミの論調は「この法律が出来て、一安心。ごみは減るだろう」というもの が一般的である。しかし、ごみと環境政策のシンクタンクであるオストランド(代表八太 昭道)の鈴木氏によれば、次のような問題点があると言う。

 まず、容器包装リサイクル法による再商品化ルートには、

  1. 業界による消費者からの自主回収 
  2. 市町村の分別収集後、指定法人への委託 
  3. 市町村の分別収集後、独自ル ートによる回収 

があるが、指定法人への委託が最も現実的な選択になると思われる。

 この法律には、

  1. 排出されたごみは、すべて市町村が引き受ける(市町村の負担が増 大する)
  2. 埋立量が削減されても、ごみ収集量の抑制にはならない
  3. 市町村が分別収集をしない限り、事業者の再商品化義務は生じない
  4. より環境の負荷の少ない容器 を選択するような誘導策が、ほとんどない
  5. 再利用の用途やマーケットが整備されていな い状況では、大混乱が起こるのではないかなどの懸念がある。

 さらには、今大きな問題になっている粗大ごみ、宅配便の包装材などは、この法律とは全く関係がない事から、労力を費やす割には効力が薄いのではないかとの指摘もあった。
 故にこの法律も、「いつまで持つか分からない?」ものに過ぎず、容器包装リサイクル 法を生かすも殺すも、行政が市民.事業者にどう働きかけていくかにかかっているのだと言う。

 行政は排出されたごみをただ集めて処理するだけでなく、ごみ減量化.再資源化から処理処分までを政策としてとらえ、事業者とほど良い緊張関係を保ちながら、サービスやイ ンフラの整備を行なっていく必要がある。
 その為には、自分たちの行政区域でものやエネルギーがどのように流れているかを、トータルに監査するところから始めなければならない。
 小さな市町村では、回収業者や処理施設がないなど、多くの困難を抱えている。都道府 県レベルでの処理計画が、今後は必要になってくるであろう。

視点1

廃棄物換地の視点=自分の街の環境監査

視点2

事業者とのほど良い緊張関係

視点3

ごみ情報のディスクロージャーと市民の費用負担

視点4

広域的な対応と民間セクターへのアプローチ

4.日本をやり直そう

 

1992年9月、横浜市は全国にさきがけ、「横浜市廃棄物等の減量化再資源化及び適 性処理等に関する条例」の中で、「再生利用等促進物」として指定したものは、事業者が 責任を持って回収、リサイクルを行なう事を定めた。(16条)
 同時に17条において、「適性包装指針」を策定し、事業者による回収、事業者責任を 強調した。
 京都大学の高月教授の研究によれば、一般ごみの中で包装容器のしめる割合は、6割、 重量ベースでは2割をしめており、このうち、生産段階で付加されるものは53%、流通 段階で付加されるものは43%となっているそうである。
 そこで、横浜市では法的拘束力のない指針という形ではあるが、包装の適正化および回 収、リサイクルに関する事業者の責任を明らかにした。
 1991年の廃棄物の処理及び清掃に関する法律の改正により、市町村には次のような 権限が与えられている。

  

第6条の2第1項 

市町村は一般廃棄物の処理について、統括的な責任を有するのであって、市町村が全て 処理することを、義務づけたものではない。 

第6条第2項第4号 

一般廃棄物の性状を勘案した区分ごとの処理の方法及び当該処理の方法ごとの処理の主 体を定め、どの者がどの区分で処理を行なうかについても定める事が出来る。

  しかしながら、「再生利用等促進物」を指定するための「横浜市リサイクル推進委員会 」(業界団体、環境庁、厚生省、通産省、市民団体などが参加)の場では、何故横浜市だけがやるのか、横浜市の分別収集を先にやるべきだ、清掃事業に係るコストを提示して欲 しい、などの不満が続出。交渉は、難航を極めたと言う。
 業界は、出来るだけ回収とリサイクルにかかるコストを負担しなくないと言うのが本音 のところである。(或はぎりぎりまで、逃げきりたい?)
 現在、事業者によるリサイクルの現状としては、消費者と接触をしている販売店が、消 費者の要望を受けボランティア的に行なっている場合が多く、リサイクルを行なっている 事業者と行なっていない事業者の間に負担の不公平がある。
 又製造事業者は、リサイクルに関する責任意識がまだあまり見受けられず、事業者の仕 事の一環として成り立たないとろに問題の所在がある。
 平成6年、経済同友会、経団連が廃棄物に関する報告書を発表し、事業者の責任につい て触れている。しかし、事業者は広告宣伝費の一部としてリサイクルコストを捻出してい る場合が多く、このコストを内部化し、事業者の仕事の一部として明確に位置づける事が 必要であろう。

