論考

Thesis

日本のエネルギー政策の現状 その2 ~第2、再生可能エネルギーの実情と普及を阻む壁~

1.再生可能エネルギーの実情

1)日本における再生可能エネルギーの必要性

 わが国は、1990年10月に発表した「地球温暖化防止行動計画」に基づき、2000年以降の二酸化炭素排出量を1990年レベルで安定化させることを、国際社会に公約している。
 しかしながら、わが国における二酸化炭素排出量は、減少するどころか増加傾向にある事が指摘されている。

 総合エネルギー調査会基本政策小委員会の資料によれば、1994年度の二酸化炭素排出量は、炭素換算で3億4300万トン、二酸化炭素換算では12億5800万トンであり、1993年度の値に比べ、排出総量で5.9%、1人当たりの排出量で5.4%増加している。(基本政策小委員会6月21日提出資料 平成6年度二酸化炭素排出総量等について)

 一方、地球温暖化防止行動計画における二酸化炭素排出量の基準年度である、1990年度の排出総量は、炭素換算で3億2000万トン、二酸化炭素換算では11億7300万トンである。
 1994年度における二酸化炭素排出量の内訳を見てみると、化石燃料の消費によるものが9割を占めている。

 二酸化炭素排出量の削減を行なうには、省エネルギーとともに、二酸化炭素を排出しないエネルギー源への転換をはかっていく必要があり、わが国ではその中核として原子力が位置づけられている。
 しかしながら、原子力は90年代に入り、立地から運転開始までのリードタイムが長期化しており、1996年8月に行なわれた原子力発電所建設をめぐる新潟県巻町の住民投票で「ノー」が出るなど、電力会社がこれを供給源として重要視するのは、難しい状況にあると言える。

 そこで、電力会社は原子力の立地の遅れをカバーするするために、石炭火力発電所の建設を増やしている。(中央電力協議会資料)状況であり、地球温暖化防止行動計画の目標値を達成する事は、ほぼ絶望視されている。
 となると、太陽光や風力に代表されるような、無尽蔵で二酸化炭素を出さない再生可能エネルギーの導入を、最大限はかっていく事の重要性が指摘されよう。

 ここで再生可能エネルギーとは、太陽、風力、水力、地熱、バイオマス、海洋エネルギーの事を指している。(これに廃棄物発電などのリサイクルエネルギー、コジェネレーションなどの従来型エネルギーの新利用形態を加えたものを、新エネルギーと言う)             表 新エネルギーの一覧
 ここで再生可能エネルギーのわが国における位置付けを、時系列にそって簡単に振りかえってみたい。

 わが国の政府は、1973年8月、産業技術審議会に対してエネルギー技術開発の方向性に関する諮問を行ない、この審議会の答申により1974年3月、いわゆる「サンシャイン計画」(石炭液化.ガス化、太陽電池などの技術開発)が策定された。

 このサンシャイン計画は、1974年度以降の累計支出をみると石炭関係が53%と多く、次に太陽エネルギー22%、地熱エネルギー18%となっている。
 この計画の中では、民生用および産業用太陽熱利用システムが開発され、太陽光発電の大幅なコストダウンが実現されている。

 1980年には、「石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律」が制定され、特別会計制度の整備や新エネルギー総合開発機構(現 新エネルギー.産業技術総合開発機構)の設立などが行われた。

 NEDOは現在、太陽光発電、燃料電池、石炭液化.ガス化等の技術開発や、海外炭、地熱などの調査.助成を実施している。
 さらに1993年度からは、「ニューサンシャイン計画」が発足し、太陽電池、燃料電池、太陽熱などそれぞれの重点課題を定めている。(表)

 また政府は1994年12月、新エネルギーの導入に向けて、国全体の基本方針である「新エネルギー導入大綱」を決定し、今後は本大綱に基づいて新エネルギー政策をすすめていくとしている。
 このうち、太陽光、風力などの再生可能エネルギーについては、一般的に資源条件に左右され、現時点ではコストが高い事を理由に、あまり重要視されているとは言い難い。

 「新エネルギー導入大綱」は、代表的な新エネルギーとして、太陽光発電、廃棄物発電、コジェネレーションに高い導入目標値を設定している。しかしながら、後述するように、わが国において大きな潜在的可能性が見込まれている風力は、2000年に2万キロワット、2010年に15万キロワットとごく小さな目標値になっている。
 さらに、新エネルギー全体の目標値も、2010年時点においても一次エネルギー総供給量の3%にしか過ぎず、ドイツ、デンマークなどとは程遠い数字である。

