Thesis
1.はじめに
5月15日より6月1日までストックホルム市に滞在し、スエーデンの環境政策に関す る資料収集とインタビューを行った。訪問先と入手資料は、以下の通りである。
スエーデンは、スエーデン大使館科学技術部で長年環境問題を担当していた、小沢徳太 郎氏の言葉を借りると、「予防主義の工業国」であると言う。
スエーデンの環境政策の目標は、
である。スエーデンの福祉社会を維持し、さらに発展させていくために、「人の健康を守る」事を第一に掲げている事に、まずは注目したい。
この目標を達成するために、以下の13項目の対策につき、努力することに焦点をあてている。
また環境保全のための基本原則は、次の通りである。
私は、「予防と代替の法則」などは、是非とも日本にとりいれるべきであると考える。また環境アセスメントについても、横浜ごみを考える会代表の飯田和子さんの話では、「日本では形だけのもの」であると言う。(神奈川県新百合ヶ岡地区の開発問題について )まだまだ「環境よりも経済が優先」という姿勢は、変わっていないのである。
一方、先述の小沢徳太郎氏はスエーデンを「当り前の事を、当り前にやっている国」で あると評している。私はスエーデン滞在中、企業や行政の人に何度もおかしな質問をして 、「この日本人何を言っているのだろう?」と、不思議な顔をされた。 「こういう事をやると、業界の反発があるのではないか」とか「コストはどうなってい るのか」と言った質問は、スエーデン人には奇異に感じられたらしい。
環境を汚染してしまえば、修復のために多大なコストがかかり、国民の健康が害される 。また私達が資源を使いつくすことは、子供達の権利を奪うことになる。故にそれを未然 に防止するのは当然の責務であると、スエーデンでは考えられている。そして対処療法で はなく、予防主義に則り対策を講じておいた方が、社会全体のコストとしては長期的には 「安くつく」と、きちんと計算も出来ているのである。スエーデンが徹底した「合理主義の国」であると言われる所以である。
2.スエーデンの環境党
今回のスエーデン訪問では様々な人と出会い、多くの刺激を受けた。中でも2日間お世話になった「環境党」では、多くの事を考えさせられた。
以下スエーデン環境党について、少し述べてみたい。
スエーデン環境党は国会議事堂に近い、ドロットニングガーダン通りにあるビルの、ワンフロアを事務所にしている。ここは日本で言えば銀座といった感じの、ストックホルム 一の繁華街である。
事務所の中は明るく、白とグリーンで統一されている。若い女性のスタッフが多く、広報のアグネッタさんは27歳。6歳の子供がいるとはとても思えない、かわいらしい感じの人である。
事務局長はレイナさん。経済のスペシャリストで、40歳くらいのいかにも頭のよさそうな女性だ。(88年には、テレビに何度も登場していたらしい。)
環境党は1981年。80年に行われた原発の是非をめぐる国民投票と、環境問題に対 する意識の高まりを背景に誕生した。
環境、女性の人権、原発反対、平和その他の「オルタナティブ」グループが、70年代 に大きくなり、これらの人々は一緒になって80年に原発反対のキャンペーンを行った。 「原発ノー」の立場は敗北したものの、彼らの多くは「社会に対する共通の認識を持って いる」ことを、確認。81年9月環境党「miljopartiet(ミリオパティ)」 が生まれたのである。
この頃、重要性を増しつつあった環境問題に対し、既製の政党は何ら解決策を持っていなかった。
当時環境党に対しては、「ワンイッシューパーティ」との批判があったが、それにこたえる形で全ての主要な政治課題に対し、早急に政策がまとめあげられた。
82年の春、オピニオン調査では環境党は、次回の選挙で4%をとるであろう(政党が 議会議席の配分を受けるために、全国集計で必要な総投票数の最低4%)と言われていたが、実際は、1.7%しか獲得することが出来なかった。
しかしながら環境党は、96の地方議会において、126の議席を得た。
85年の選挙では、1.5%という失望的な結果に終ったが、地方においては148の地方議会において、237議席を占める事が出来た。これにより環境党は、広い草の根の 政治的経験をつみ、その結果88年の選挙で多くの優秀な候補者を得る事が出来た。
そして88年。多くの変化が生まれた。
テレビやラジオのキャンペーンが、小さな政党にとっても不利にならぬよう改革された 。同時に夏の初めのキャンペーンのスタートに、湖の酸性雨といった環境問題が、突然政 治の争点に浮上した。
一方既製の政党は、これらの問題に対し信用に値する解決策を提示することが出来なか ったので、環境党に注目が集まった。
この時環境党は総投票数の5.5%を獲得し、12人の代表を国会に送り、全ての委員会に参加したのである。
