論考

Thesis

国民不在のエネルギー政策

1.エネルギー政策における3つの課題

(1)

日本のエネルギー需要は、1960年から1970年にかけて年率12.4%と極めて高い伸びで推移した。(経済成長率は年率10%)

 二度のオイルショックを契機に、エネルギー利用の効率化(例えば容量が同じ冷蔵庫の消費電力が約3分の1にまで削減)と大幅な産業構造の転換を背景に、79年度以降86年度までは、最終エネルギー消費全体で年率マイナス0.3%の伸びで推移したが、87年度以降、低水準のエネルギー価格を背景にエネルギー需要は増勢し、90年度までは年率4.4%の伸びで推移している。
 91年度から93年度については、景気を背景に年率1.4%と伸びが鈍化している。

 しかしながら民生部門における家庭のエネルギー消費は、景気変動の影響をあまり受けず、93年度にも92年比に対し4.3%増加している。今後も世帯数の増加、女性の社会進出、高齢化の進展などによる便利で安全なエネルギー機器に対するニーズの増大、多様な製品及びサービスに対するニーズの増大などから、この部門におけるエネルギー消費は、確実に伸びていくものと思われる。

 94年9月、総合エネルギー調査会の「長期エネルギー需給見通し」が、4年ぶりに改定された。この見通しは、今後のエネルギー政策の基本指針であると同時に、わが国の二酸化炭素排出抑制目標(90年に「地球温暖化防止行動計画」にて決定された、2000年以降90年レベルで安定化)のための道筋を示すものでもある。

 今回の見通しにおいて示されているエネルギー需要面での取り組みとしては、「エネルギー消費の伸びを今後2010年に向けて、年率約1%程度に抑制することが必要」であるとしている。一方供給面では、非化石燃料である原子力、環境にやさしい天然ガスを大幅に増やすことで、2000年における二酸化炭素排出量を1人あたり約2.6トンと計算し、90年レベルで安定化という目標を達成する見通しをたてている。

 しかしながら、この「長期エネルギー需給見通し」は、以下の3点において重大な課題を抱えている。

 まずは、エネルギー消費の伸びを年率約1%程度に抑制する事が、可能であるかという点である。通産省は、省エネルギー法の改正、省エネ.リサイクル支援法の制定、石油代替エネルギー対策特別会計に省エネルギー対策を盛り込んだ「エネルギー需給構造高度か対策」の創設など、新たな省エネ対策を展開している。
しかし、

  1. 省エネルギーマーク制度の導入などによる民生分野における省エネ機器の促進
  2. 自動車の燃費改善の促進
  3. 工場団地などにおける高効率エネルギーシステムの促進

 などは今後の課題とされており、現状の施策のままで、エネルギー消費の伸びを抑制出来るかは疑問が残る。

 次に長期エネルギー需給見通しは、92年度に2,230億キロワット時である原子力を、2000年度に3100億キロワット時、2100年度に4800億キロワット時に伸ばしているが、これはもう現時点でさえ達成不可能である。仮に既存の原子力発電所内に増設するとしても、2010年までに後10基ほどの増設は可能であろうが、ここで原子力発電所20基分の電源設備不足が生じる。(芝浦工業大学システム工学部教授平田氏による知見)

 しかしながら現実的にはさらに状況は厳しく、後に述べるような原子力発電をめぐる幾つかの社会的論点を考慮すると、原子力が今後そのシエアを伸ばす可能性はほとんどないのと思われる。

 最後に、94年の改定では、新エネルギーの供給寄与率が前回(90年)と比較すると、2000年で3%から2%へ、2010年で5%から3%へと下方修正されている。(92年では、一次エネルギーの1.2%)新エネルギーの導入は、丁度10年遅れた事になる。その要因としては、主に制度の不備が考えられよう。

(2)