2)再生可能エネルギーの実情

 1994年2月に発行された、総合エネルギー調査会基本政策小委員会中間報告「強靭かつ、しなやかなエネルギービジョン」によれば、新エネルギー等の中には、技術開発の進展の中で技術的な実証により新たなステージにすすみつつあるものがあり、特にわが国の技術水準が既に世界的にも最先端に達しているものや、各国において既に相当な導入水準に達しているものについては、我が国固有の導入制約要因、エネルギー供給全体での位置付に配慮しつつ、「本格的普及シナリオの確立について検討されるべき時期にきている」と言う。

 そしてこのような検討等を行なうための前提として、各新エネルギー等の普及状況の国際比較を行ない、主要な制約要因について的確な分析.評価が必要であるとしており、再生可能エネルギーについては次のような分類を行なっている。

  1. 基本的な技術の確立により国際的には導入が進んでいるが、わが国においては主に自然条件による制約があるもの
     バイオマスなど
  2. 技術の実証が概ね終了し、主に社会的、経済的制約等の打開が課題となっているもの
     太陽光発電など
  3. 技術面の課題の解決が前提のため、技術開発に努力を傾注すべきもの 海洋エネルギーなど

 これらの制約要因の打開により、一定の量的導入が期待されるものについては、本格的普及シナリオを作成していくことが必要であるとしている。
 特に太陽光発電、太陽熱利用については、コスト制約打開のための量産化にむけた初期導入支援、助成といった対応がとられるべきであると言う。

 それでは、カリフォルニア、ドイツ、デンマークなどで本格的な導入が進む、風力についてはどうだろうか。

 現時点における風力エネルギーに対する評価は、新エネルギー導入大綱における導入目標値を見ても分かるように、非常に低いと言わざるを得ない。
 例えば1996年11月に行なわれた「第18回風力エネルギー利用シンポジウム」において行なわれた、通産官僚による講演のなかでも「風力発電はクリーンな再生可能エネルギーとして、既に欧米でも相当程度の商業運転が行なわれている」としながらも、「わが国に置いては安定的な出力が得られる地点の選定などにかかるノウハウが確立していない、騒音が発生する」などの導入制約要因がある事から、「2010年に15万キロワット」程度の導入をめざすべきとしている。

 このように風力発電は、諸外国における実績は認めながらも、「わが国においては」導入制約要因があり、大きな期待を寄せることは出来ないと明言しているのである。
 しかしながら、わが国においても後に詳しく述べるように、風力発電は大幅にコストダウンし、火力.原子力と同レベルの発電コストの事例も現れ、普及のきざしが見えつつある。

 このような状況を踏まえ、風力をはじめとする再生可能エネルギーへの正しい認識と評価が今求められている。

 風力発電は、世界的に見れば95年末の設備容量は600万キロワットにも達しており、95年の新規設備容量は130万キロワットと、前年度比35%増の勢いで普及している。
 しかしながら相変わらず日本においては「コストが高く、あてにならないエネルギー」であるという迷信が、普及の阻害要因になっていることは否定出来ない。

 ここでそれぞれの再生可能エネルギーについて、現時点での発電コスト、普及状況、導入制約要因、潜在的可能性などを見てみたい。

 まず、重点的に普及をはかるべきとして新エネルギー導入大綱の中でも、最も高い導入目標値が設定されている太陽光発電である。
 太陽光発電については、サンシャイン計画発足当初から、実用化のための技術開発が進んでおり、その成果として世界でもトップクラスの変換効率を達成するなど、多くの成果をあげている。

 問題となるコストも、最大出力あたり数百万円/kwしていた太陽電池が、80万円/kwをきるところまできている。1994年度から始まった、通産省の半額助成制度により、急激にコストダウンが進んでいる。(表 太陽光発電のコストダウン)
 1996年度における自宅用3キロワットの価格は、システム全体で350万であり、モニターに採用されれば、1キロワットにつき50万円の助成が行なわれ、消費者の負担は200万円となっている。

 この負担額が100万円をきるようになれば、普及は飛躍的にすすむものと見られている。ちなみに導入実績は、1995年3月末時点で約2万キロワットとなっている。

 しかしながら電力中央研究所の試算によれば、「種々の制約条件を考慮した上で、実際に設置可能な普及規模」は、日本全体で2474万キロワットもあると言う。これは原子力発電所20基にも相当する数字である。

