論考

Thesis

環境問題解決へ、私のステップ

21世紀を迎えるにあたって最大の問題は地球環境だ。この問題を何とかしたいと私は松下政経塾での5年間を費やし、同じ問題に取り組む世界中の人々とネットワークを結んできた。これまでの活動と環境問題への最先端の動きを紹介する。

■環境問題の根本的原因

 私は松下政経塾のフェローとして環境問題に取り組み、1997年からはナチュラルステップという環境教育機関に興味をもって、その活動を日本に紹介してきた。ナチュラルステップは、小児ガンの医師として高名なカールヘンリク・ロベール氏によって1989年にスウェーデンに設立された。現在では米国、英国、カナダ、オランダ、オーストラリア、そして日本に現地法人が設立され、そのコンセプト導入が進んでいる。「それぞれの人が、それぞれの仕事を通して環境のために行動する」というアプローチは、特に企業の環境対策と組み合わせると効果が高い。欧州の家電市場で25%以上のシェアを持つ家電メーカーのエレクトロラックス社や、家具のイケア社など世界をリードする環境先進企業を生み出すきっかけをつくった。
 20世紀型の大量生産、大量消費のシステムのなかで、私たちは「自分では何も作り出さず」に、ただ「消費者」としての役割だけを果たすようになっている。しかし、人間の歴史を振り返ってみれば地域の中で食べ物を作り、燃料を調達し、ゴミを処理するという暮らしが当たり前だった。現在のように「生産」と「消費」の関係がほとんど絶ち切られたのは産業革命以降、そしてはるか離れた地域で作られた食物を日常的に口にするようになったのはここ数十年のことである。
 自分で食べ物を生産し、自分の出した廃棄物を自ら処理するという生活サイクルが崩れ、多くの個人が自然とのつながりを失い、貨幣でものを購入するだけの「消費者」になってしまったこと、これが環境問題の元凶だと私は考えている。問題解決のために重要なのは、都市生活の中でも、自分で生ゴミを処理したり、家庭菜園を始めるなど、できるところから自然とのつながりを取り戻すことである。そうすれば必然的に自分が出す廃棄物に気を配るようになる。
 特に私たち日本人は、もともと「米粒のなかには神様が宿っている」と考えるような民族だった。物は単なる「モノ」ではなく、その中に多くの事を感じ、感謝して大切に扱ってきた。米国型の使い捨て文化に憧れて、大量の資源やエネルギーを消費するようになってまだ長くない。日本人が本来持っていた「自然と共生する」知恵をもう一度取り戻すのは、やる気になればそう難しいことではないだろう。
 具体的な活動を一つ紹介したい。最近では、市民団体の私の知人も、多数ナチュラルステップのコンセプトや環境教育の手法に興味を示している。中でも興味深いのは、「持続可能なまちづくり=エコビレッジ」を、ナチュラルステップの提唱する条件にそってプランニングしていこうとする動きである。今年4月にスタートしたエコビレッジフォーラムは、このような問題意識を持つ人々をつなぎ、「循環」や「自給」をキーワードとする様々な規模のエコビレッジをナチュラルステップのコンセプトの下にコーディネートしようとしている。堆肥の作り方や排水処理の仕方などの技術を持っている人、エコビレッジに適した土地を持っている人など、様々な人々をつなぎ、気のあった仲間や好みの場所があればエコビレッジで生活したいという人たちに紹介するなど、具体的な活動を始めている。

■「環境教育」と「環境チャンネル」

 ナチュラルステップではまず「持続可能な社会とは何か」を参加者に徹底的に考えさせる。日本でも「循環型社会の構築を目指して」などという言葉があちこちで使われているが、「循環型社会」「持続可能な開発」をどう定義し、真に何が必要であるか時間をかけて議論する場はほとんどない。毎日の仕事に追われ「これは環境に良くない」と思いつつも、昨日と同じ作業、同じ生活を繰り返しているのが現実だろう。私は、「持続可能な社会とは何か」を本質的なところから議論し、科学者や経済学者たちの合意形成を行うことに成功したナチュラルステップに賛同し、その活動に参加してきた。しかし、日本でナチュラルステップの話をすると、決まって次のような反応が返ってくる。
 「コンセプトは分かった。で、どうすればいいの?」。「HOW(どのように)」が明らかであり、目に見えるものがなければなかなか先に進まないと思い知らされた。
 昨年9月、政経塾フェローとして最後の訪問となったドイツで出会った、ドイツ最大の環境団体BUNDの設立者エアハルト・シュルツ氏は、自分のこれからの進路をめぐって悶々としていた私に、大きな示唆を与えてくれた。BUNDは、1972年に反原発運動をきっかけとして設立され、現在では24万の会員数を誇るドイツ最大の環境団体である。アイディアマンのシュルツ氏の実行力により、それまでの環境団体では考えられない自治体、企業、テレビ局など、様々な人とのパートナーシップを築いている。自治体がどんなことから始めればよいのか職員のための研修会を開き、同時に市民の環境アドバイザー制度を創設するなど、シュルツ氏の提言で実現した政策は数多い。
 シュルツ氏が最も力を入れたのが、1976年から始まった「エコメッセ」である。この「エコメッセ」は、消費者に「衣食住あらゆるもの」に関する環境共生商品を展示し、「何が解決策であるか」具体的な答えをみせている。一人一人が身近な生活の中でできる解決法を、目に見える形で提示しているのである。また環境教育センター「エコステーション」と、付属の農園「ビオガルデン」では、自然エネルギーの利用、植物を使った排水処理、エコクッキングなどが、最新の環境建築とともに人目でわかるようになっており、総合的な環境教育の場として世界各国から人を集めている。
 私は、このように「何が解決策であるか」を分かりやすく示し、技術やそれを使った商品などを紹介する方法として「エコステーション」を日本で実現したいと考えた。それには大変な資金と時間がかかる。そこで、まずインターネット上で「エコステーション」ができないかと考え、これまでの活動で知り合った人たちに自分のプランを話してみた。このプランに興味を示し、是非一緒にと声をかけてくれたのが、世界最大の民間の気象会社ウェザーニューズ代表取締役社長、石橋博良氏である。

 株式会社ウェザーニューズ(資本金8億9400万円、従業員数370人、年商60億円)は、世界26都市にネットワークをもつ総合気象環境情報サービス会社である。海運会社・流通業・メーカーや自治体・テレビ局など、国内で1000以上の企業・官公庁を顧客に持ち、自治体の防災計画など気象を中心とするコンサルティングサービスを行っている。仕事で海外に出かけることの多い石橋氏は、以前から環境問題に危機感を抱いていた。同社には、コンピュータやマルチメディアの技術者も多く、気象情報を発信する独自のサイトを運営しておりインターネットはお手のものである。そこでインターネットや、ケーブルテレビなどでの気象環境番組を通して、環境教育をスタートすることになった。

 私は今年の3月に政経塾を卒塾し、4月から同社社長直属の企画担当として、忙しい毎日を過ごしている。ウェザーニューズは、2000年から始まるBSデジタル放送の委託放送事業者の申請を進めており、これが実現すれば「気象、環境チャンネル」を本格的に立ち上げることになる。
 現代社会において、メディアの影響力は非常に大きい。私は政経塾時代の知識や人脈をフルにいかして、この「環境チャンネル」の実現に努力したい。環境問題はもう待ったなしのところまできている。ウェザーニューズとの出会いと、貴重なポジションを頂いたことに感謝し、今後とも理想とする環境教育の普及に力を入れていきたい。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

Mission

環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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