Thesis
平成6年12月、政府は総合エネルギー推進閣僚会議において「石油代替エネルギーの供給目標」の達成を目指し、政府ベースの基本方針として「新エネルギー導入大綱」を決定した。技術的に実用段階にあるか、自然環境などから日本で導入可能か、などの観点から重点導入を図るべき新エネルギーとして、太陽光発電、廃棄物発電、コジェネレーションとともに、その他の再生可能エネルギーとして風力発電をあげている。
この中で風力発電に関しては、欧米では相当程度の商業運転が行なわれているものであるが、「安定的な出力を得られる地点選定のノウハウが確立されていない」「騒音が発生する」等の導入制約要因があるとしている。政府施策としては導入促進のための電気事業法における保安規則の合理化、地方自治体の電力事業に対する地方債による支援措置の継続などをあげ、2000年には約2万キロワット、2010年には約15万キロワット程度の導入を目指している。
昭和49年にスタートしたサンシャイン計画は、その後省エネルギー、地球環境技術の研究開発を加え、平成5年度からニューサンシャイン計画として推進されている。風力エネルギーは、日本にも豊富かつ広範囲に存在するクリーンで再生可能なエネルギーであるが、エネルギー密度が低く、安定しないという欠点がある。これを有効利用するための研究開発が進められており、平成3年度からは500キロワット級の大型風力発電システムの開発が始まっている。(現在250キロワット級機の風力発電システムは、ある程度の経済性を持ち実用化されている)さらに平成2年度からは、中小型機の集合型風力発電の制御技術に着手しており、同年始まった風況調査は平成5年度までに「風況マップ」「風況調査手法」等の開発を行い終了した。
このように風力発電も、いよいよ本格的な導入が期待されるようになっている。現在の日本の風力発電設備は、建設中のものも含めて約9000キロワットである。
通産省資源エネルギー庁では、平成7年度から新エネルギー.産業技術総合開発機構(NEDO)による新エネルギー発電フィールドテスト事業(NEDOと相手方の共同研究)の対象として、風況調査(NEDOが100%費用負担)システム設計.設置(50%)の2本立てで風力開発を行ない、2000年までに2万キロワットの目標値達成を目指している。
風力に関する国際的な動向を見てみると、1995年半ばの世界の風力発電容量は、約4000メガワット(およそ30000台)であり、2000年には10000メガワットに迫る勢いである。(内訳はヨーロッパで4000メガワット、アメリカで4000メガワット、他の諸国で2000メガワット)
IEA(国際エネルギー機関)は1995年4月、風力エネルギーの開発状況と将来動向の調査を開始するため、オックスフォードで第1回の会合を持ったが、その中で次のような事が述べられている。
「1994年に約500メガワット導入され、1995年には1000メガワットの増加が見込まれる。過去5年間におよそ30%のコストが削減された。
商業化をすすめる2大要因としては、1.技術革新、市場の拡大、技術の習熟によるコスト低減と効率向上、2.対環境利益と市場開発による風力エネルギー価値の増加である」
EU政府には、非原子力のエネルギー分野での長期的、多国間研究開発プログラムである、ジュール計画がある。ジュール計画には、風車製造業者、電気事業者、国立研究機関、大学から多数が参加しており、1.革新大型風車(メガワット級)、2.包括的風力、3.系統連係技術などの研究開発が行なわれている。
発電コストをC円/KWHとすると、C=I+M+T/Eとなる。ここで、I=設備費の減価償却費(I円/年)M=運転維持費(M円/年)T=各種税金(T円/年)そしてEKWH/年(年間発電量)となっている。
これにより、300キロワット風力発電装置の概算は、次のようになる。
建設費
ヨーロッパ 2500万円/1台
日本 9000万円/1台
(現在は日本のメーカー11社の努力により、6000万円くらいに下がっている)
年間平均風速 5.5メートル/Sの場合
年間発生電力量 30万キロワット時
発電単価 ヨーロッパ、米国11.1円/KWH
日本41.8円/KWH
年間平均風速 8メートル/Sの場合
年間発生電力量 80万キロワット時
発電単価 ヨーロッパ、米国4.3円/KWH
日本 15.6円/KWH
今日の日本において、大規模な発電能力を持つ技術は、水力、火力、原子力であるとされており、それぞれの発電コストは次のようになっている。
一般水力 3.91円(/KW時)
火力 9.81円
原子力10.57円
総合 9.82円(室田武地球環境の経済学より抜粋)