 また大阪大学の浜川教授(前日本太陽エネルギー学会会長)の試算によれば、個人住宅2500万戸の80%に3キロワット、集合住宅45万棟の屋根の50%に20キロワットの太陽電池パネルを設置すると、日本の総発電量の45%をまかなうことが出来ると言う。

 技術面では、システム構成要素の効率向上や信頼性の立証.確保、建材一体化技術の確立、量産化技術の確立などが今後の課題である。

 次に風力発電であるが、新エネルギー導入大綱における導入目標値は2010年において15万キロワットと、低い数値となっている。
 風力に関しては、国の助成制度も太陽光発電に比べればほとんどないと言ってもよい。

 しかしながら92年以降、価格の安いデンマーク製の風車が輸入されたことにより、国内の風力発電は飛躍的に伸びている。

 1996年における導入実績は約1万キロワットであり、発電コストも石炭.石油火力や原子力と同レベルである、10円/kw時を達成している事例もある。

 風力発電のわが国における潜在的可能性は大きく、1993年に発表されたNEDOの調査によれば、風力が経済性を持ちうる年間平均風速6メートル/秒の地点が、日本には数多く存在し、ここに直径30メートルから40メートルの風車を設置すると合計で2500万キロワットをまかなうことができると言う。

 技術面では、騒音、振動対策や、適地判断および効果算定のための気象データの整備などが課題であると言われているが、騒音等は大型機でもさほど深刻ではない。
 このように見てくると、わが国における太陽光と風力には、相当な潜在的可能性があることが分かる。

 さらに、中小水力、波力.海洋温度差、バイオマス、地熱なども研究開発に力を入れ、最大限活用すれば、わが国における再生可能エネルギーの潜在的可能性は大変大きいと言う事が出来るだろう。

2.電気事業法改正の成果と限界

1)電気事業法改正の成果

 このように大きな潜在的可能性を持ち、技術的にはほぼ実用化レベルに達しているもの(太陽光、風力など)もあるにも関わらず、再生可能エネルギーの導入は、原油価格の定位安定が続く今日、遅々として進んでいないのが現状である。

 そこで普及のためには、導入初期における各種の効果的な助成策が必要であるのは勿であるが、同時にこれを支える制度基盤の整備も重要になってくる。

 わが国においては戦後、電気事業は10電力会社の地域独占となっており、参入規制により安定的な経営基盤が保障されてきた。それは、電力が公共的なサービスであり、巨額の設備投資を必要とする事から、これまでは当然視されていた。

 しかしながら今日、この発電、送電、配電事業を一貫して行う地域独占の抱えている問題が露呈し、電気事業は変革を迫られている。
 日本の電力会社は電力需要の伸びに応え、計画的な設備投資によって「電力の安定供給」につとめてきた。これを可能にしてきたのが、電力会社に安定的な料金収入を保証する、総括原価方式である。

 現在わが国では、一次エネルギー総供給量に占める電力向けエネルギー投入量の割合(電力化率)が約40%となっており、ビル等のOA化や国民生活の快適志向などから、電力需要は今度も増大していくものと見込まれている。

 特に近年は、冷房需要の増大などにより、ピーク需要が先鋭化しており、これを充足するための大規模電源への設備投資は、多くの問題点を抱えている。

 日本の電気料金は、欧米諸国の1.3倍から1.7倍程度と高く、それは設備費用の高さによるところが大きい。日本の電気事業の費用構造は、表のようになっており、資本費(30%)や修繕費(14%)などの高さが目だっている。

 また夏季のピーク需要の先鋭化によって、年負荷率(年間の平均需要電力/最大需要電力)が悪化しており、50%台にまで落ち込んでいる。さらに設備投資による、電力会社の社債発行や借入金の残高が増大しており、電力会社の高借金経営の原因となっている。

 このように日本の電力事業においては、地域独占と過剰な設備投資による多くの問題点が指摘されている。
 そうした中で、太陽光発電、風力発電、またコジェネレーション、産業自家発電などの分散型電源がその効率性を高めており、こうした状況の中、分散型電源の導入をはかるための規制緩和措置が、徐々にとられるようになった。