新エネルギーへの支援策としては、公共施設への活用、低利融資、技術開発、補助金、電力会社による余剰電力の購入などが講じられているが、これらの施策で、下方修正された今回の目標でさえ達成出来るかどうかは、定かではない。(前述の平田氏による知見)
 94年12月、新エネルギー導入促進のため、総合エネルギー対策推進閣僚会議において「新エネルギー導入大綱」が決定され、重点導入を図るべき新エネルギーとして太陽光発電、太陽熱利用システム、廃棄物発電、コジェネレーションシステム、燃料電池、未利用エネルギー活用熱供給システム、風力発電、波力エネルギーなどがあげられている。

 ここでそれぞれの新エネルギーにつき、簡単に述べると、太陽光発電については、94年3月末現在で、約6300キロワットであった。94年から個人住宅600件を対象に電源開発促進対策特別会計を財源とするモニター事業が始まり、(予算額19億6900万円)、95年には、1000件に拡充された。(予算額32億2300万円)これにより、計算上は1家庭平均3キロワットとすると、4800キロワットが追加された事になる。

 目標としては、2000年に40万キロワット、2010年に460万キロワットが掲げられている。(2000年に40万キロワットと言う数字は、概算で現状の40倍となっている)

 太陽熱利用については、太陽熱温水器の普及台数は累積約440万台であり、92年度実績で113万キロリットル。2000年度には300万キロリットル、2010年度には550万キロリットルという目標を掲げている。

 廃棄物発電は、94年3月現在で、一般廃棄物の焼却施設1900か所のうち、発電しているものは122か所、発電設備容量は389メガワット程度である。(注約40万キロワットである)2000年度には200万キロワット、2010年には400万キロワットが目標である。

 コジェネレーションについては、94年3月現在で民生用834件(約40万キロワット)産業用1402件(約1300万キロワット)発電容量は約1340万キロワットとなており、2000年度には1450万キロワット、2010年度には2000万キロワットが目標である。

 未利用エネルギー活用型熱供給については、現在工場廃熱、変電所廃熱、下水などの温度差を利用した地域熱供給事業が、全国17地点において実施されている。現状では5万キロリットル程度であるが、2000年には27万キロリットル、2010年度には72万キロリットルが目標である。

 最後に風力発電であるが、94年導入実績は5メガワット(5000キロワット)であり、2000年には2万キロワット、2010年には15万キロワットが目標である。

2.大規模電源の社会的論点

(1)

1.で述べたように、日本のエネルギー政策は様々な社会的課題やひずみを抱えている。中でもこれ以上、原子力依存度を高める事が出来るか否かに関する議論は、今後ますます重要になってくるだろう。

 私は次のような理由から、原子力は今後発電シエアを増やす事は、ほとんど不可能ではないかと考える。
まず世界の流れであるが、巨大事故の可能性と廃棄物問題の見通しのなさが決定的要因となる、欧米では明白な脱原発の動きが見られる。廃棄物処理問題が解決しないままに、スタートしてしまった、そのつけが今になってまわってきたのである。(技術者によれば、この技術は思ったより難しかったと言うのが本音らしい)

 日本でも原発は、ほぼ飽和状態に達している。現在48基、約3,800万キロワット(94年実績)の商業用原子力発電所を有しており、「長期エネルギー需給見通し」では、今後の電力供給の中核的役割を果たす事が期待されている。
 しかしながら、原子力資料情報室の高木仁三郎氏によれば、現在建設中のもの(柏崎、刈羽、玄海)以外に、新たに原発が計画される可能性は薄いと言う。

 その第一の理由は、原子力発電の立地に至リードタイムが、70年代には7~8年、80年大には15~16年、そして90年代には26年と長期化し、立地が困難になっている事である。さらに、老朽化するほど事故.故障も相次いでいる。原発の老朽化対策と、廃棄物.廃炉問題は、今後の最大の課題である。

 1月24日の日経新聞によれば、「日本の原子力政策のかなめとなる核燃料再処理工場の建設費は、当初見積りの約2倍(約1兆1600億円)になる」と言う。建設費の回収は、電力業界が原燃に支払う再処理委託費でまかなう予定で、増額分は電力全体で年間約800億円の負担増になる。再処理コストは、1キロワット時あたり1円強になる見通しである。
 原子力の発電コストは、1ドル=124円で1キロワット時約9円程度、LNGと同水準で、石油石炭とも1円の差しかない。円高メリットが大きいLNG、石炭などは、100円前後の為替水準では、確実にコスト安である。こうした環境の中では、原子力のコスト競争力は相対的に弱くなる。