91年の選挙では、国会から去ったが(3.4%)94年、5.2%を得ることに成功し た。そして、95年にはEU議会選挙において17%を獲得し、(社民28%、穏健党2 2%につぐ)4議席を得ている。また最近のオピニオン調査では、8%~12%の支持を 得、現在党員が毎年5~10%増えている唯一の政党であると言う。(中高生の間では、 最も人気が高い党になっている)
現在、党員は6千人~8千人。大学出の学士がほとんどで、平均年齢は26~35歳。 今最も力を入れている活動は、原発早期撤廃と、社会保障問題である。(環境問題だけ を訴えている訳ではないと言う)
政府の予算案(経済成長法案?)の中では、環境への投資と研究費用の拡大を要求している。昨年は、暖房効率の悪い建物の改築に対し、国が70%の補助を行うよう、8億ク ローナ(約130億円)の予算をつけた。
環境党は、「安定した経済が良い環境を作る」と考え、国の財政や経済政策に対し、エコロジーの観点から政策を立て、実現に向けた努力を続けている。
ここで環境党の基本理念を、少し詳しく紹介してみたい。私は大変共感を覚えたが、如何なものだろうか。
<基本理念>環境党で配布している英語資料の要約
環境党の基本理念は、生物それ自体が近代文明によっておびやかされているという認識から出発している。湖や森の枯死、土壌や空気の汚染をうみ、気候変動と社会崩壊をひき おこす近代文明は、ライフ(生命)をサポートするシステムではない。一方、持続可能な 社会はエコロジカルであり、何世代も続く事が可能である。それは全ての命を貴び、資源 を節約し、経済的にもバランスのとれた適正な社会を築こうとするものである。
この理念に則り、環境党は4つの観点から行動する。
1.は自然と自然資源の保全、2.から3.は、地球資源の消費と分配に関するものである。
世界平和は私達の目標であり、持続可能な文明に向かう唯一の道である。私達は暴力と 軍隊は衝突を回避するのに何の役割も果たさないばかりか、さらなる暴力を生み出すもの であると考える。
原子力の生産は、私達の社会の最も大きな脅威である。それは人間の手におえるものではなく、地球の全ての生き物を危険にさらしている。
失業率が高い今日(スエーデンでは8%、実質的には13%と言われている)環境産業への投資には、大きな可能性がある。
国会において環境党は、環境への付加の少ないバイオガス、太陽光発電、風力に対する大規模な研究開発を提案している。
このようにスエーデンは、原子力に依存せず、石油の消費を減少し、貿易のバランスと環境を改善しながら、新しい仕事を創造することができる。
スエーデンは、かつて自動車道路やJAS軍事飛行機など、時代遅れのインフラに力をそそいできたのである。
さらに環境党は、所得税をさげ、化石燃料と再生可能でない資源に対する税金を増額することを提案する。これにより効率の良いエネルギーと、環境技術が生まれる。
環境党はこの税制改革により、30万人の雇用を見込んでいる。リサイクルとリユースは、より経済性を持つようになり、地方のコミュニティは発展の可能性を与えられるであろう。
医療と健康に関する政策は、人間と環境に対するホリステイックな見方によるものである。環境党は効率の良い鉄道交通、テレコミニケーションと新しい都市交通システムに対する投資を提案する。(バス、自転車)
3.エレクトロラックスの挑戦
大変忙しい人らしいが、エレクトロラックスの環境担当副社長に話を聞くことが出来た 。エレクトロラックスは、ノンフロンの冷蔵庫や著しくエネルギー消費の少ない家電製品 の開発により、世界的にも有名な会社である。
「自分達は環境のグローバルリーダーをめざしている」と、胸をはる副社長の話の中で 、最も感銘を受けたのは次の言葉であった。
「将来の顧客である子供達は、環境の事を考えながら製品を選ぶようになる。地球温暖 化はもはや、猶予がならないところまできている。私達の努力していることは、ボランタリーによるものではなく、コストと競争力を長期的に判断しながらの、経営戦略なのです 」
エレクトロラックスの環境戦略については、7月までに詳しくまとめたい。
4.日本は何を学べるか
「日本の政治家や企業は、ヨーロッパで何か熱心にやってるなとしか、今は思っていな いようだ。しかし環境問題は今後数年のうちに、政治の最重要課題になってくるでしょう 」今回のスエーデン訪問中、何人かの人から同じ言葉を聞いた。
日本はスエーデンから何を学べるか、また何を学ぶべきか。スエーデンの環境政策の決 定過程や、環境庁の組織などに多くの鍵が潜んでいるような気がする。
そこで7月のレポートでは、政治.行政のシステムなどに遡って、さらに調べてみたいと思う。
Thesis
Hiromi Fujisawa
第15期
ふじさわ・ひろみ
どんぐり教育研究会 代表
Mission
環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)