 まずわが国において、ある程度導入が進んでいるコジェネレーションについては、次のような規制緩和が行なわれている。

 コジェネレーションとは、熱と電気を同時に供給するシステムであり、そのエネルギー利用効率の高さが注目を集めている。
 コジェネレーションは、発電を行うとともに発電にともなう冷却水、排気ガスなどを組み合せて熱供給を行い、総合エネルギー効率は70~80%にも達する。

 わが国においては、現在  程度の導入が進んでいる。(最新のデータをいれる)
 こうしたコジェネレーションの急速な普及には、一連の規制緩和施策が大きな役割を果たしている。

 1986年8月には、最初に「系統連系技術要件ガイドライン」が設定され、業務用自家発電補給電力制度が設けられたことにより、補給電力契約を結ぶことが可能になった。

 電気主任技術者の選任についても、1987年5月に外部委託ですむよう規制が緩和されている。さらに1988年5月からは、1万キロワットの小型設備については、条件に応じ検査期間を最長5年、起動回数1000回まで延長可能となり、その間は自主点検に委ねるよう緩和されている。(表 コジェネの規制緩和)

 太陽光発電、風力発電などに関しては、どうだろうか。

 1990年6月、これを普及させることを目的として、電気事業法に基づき保安規制が緩和された。
 従来の規制では太陽光発電や風力発電の設置について、通産大臣の工事計画許可が必要であり、30ボルト以上の設備には電気主任技術者の専任が義務づけられていた。

 それに対し、1990年6月の規制緩和により、500キロ未満の設備ならば届出で良く(100キロ未満の太陽光、5キロ未満の風力は不用)、主任技術者も外部委託が可能になったのである。

 さらに91年3月には、低圧配電線系統連系要件、93年4月には逆潮流に関する要件が設定された。

 また92年4月には、電力会社による「余剰電力買取メニュー」が発表され、電力会社への売電が可能になった。 表 余剰電力買取メニュー
 各社の買取価格を見れば分かる通り、太陽光、風力などの再生可能エネルギーについては、販売電力料金を限度に自主的に購入することになっている。

 さらに1995年4月には電気事業法の改正が行なわれ、12月1日に施行されている。今回の改正の狙いは、発電部門への競争原理の導入や特定地点における電気供給の自由化などにより、電気事業の効率化をはかることにある。

 通産省の資料によれば、改正電気業法の概要は、次のように説明されている。

 まず第一には、発電部門への新規参入の拡大を目的とした事業規制の見直しである。
 具体的には、鉄鋼、石油、化学、ガス等の参入を期待して、卸電気事業の許可撤廃、一般電気事業者の電源調達についての入札制度の導入などの措置がとられた。ここで対象となるのは、開発期間が7年以内の火力発電である。

 また広域的な卸発電市場が出来るよう、電力会社に対しては卸託送(電力の送電サービス)に関する約款の策定、届出、公表を義務づけている。

 さらに、これまでは一般の需要に応じて電気を供給出来るのは電力会社だけであったが、「特定電気事業者」の創設により、許可を受ければ電気を供給することが出来るようになった。
 これにより、再開発地域におけるコジェネレーションシステムなどの普及に、はずみがつくものと思われる。

 従来の特定供給制度についても見直しが行なわれ、地方公共団体の他部門への供給(第一類型)自社の社宅に対する供給(第四類型)建物所有者が行なう一建物内の供給(第五類型)については、個別許可性を廃して自由に行なえるものとなった。

 第二には、保安規制の合理化である。国の直接関与を原子力など必要最小限なものに限定し、自己責任を明確にした保安規制体系への転換がはかられている。

 具体的には、出力20キロワット未満の太陽光発電等および風力発電に関しては、一般電気工作物となり、個人住宅での電気主任技術者の選任、保安規定の届出、法定点検などが不用になった。
 それまでは自宅に太陽光発電を設置する場合、電気保安協会などに委託して毎月1万くらいの委託料を払っていたのが、これで要らなくなったのである。

2)電気事業法改正の限界

 しかしながら、このように規制緩和がすすみつつあるとは言え、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが本格的に普及するには、まだまだ多くの障害を抱えていると言わざるを得ない。

 特に風力に関しては、石川県松任市、千葉県勝浦市、高知県高知市、沖縄県宮古島、山形県立川町等と順調に導入が進み、売電を目的とするIPP(独立系発電事業者)山形風力研究所も1キロワット時/約10円という発電コストを達成するなど、まさに普及の離陸期を迎えつつある。