風力エネルギーに関しては、過去5年間で30%のコスト削減がなされたように、新技術によりさらに10%のコスト削減が見込まれている。(日本では10%ではまだまだ不十分)それを支えるものとしては、革新概念の導入であって、ダイレクトドライブ、軽量化、ピッチ制御システム、プレートの新翼形の開発などがあげられる。
アメリカでは、米国エネルギー省と国立再生可能エネルギー研究所が、高性能の革新風車を開発し、又風力産業を支援するAWT計画(Advanced WindTurbineProgram)を推進しており、風速5.8メートル毎秒の風況下でのキロワット時4セントまでのコスト削減を目標にしている。
海外では、コストを試算する際には必ず、「風力発電により、これだけの二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物が抑制された」といった環境評価を行なっている。有害物質を回収するための、環境対策費はまだ定量化されておらず、大変残念な事である。しかしながら発展途上の技術開発において最も重要なことは、未来の価値を従来のコストという経済的価値だけで判断しない事ではないだろうか。
1991年には、僅か100メガワット(現在の日本の10倍である)であったのが、1995年には800メガワットを超えるまでになり、今年度には1000メガワットを超えるものと思われている。設置台数も1991年には1000台弱であったのが、95年には3000台以上にも達した。
同時に風車は確実に大型化し、1987年には平均が約50キロワットであったのが、今年度には約500キロワットになっている。
ドイツにおける補助金の中で、最も重要なのは、EFL(ElectricityFeed Law)と250メガワット計画である。EFLでは電力会社は、個人生産者から風力を買い、平均電力料金の90%を払う必要があるとしている。250メガワット計画では、投資補助金が浮力発電業者に直接与えられ、さらに事業資金にも与えられた。250メガワット計画がほとんど終り、資金もつきかけた時に、大きな成長が始まっている。
さらには、風力発電技術の確立を狙って、R&D補助金が特に、ジャンボプロジェクト(大型風車が有利になるような技術開発)に集中してつぎ込まれた。1974年から1993年までに、ドイツ調査省は風力発電の研究開発に、3億2千8百万DM(約233億円)を費やしたが、その内訳は約1億2千万DM (大型風車)約1億DM (小型風車) 約7千万DM (250メガワット計画) 約3千8百万DM(その他)となっている。一方ドイツでは、毎年石炭による火力発電に70億DMの補助金を費やしていることも、検討されるべきである。
ドイツにおける風車の設置容量は、今年度には1000メガワット(1ギガ)を超える勢いであるが、ドイツにおける全電力設備容量(105ギガワット)に比べれば、まだ微々たるものである。R&D補助金の約1/3は、風力エネルギーの利用を積極的にしていないのにもかかわらず電力会社に与えられ、現在風車市場で主流になっている企業には、僅か2.4%しか与えられなかった。この事実から公的資金の使われ方に問題があったとも言えるだろう。
ドイツにおいては、補助金政策は発電を化石燃料から再生可能エネルギー源にかえるための強力な手段として使われたのではなかったと言える。政治家は再生可能エネルギー発電に関しては、全く無知である。これは電力会社の重役にも当てはまる。石炭火力発電がドイツではコストが高いことを考えると、今日においては風力発電をミックスしたコンバインドプラント(ガス プラススチームタービン)の方が賢い選択である。
風力発電とミックスさせたガス発電は、アジア太平洋地域において爆発的に伸びるであろう。アジア太平洋地域には、巨大な風車市場が存在する。
中国やインドでは、除塵フィルターをつけただけの巨大な石炭火力が、次々に建設されている。これらの発電所から出る汚染物質は、燐国にも酸性雨などの多大な影響をもたらす。経済的な競争力がつけば、風力発電はこれらの地域において、重要な地位を占めることになるだろう。
風力発電の普及の成功のためには、政治家、電力会社、大企業にその早急な必要性を理解させるところから始めなければならない。中心を担う機関、企業はその重要性に気づけば、風力発電は自然にスピードアップするはずである。
NEDO(新エネルギー.産業技術開発機構)の最新の調査によれば、全国計で3,524万キロワット(最大)~687万キロワット(最小)の風力発電設置可能量があり、この内東北地方は、全国の約1/4を占めている。