 第二の理由は、95年12月より施行された電気事業法の一部改定によるものである。
 従来は電力会社の一社独占を認め、代わりに料金サービスに対し公益事業規制を加えるという仕組みがとられてきたが、この仕組みでは能率的な経営のインセンテイブを持ちにくい事が欠点としてあげられていた。そこで英米では、「電力事業のうち競争が可能な部分には、競争を導入すること」「電力事業への規制を経営インセンティブが働くように変更すること」を内容とする改革が行なわれ、わが国も同様の改革を行なった。

 中でも電気料金制度が変更になった事は、大きな意味を持っている。日本の電気料金は、統括原価方式(レートベース方式)により決定されてきた。ここで統括原価とは、「適正価格」と「適正報酬」の和と定義される。料金収入がこの統括原価を回収するように料金水準を定め、報酬としてどの程度が適当かは、行政当局が判断するというのが基本的な考え方である。

 ここで日本の特徴は、適正原価のなかに建設中の資産(建設仮勘定の1/2)が計上されている事であった。その導入は電力不足が著しい時代、あるいは当該時点では不足していないものの、ごく近い将来に大幅な需要増大が予想されている時期には、そのための投資を容易にするものとして適切かもしれない。しかし、電力の需給関係がそれほど切迫していない場合には、過大な設備投資を誘因するという問題点がある。(室田武 電力自由化の経済学より)
 このような状況を踏まえ今回の改正では、電力会社間の間接競争(ヤードスティック競争)の成果を料金規制に反映し、料金算定のため考慮するコストを厳格に査定するという方式をとっている。つまり、電力会社間で比較した場合、高すぎる部分のコスト(建設コストなど)を料金算定のために考慮しないという内容の改革である。今後は電力会社のコスト意識が高まり、原発の建設については慎重にならざるを得ないだろうと思われる。

3.期待されるマクロな省エネ策

 1996年2月3日の日経新聞にて、「米、脱原発に拍車」というタイトルの記事を見つけた。それによれば、原子力発電は環境対策コストの向上などで新規発電所の建設が進まない一方、現在稼働している原発の40%が耐用年数を迎えるため、供給力が急速に低下する。これを補う形で天然ガス発電が増えるとし、「脱原発、天然ガス拡大」のシナリオを描いている。

 アメリカは、今後国内に豊富な埋蔵量を持つ天然ガスの開発を進めると言う。日本は、残念な事に、現時点では「2010年までに原子力を現状の2倍に伸ばす」という、いわば破綻しかけたシナリオしか有さず大変心もとない。とは言えアメリカのように自国に資源を持っている訳ではないから、事態は深刻である。

 もしアメリカ同様にこれ以上原発建設が進まない場合、増える電力需要と耐用何数を超えた原発の代替を、いかにして補っていくか。

 私は今後日本のとるべき道は、省エネルギーしかないと考える。

 戦後一貫して日本のエネルギー政策は、経済成長のためのエネルギー安定供給を至上命題としてきたが、今その方向性を大きく転換すべきではないだろうか。

 エネルギー経済研究所の資料によれば、すぐにでも出来る省エネ対策によってでさえ、3%の消費削減が可能であると言う。(その詳細については、現在調査中)

 さらに今後必要となってくるのは、需要に供給をあわせるのではなく、供給にあわせて需要を抑えていくというDSM(需要側管理)の考え方である。

 DSMは、料金メニューの多様化などを通して、需要家の理解と協力を得ながら、その電気使用の量または時間に影響を与える仕組みである。それらの仕組みは、1日の時寒帯や1年の季節を通じて、電力需要を平準化させるプログラム(ロードマネジネント)と、電気の使用量を減らすことを狙いとしたプログラム(省エネプログラム)に大別される。
 日本におけるDSMの第一人者である東洋大学教授の山谷修作氏は、「DSMはアメリカでは既にもう一般的であり、日本でも大きな可能性がある。しかし電力会社がDSMに積極的に取り組むには、第一にDSMの実施により収入減やコスト回収不足が発生しないこと 第二には、DSMへの投資が収益的になること」が必要であると言う。
 これらの条件を整備するため、アメリカは料金規制の改変に着手している。