 しかしながらここにきて、普及を妨げている幾つかの要因も明らかになっている。
 日本にデンマークのミーコン社製の風車を輸入し、風力発電普及のパイオニアとして知られている(株)エコロジー.コーポレーションの小島氏は、わが国における風力発電普及の遅れは、社会的.制度的側面に起因していると言う。
 氏はその原因6か条として、

  1. 国策で進めてきた原子力発電への依存心
  2. 風はあてにならない不安定なエネルギーとの迷信
  3. 国の適切な制度の不備
  4. 電力会社との不透明な売電契約条件
  5. 海外に比して割高な建設コスト
  6. 独占体制にある電力供給

 を挙げている。(第18回風力エネルギー利用シンポジウム資料)

 そして海外の事例で明らかなように、透明性のある売電制度の確立こそが、IPPの参入を促し、風力発電を飛躍的に普及させる鍵を握っていると指摘している。

 資源エネルギー庁は、分散型電源の導入を推進するため、これまで数回にわたり、「系統連系技術要件ガイドライン」の改訂を行ってきた。

 1995年7月には、改正電気事業法の施行にともなう改訂が行われている。
 資源エネルギー庁の資料によれば、ガイドラインの策定にあたっては、「分散型電源を連系することで、電力系統の供給信頼度及び電力品質(電圧、周波数等)に対して悪影響を与えないこと」を基本的な考え方として、技術的進歩などに応じて適宜見直しを行いつつ、必要な技術的事項を明確化していると言う。

 しかしながらこのガイドラインが、現時点ではまだ過剰な設備を要求しており、それが普及の妨げになっている事も指摘されている。

 デンマークの風車協会で取材したS氏は、日本に風車を紹介し、実際に電力会社との交渉を進めてきた経験から、次のような問題点を提起している。

 まず第一には、系統の困難である。
 電力会社は風車を電力系統につなぐと、電圧バランスが崩れることを理由として、SVCという装置(電圧を調整する機械)をつけるよう要求している。

 このSVCは1台1800万円もするもので、設置義務が出来るとなると、風車を設置する側にとっては大変な問題である。これは、風車で発電する前に電力系統から電力をもらってモーターを動かすが、その時電圧に影響を与えるおそれがあることから、設置を要求されているものである。

 しかしながらそれを避けるためには、風車の方にバッテリーをつけモーターを動かす電力をカバーするなど、必ずしもSVCの設置は必要ではないと言う。

 このように現時点では立場的に電力会社が強く、電力会社と事業者が同じテーブルについて技術的な事を話し合うところまでは至っておらず、電力系統への接続には、多くの困難がある。

 第二には、電力の買取義務が制度化されていないことである。
 アメリカ、ドイツ、デンマークなどの諸外国では、「買電の義務づけ」「買電価格の設定」により、IPPの導入をはかっている。

 しかしながら日本においては、電力会社の「余剰電力買取メニュー」は、あくまでも電力会社の自主的判断に基づくものであり、多くの問題点を抱えている。

 日本初のIPPである㈱山形風力発電研究所は、(株)エコロジーコーポレーション、松尾橋梁(株)オリックスの3社により資本金1000万円でスタートし、1996年1月から売電を開始し、発電コスト約10円/キロワット時、設備稼働率14~21%という好成績を示している。

 しかしながら売電を開始するまでには、多くの困難があった。買電価格については、18円/キロワット時で交渉が進められていたが、電気事業法の改正に伴い電力会社による価格の見直しが行われ、「余剰電力買取メニュー」に従い16円に変更されている。
 しかもこの買取契約は1年契約であり、価格の見直しがいつでも可能であるという、きわめて不安定なものである。

 また(株)山形風力発電研究所に対し、東北電力は「売電だけが目的の事業者から、電力を買い取る義務はない」という強硬な立場をとっていた。現時点ではあくまでも「余剰」電力の買取メニューなので、風車を設置した場合最低50キロワットの電力を消費する設備を持たなければならない。

 第三には、過剰な保安規制である。現段階ではガイドラインに従い、単独運転防止装置の設置を強いられるが、これは非常に高額なものである。

 しかしながらもともと風車は、電力系統につながないと動かないように作られており、この装置が必要になる可能性は数百万分の1しかないと言う。

 このように諸外国と比べると明らかに過剰な保安規制が、わが国では風車の普及を妨げる大きな要因となっている。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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