最上川の上流、庄内平野の東南にある山形県立川町は、冬は北西の季節風、夏は「清川だし」と呼ばれる南東の風が吹き、年間を通して強風に悩まされてきた。農作物に被害を与えるこの風は、長い間立川町に住む人々の厄介者だった。しかし今、この風を逆手にとった、新たな試みが始まろうとしている。
平成5年(1993年)5月。この町に3基の中型風車がたてられ(定格出力100キロワット)稼働を開始した。立川町の年間平均風速は平成5年 5.2メートル、平成6年4.5メートルである。年間平均風速が5メートル程度であれば、風力発電は可能であり、立川町はまさに適地と言える。
1993年には、3基あわせて年間24万キロワット時を発電し、そのうち自家使用分を除いた22万キロワット時を東北電力に売電した。(一家庭で使う電力量は年間約3000キロワットであるから、これは約80世帯分)売電価格は、最も電力需要の多い7、8月は19円、その他の月は17円で設定され、93年の売電収入は370万円である。
しかしながら、94年には「風が少し弱くなったこと」から、発電電力量は15万キロワット時に、売電収入も270万円程度に落ちてしまった。
「年間300万くらいなら、大体予想通りです」
立川町風車村センター、企画課の橋本さんは言う。「私達は、売電を目的としてやっている訳ではありませんから」
では、風車をたてる一番のメリットは何か、と聞いてみた。
風車が出来、全国で初めて売電を開始し、「風」をテーマにした町おこしを始めた立川町であるが、93年いきなり観光客が3万人に増えた。94年には4万5千人、そして今年は11月の段階で、もう既に4万人を突破している。
「全く無名だった立川町が、全国的に注目を集め、町に活気が生まれてきた。ゼロから始めて、4万人の観光客が増えた。それだけでも、すごい事ではないでしょうか」
これからは町の特産品の開発などに、力を入れる方針だと言う。
立川町風車村整備計画アクションプログラムという冊子がある。この中では、広がるニューウィンディ計画として、3本の柱をたてている。
これらの計画の基本コンセプトは、「小さな町の小さな規模での環境問題への行動」 「全国でも有数の強風地帯として知られる地域特性を生かし、個性的で魅力ある町を創成する」立川町の取り組みは大変ユニークである。「一番大切なことは、立川町にしかできない町づくりを行なうこと」であると宣言するこの町に、私は新しさと大きな可能性を感じたのである。
さて具体的に立川町のアクションプランは、ハードとソフトの2つの事業に分けられる。ハード事業としては、1993年にアメリカ製風車3基(1基3千万円)を設置。保護装置などを含めると、総額2億4千万円の事業であるが、これは自治省の起債事業(地域づくり推進事業)として行なわれた。よって費用の半分は、地方交付税によってまかなわれる。残りは一般財源の中から20年計画で返済していくと言う。
「売電によって得られる300万は、メンテナンス費用くらいに考えています」
橋本さんは言う。売電を主目的に考えるなら、立川町の中でももっと、風力発電に適した場所はある。実際、来年1月にはエコロジーコーポレーション、オリックス、松尾橋梁の3社共同出資による「山形風力発電株式会社」が設立され、最も風の強いところに風車を設置し、年間2千万円の売電収入を見込んでいる。
「全国で始めての大規模な売電ということで、通産省や電力会社のチェックも厳しく、保護装置もフジ電気の特注で、高くついた。今ならもう少し安くなっている」橋本さんは残念そうに言う。
しかし、実際に風力発電を稼働し、全国で初めて売電による実績をあげた事に対する反響は大きかった。これまでに多くの自治体が立川町を視察に訪れ、風力発電を検討中と言う。
ソフト事業としては、小中学生対象の「風車コンテスト」や「風の講演会」「風のサーカス」などがあげられる。これらのソフト事業の幾つかは、既に恒例となっており、他県からも多くの参加者を集めている。
最後に、橋本さんが見せてくれたのは「風トピア 立川町風車村構想」と題する、1枚の図表である。将来的には町全体を「風トピア」にしたい、橋本さんは考えている。
「風の彫刻広場、風のホテル、風の芸術館。町の人達が、どんどんアイディアを出してくれました。今はまだ夢みたいな話ですが」
夢は夢でも、全く不可能な話ではない。今後は、国、県、又民間とも協力しあいながら、様々な話を進めていくと言う。
風をテーマに町づくり。立川町は未来に向かって、確かなデザインを描きながら、一歩ずつ歩きだそうとしている。
Thesis
Hiromi Fujisawa
第15期
ふじさわ・ひろみ
どんぐり教育研究会 代表
Mission
環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)