 横浜市で1994年8月から1995年3月まで運営された、「リサイクル推進委員会 」では、飲料メーカーやチェーンストア協会、自販機工業会、小売酒販組合等の業界団体 も参加し、具体的に回収、リサイクルのコストを試算し、モデルプランを提示している。
 結果として、1995年5月、「再生利用等促進物」として、「リターナブルびん」「 オフィス古紙」を指定。
指定には至らなかったものの、1995年7月から12月にかけ て、

  1. アルミカンモデル事業(スーパーの店頭に回収機を置いて、消費者に2個1円をバ ックする)
  2. スチールカンモデル事業(自販機の中のカンを、飲料メーカが自分で回収す るシステム) 
  3. ワンウエィびんモデル事業(スーパーが取り組んでいる広域回収)を行ない、1.リサイクルに伴う作業内容、2.資源回収、資源売却費、3.混入する廃棄物の種類と数などについて、検証を行なっている。

 今後は、このような検証結果をもとに、たとえ家庭から出た一般廃棄物であっても、製 造.販売元である事業者に、相応のコストを求める事が出来るとの考え方に立ち、自治体が事業者の協力を求めるせめぎあいが続いていく事であろう。

 横浜市の例では「業界に断わりもなく、こんな条例を作った方が悪い」との非難が吹き 荒れ、東京都でモデル的に飲料容器のデポジットを実施した担当者は「ありとあらゆる、 屈辱に耐えた」と後に語ったそうである。
 業界としては、事態が深刻である事を意識し、覚悟はしたものの、最後の土壇場でばた ばたしているのが現状である。
 今回の新法は、ドイツ、フランスを参考に作られたものであるが、

  1. 自治体が自らの予 算でのみ、分別収集を行なう
  2. 市町村が分別収集をしない限り、事業者の再商品化義務は発生しない
  3. リターナブルびんに関するインセンティブがない(より環境に負荷の少 ない商品を選択するような施策がない) 
  4. 市町村が分別したものが、資源化されないも のがある(再資源化出来ずに、ごみになる)
  5. 再資源の利用促進に関する施策がない

(天然資源に対し、課徴金をかけるなど)などの点において弱く、似て非なるものである と言わざるを得ないと言う。
 こういう法律ではあるが、今後自治体は分別収集の為のシステムを作らなければならず 、負担が増大するものと思われる。今回の法律の制定過程においても、実際に分別収集の業務を担当する自治体の意見は、 ほとんど反映されていないと聞く。

 情報公開と、立法過程における参加。自治体は、国に対して、これを要求するべきではないだろうか。
 一方、日本の企業は環境政策をまだまだ単なる規制としか考えていない。しかし、地球 環境問題はもはや一刻の猶予もならないところまできており、ヨーロッパ諸国に見るようにISO14000等の環境に関する企業の規格や、グリーンコンシューマーの台頭など 、環境問題を抜きにして今後の産業は考えられない。

 モアアンドモア教の信者として、大量生産、大量消費の産業成長社会へとつっ走ってき た日本であるが、大幅な方向転換が必要ではないだろうか。今やらなければ遅い。
 そして何よりも必要なのは、法律や社会システムの整備と同時に、この時代を生きる私 達一人一人の意識改革である。
 最後に、ジョアンナメイシーの提示するデイープエコロジカルな社会、そのイメージを 紹介して、月例報告を終りたい。
 産業成長社会地球は資源、使うもの、人間中心、成長し続ける、持続不可能、短期的思考、人間は(消費し、働くのが幸せ、余計な事は考えるな、忙しくし続けろ)

 デイープエコロジカルな社会地球は生きている、人間はいのちの連鎖の一つ、安定成長、持続可能、長期的思考、人間は(地球とバランスをとって生きる事が幸せ、地球の全 てのものから学ぶ、創造する)

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

Mission

環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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