Thesis
エネルギーは社会生活維持のためにも、経済成長のためにもなくてはならない。しかし、化石燃料の消費により排出される二酸化炭素は、地球環境破壊の一因である。化石燃料の消費を抑えながら経済発展する道はないのか。
1995年12月11日から15日の5日間にわたり、イタリアのローマにおいて、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第11回全体会合が開催され、第二次評価報告書が採択された。
報告書では、人間活動の影響によってすでに気候変動は起きつつあり、世界の温室効果ガス排出量を将来的に1990年を下回るレベルにまで削減する必要がある、それはほとんど費用を要しない省エネルギー対策など、いわゆる「後悔しない対策」によって実現が可能である、との指摘がなされている。
このように地球的規模で地球環境に対する危機感が高まっているなか、日本も90年10月に地球温暖化防止行動計画を策定し、そこで「2000年以降の二酸化炭素排出量を1人あたり90年レベルで安定化させる」ことを国際公約している。
政府のこうした姿勢を受けて、通産大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会は、94年6月「長期エネルギー需給見通し」の改定を行った。それによればエネルギー消費の伸びを2000年に向けて年率約1%に抑制し、供給面では非化石燃料である原子力と、二酸化炭素排出量の少ない天然ガスを導入拡大することで、1人あたりの二酸化炭素排出量を約2.6トンと、ほぼ90年レベルに安定化させられるということである。
しかし、この「長期エネルギー需給見通し」には次のような問題点がある。
第一には、エネルギー消費の伸びを年率約1%に抑制することが、果たして可能かという点である。日本のエネルギー消費は、第二次オイルショック以後、79年度から86年度まで年率平均-0.3%の伸び率で推移したが、86年度以降、原油価格の低迷により、年率4.4%の伸びに転じている。91年度から93年度までは景気の後退を背景に年率1.4%と伸びが鈍化しているが、民生部門におけるエネルギー消費は景気のいかんに関わりなく着実に増えており、これを抑制するには相当の対策が必要である。
第二には、92年実績において3,440万キロワットの設備容量を持つ原子力を、2000年に4,560万キロワット、さらに2010年には現状の約2倍の7,050万キロワットにまで拡大するという施策が、実現可能かという点である。原子力については考慮しなければならない問題が山積しており、90年代に入り立地から運転開始までのリードタイムが25年と長期化していることを考え合せると、電力会社がこれを供給源として重要視することは難しい状況にあると言える。
中央電力協議会が95年4月に発表した電力9社の95年度施設計画は、原子力発電所の新規立地の遅れを石炭火力発電によってカバーしようというものであったが、それによれば石炭火力発電による電力供給量は「長期エネルギー需給見通し」のそれを上回っている。石炭は埋蔵量が豊富で、可採年数が219年あり(世界エネルギー会議1992年発表)世界中に分布しているが、二酸化炭素を大量に発生するという欠点がある。二酸化炭素を始めとする温室効果ガスの増大は気候変動に大きな影響を与え、放置すれば降水量の変化や疫病の蔓延、それによる食糧生産の減少や社会不安など、深刻な事態を招くと予測されており、決して軽視できる問題ではない。
このように見てくると、94年3月に国連気候変動枠組条約の締約国として日本が負った「2000年までに90年レベルで安定化」という目標を達成することは不可能であり、それどころか二酸化炭素排出量は2010年に向けてさらに増大する傾向にあると言える。これは世界第4位のエネルギー消費大国である日本としては、真剣に取り組むべき課題である。
そこで参考にしたいのが、73年の第一次オイルショック以降、北欧の環境先進国デンマークがとってきたエネルギー政策である。驚くべきことにこの国は、73年から90年まで年率2.2%で経済成長しているにも関わらず、エネルギー消費量は全く増えていない。これは高額なエネルギー税(産業用と再生可能エネルギーは免税)を導入することで、エネルギー消費の総量規制を行ってきた成果である。
デンマークは現在、「2005年までに少なくとも20%二酸化炭素排出量を削減する」という国家目標をたて、国をあげて取り組んでいる。そして、マクロな省エネ政策と環境にやさしい再生可能エネルギー(太陽、風力、バイオマスなど)の導入推進が効を奏し、73年当時は一次エネルギー供給量の1.2%にしか過ぎなかった再生可能エネルギーが、政府の補助金や優遇税制などの施策により、90年には6%にまで増えている。とくに風力は、デンマークに多く見られるウィンドファーム(大型集合風車)での発電により、電力総消費量の3.4%をまかなうまでに成長した。
デンマークの事例から見ると、日本はまだまだ「なすべきことを放置している」と言わざるを得ない。周囲を海に囲まれた日本は風力発電に適した地形も多く、太陽光発電は日本全国どこでも可能である。本気になって二酸化炭素排出量の削減を計れば、マクロな省エネ対策と再生可能エネルギーの導入推進により、「2005年までに少なくとも10%くらい」は削減可能ではないだろうか。
今後日本のエネルギー政策をどうするか、国民的レベルでの真剣な議論が望まれる。
Thesis
Hiromi Fujisawa
第15期
ふじさわ・ひろみ
どんぐり教育研究会 代表
Mission
環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)