論考

Thesis

日本のゆくえ

1.民主主義のコスト

 小野寺五典塾員の近著「1票の値段」によれば、日本の選挙には1票につき1万5千円というお金がかかっていると言う。
 日本が1年間に現在の政治システムを維持するための費用は2兆円。その内訳は、政府と地方自治体の議会費用約8000億円、国会議員と地方議員の選挙費用約2000億円、そして民間から集められる政治資金が1兆円である。これを選挙権のある人で割ってみると、1人あたり1年間に約2万1000円かかっている計算になる。さらに選挙が年平均1.4回あるとすると、1票は1万5000円になるのである。

 中でも政治にかかるコストは、国会よりむしろ地方議会の方に多くかかっている。日本全国で議員の報酬および活動費を含めた地方議会の総予算は、約5800億円。総予算に対して議会費用が占める割合は、国が0.16%、地方が0.62%である。

 これだけのお金をかけながら、日本の政治は十分にその役割を果しているとは到底言えず、国民の「政治不信」は高まるばかりである。95年7月に行なわれた第17回参議院選挙の投票率は44.5%。この低投票率は、有権者の「政治ばなれ」によるものである。
国民は「かけひきばかりの国民不在」の政治にうんざりしているのだ。

 小野寺五典塾員によれば、「今必要なのは政治家の交替、政策立案(規制緩和、行政改革など)と議員立法の強化により、政治への信頼を取り戻すこと」であると言うが、私も全くその通りであると思う。

 国会には、年間数百億円の予算で、衆議院の法制局や国会図書館など、法案作成の補佐をする機関が設けられている。しかしながら、年間に制定.改正される法律約100件のうち、議員立法は平均15件であり、これを国会費用で割ると、議員立法1件あたりにかかる費用は80億円となる。
 議員の間では「議員立法は票にならない」として、これに力を入れる人は少ないと言うが、それでは何のための「国会」かと言わざるを得ないのである。

 「政治が悪いと、国がつぶれる」塾主はそう考え、日本の政治を良くするために政経塾を設立された。
 実際、政党政治への不信が軍部の台頭を招き、第2次世界大戦へと突入していった過去の歴史を振り返って見れば、私達は「政治が信用できない」と言って、これを放り投げる事は出来ない。

 国の財政赤字は221兆円。孫の代までかかっても返せない借金である。

 今こそ政治は、問題を先送りするのではなく、国民に信頼されるような体系的な経済政策を練り、発表しなければならない。
 日本の保守政治家の中に、財政赤字の拡大に厳しい目を光らせる人は、ほとんどいなかった。この意味でも政治の責任は重いのである。

2.Jネットの発足

 4月7日。幕張メッセ国際会議場において、「Jネット ローカルパーティネットワーク.オブジャパン」結成全国集会が開かれた。
 当日参加者は約2000名。「この国のゆくえ 市民と政治」と題する基調講演の後に、Jネットの基本政策、規約等に関するプレゼンテーションが行なわれた。

 Jネットは、「市民主権にもとづく分権型の新しい政治の確立」をめざし、各地の市民ネットやNPO組織、ローカルパーティなどの連携を行うことを目的としている。

 中心となっているのは、新しい風.北海道会議代表の横路孝弘氏、神奈川ネットワーク運動代表の又木京子氏、リベラル東京会議代表の海江田万里氏、四国市民ネットワーク代表の仙谷由人氏などである。当日は、その他30人ほどの国会議員が姿を見せ、鳩山由起夫氏も簡単なスピーチを行なった。

 Jネットの基本政策は、以下の5点である。

     

  1. 地域の開かれた福祉社会の転換と市民参加(環境重視、地域の福祉力の向上)
    当面は公的介護システムの確立に向け、地域からの政策提言づくりに取り組む

     

  2. 公共事業のありかたの見直しと財政改革の実施
    公共事業の評価システムの確立、第三者機関による監視制度の確立
    財政の単年度主義の弊害を改善、財政投融資制度の改革と各種特殊法人の整理
    高度福祉社会への転換と環境重視型社会への移行を踏まえ、公正な税制度の確立

     

  3. 地方分権型社会の創造と地域における地場産業の形成

     

  4. 平和志向の積極的外交

     

  5. 情報公開法の制定と行政改革、国会改革の実現

これらの基本政策を具体化するためにJネット政策集団の創設を進め、当面「公的介護システム、市民参加システム、情報公開、公共事業の見直し」などを重点テーマに取り組んでいくと言う。

 神奈川ネットは、これまで積極的にワーカーズコレクティブをつくり「高齢者の在宅福祉サービス」や「給食サービス」に取り組んできた。
 また「少なく消費して、心豊かに暮らそう」をキャッチフレーズに、生活改善に取り組み、簡易包装やびんのリユースなどを早くから実行してきた。

 これらの実績を踏まえ、環境.福祉重視の政策を広く訴えていくつもりである。
 Jネットが今後、国民にどう受け入れられているかはまだ未知数であるが、新しい政治の動きとして、私は大いに注目している。

3.都市交通におけるDSM

 環境問題を考える上で、最近私が興味を持っているのは、DSM(需要側抑制)である。例えば水について。地域内の各事業所で、最も水の使用量が多い順にランキングし、それを毎年広報することで「水を沢山使用するのは、環境を破壊し、人間として恥である」という意識を持たせる。

 これはエネルギーにも、廃棄物にも応用出来る。需要にあわせて供給を拡大するのではなく、供給の制約にあわせて需要を抑制するという、DSMをあらゆる分野に普及させていく事は、緊急の課題であると思う。

 東洋大学経済学部の山谷修作氏によれば、アメリカでは「都市交通におけるDSM」が、もうすっかり定着していると言う。いわゆる交通需要マネジメント TDMである。

 アメリカのTDMにおいては、乗用車の1人乗りからカープール(相乗り)または公共交通へのシフト、勤務時間のピーク時からのシフトなどに重点が置かれている。
 TDMを促進する上で重要な法律として、1970年の大気浄化法、1990年改正大気浄化法、1991年総合陸上交通効率化法などがあげられる。
 TDMには雇用者が自治体の呼掛けに対し、自発的に行うものと、自治体が条例や規則によって強制的に行うものとがある。最近では、自治体がTDM条例を設ける場合が多い。(一方、日本では?)

 「自動車の社会的費用」という本に詳しく書かれているように、私達は環境コストや社会コストを支払わないまま、自動車を使用した便利な暮らしを楽しんでいる。
 私は自動車に乗らないので、そう言えるのかもしれないが、必要以上に自動車が普及し過ぎていると思う。

 自動車は環境の事を考えると、物凄い贅沢品である。デンマークのコペンハーゲン市は、マイカーの乗り入れ禁止。電車と自転車を利用しなければならない。
 ドイツもしかりである。日本のコンビニには、お弁当だけで4回も配達があると言う。多少の便利さを手に入れるために、過剰なエネルギーを消費している。
 もし規制が無理であるならば、せめて相乗りの奨励(高速料金、駐車場ただ)くらいは、始めるべきではないだろうか。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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