 中央電力協議会が95年4月に発表した電力9社の95年度施設計画によれば、原子力の立地の遅れをカバーするため、石炭火力発電所の施設計画が「長期エネルギー需給見通し」を上回っていることが報告されている。現状のままであれば、これから耐用年数を超えた原発の代わりに、石炭火力発電所が多く作られる見込みであるらしいが、これではわが国が公約している二酸化炭素の安定化を達成出来ない。

 そこでDSMを制度として確立することで、耐用年数の過ぎた原発分を補っていくことは、出来ないのだろうか。さらに詳しく調べてみたいと思う。

4.再生可能エネルギーの潜在的可能性

 さらにもう一つの可能性として、環境にやさしく国内でまかなえる新エネルギーを、大幅に導入拡大することは出来ないだろうか。

 新エネルギーの中でも最も地域差が少なく可能性が高いのは、太陽光発電である。1994年には600万したものが、95年には450万まで低下しており、96年の価格は360万と予測されている。今後さらに低価格化が進むと期待がかけられている。
 現在シャープ、京セラなどが事業を展開しているが、1月30日に日経新聞によれば、三菱電機がこれに参入すると言う。同社は2000年で売り上げ高200億円、シエア20%を目指している。

 「長期エネルギー需給見通し」によれば、2010年までに460万キロワットの設置を見込んでいるが、国内では太陽光により総電力需要の45%を供給可能との試算もあることから(大阪大学浜川教授)さらなる拡大も充分考えられる。

 又現在では5000キロワット程度の発電容量しか有しない風力についてであるが、NEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)の調査によれば、全国に大型.集合風車の立地が可能な地点が、少なくとも70箇所あることが確認されている。「長期エネルギー需給見通し」の導入目標である、2010年に15万キロワットという数字は小さすぎ、せめてその20倍の300万キロワットという目標をたて、本気で推進をはかるべき、というのが多くの風力研究者の見解である。

 コストについて見てみると、キロワットあたりのコストは現時点では、太陽光発電71円、風力発電32円となっている。対する既存電源のコストは、石油11円、石炭10円、LNG10円、原子力9円、水力13円となっている。(新エネルギー財団配布資料より)
 しかしながら、これらは環境コスト、社会コストを全く考慮せず計算されたものである。さらに太陽、風力はまだ導入の初期段階にあり、今後規模の拡大が進めばどんどんコストダウンするであろう事は充分に予想されるのである。

 実際、デンマーク、カリフォルニアでは積極的に導入推進のための施策を講じた結果、今では風力エネルギーが既存の化石燃料よりコスト安になっている。
 環境先進国であるデンマークは、73年のオイルショック以降、エネルギー自給率の向上につとめてきた。73年当時の1%弱の自給率が、54%にまで高められている。その主な施策は、エネルギー税(産業用は除く)によるエネルギー消費の総量規制と、新エネルギーの普及促進である。

 私は日本にもエネルギー税により、消費を抑制する必要があると思う。そしてそれを、新エネルギーの普及と研究開発に向けることで、「長期エネルギー需給見通し」の目標(2010年に新エネルギーで3%)を上回るパーセントを、新エネルギーでまかなう事が可能であると考える。具体的にどれだけ可能であるかについては、まだ確信は持てないが、とりあえず新エネルギーをあわせて、10%くらいの目標が妥当ではないだろうか。

 マクロな省エネ(DSM、エネルギー税など)でエネルギー消費の伸びを抑制し、(総量規制に近い)既存のエネルギーの1割を新エネルギーに転換すれば、大ざっぱに考えると二酸化炭素排出量を1割削減可能である。

 ドイツ、デンマークなどは、「2005年までに二酸化炭素排出量を90年レベルの少なくとも2割削減」という目標で、本気で取り組んでいる。日本ももう一度、国民レベルでエネルギー政策を考え直してみる必要があるのではないだろうか。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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