論考

Thesis

ドイツ、デンマーク視察ツアーに向けて

1.はじめに

 5月18日から26日まで、ドイツ、デンマークの環境政策を視察するツアーを企画した。今回は、「ゼロエミッションツアー」という事で、徹底した循環型社会の構築をめざすドイツを中心に、企業、行政、環境NGOへの視察を行う。

 ドイツでは、特に日本でも大きく取り上げられている循環経済法と、それが企業や消費者にもたらす影響について様々な角度から調査したいと考えている。

 また日本で本を読むだけでは分からない、制度的.文化的背景(実はこれが最も重要である)についても、現地でヒアリングをする中で考えていきたい。諸外国の政策が、どういう土壌のもとに生まれたのか、それを考察せずに「ドイツやデンマークでは、こうなっている」という報告書を書いても、あまり意味がないからである。

 ドイツと日本における、1経済的条件 2技術的条件 3社会的需要性などの差異に対し充分に考慮しながら、視察やインタビューを行い、今回のツアーを意義のあるものにしたいと思う。

 視察先とその主な内容は、以下の通りである。

 

ドイツ 

1ジェトロ 循環経済法の背景 将来ビジョン 

2ジーメンス社 コンピュータの環境評価で一位になった取り組みと、その効果 将来ビジョン 

3フライブルグ環境局
  フラウンフォーマー太陽光研究所
  BUND(ドイツ最大の環境NGO、政党へのロビー活動も活発)
 

4緑の党 循環経済法 経済構造改革 地方分権 国際協力など 

5教育現場 小学校における環境教育

 

デンマーク 

1リサイクルセンター 

2廃棄物情報センター 

3デンマーク工科大学

2.ドイツの循環経済法

 1996年10月、ドイツでは、1986年制定の廃棄物法の全面改定法として、1994年に成立した「循環経済.廃棄物法」が発効した。

 この法律は、「廃棄物は産業界の責任において処理するのが基本であり、製造者の責任は製品のリサイクルまで、製品のライフスタイル全体に対して負うべきである」「廃棄物の処理は新たな次元に到達しなければならない。私達の社会は、廃棄物の処分から、未来指向の廃棄物管理へ歩み出す事が求められている」という、テップファー前環境大臣の強いイニシアチブの元で、産業界との多くの議論を経て策定された。

 この法律は、環境保護政策上の廃棄物管理と結び付いて、まず第一に廃棄物の発生を抑制することが優先されている。それは、製品の開発.設計段階から、流通.消費.廃棄に至る全ての段階で廃棄物の発生を減量し、同時に有害性を低下させることを意味している。

 次に、徹底した循環経済の構築を目指し、回収した廃棄物は優先的に素材(又は熱源)としてリサイクルすることを要求し、技術的に可能でコスト的にも廃棄物処理費用とみあう程度であれば、リサイクルされることが強制されている。

 これにより、ドイツは資源の無駄を極力避け、発生した廃棄物は再生していくことを中心とした「循環型経済社会」に向けて、積極的に動き出したのである。

 ここで大きなキーワードになっているのが、「製造者責任」です。日本では、廃棄物処理に関しては、自治体の責任が大きくなっていますが、それももう限界にきている。

 ドイツでは日本にさきがけて、製造者に対し、製品の再使用性や耐久性を考慮した製品設計を要求し、さらに製品の回収とリサイクルの責任を厳格に規定しているのである。

 使用後の製品は、「循環経済法」の定義により、利用不可能で、処分すべき廃棄物と、利用可能な廃棄物に分けられる。
 製造者はこれに照らし、自らの経済活動を行わなければならない。回収された廃棄物の不法な処理を防止するために、企業は廃棄物の種類、分量、処理に関する証拠書類を常備し、監督官庁等の要求に対しては提示の義務を負っている。

 このような厳しい規制に対し、現状ではまだ企業の対応状況は遅く、特に中小企業の半数近くは準備段階であると言う。産業界の抵抗も、決して少なくはないそうである。

 しかしながら大事な事は、多くの困難を抱えながらも、理想的な将来の「持続可能な循環型社会ビジョン」に向けて、大きく一歩を踏み出した事なのである。

 ドイツ連邦環境省庁は、将来的には「産業を製造業から、サービス業に変えること」を考えていると言う。つまり、自動車会社は自動車を売るのではなく、自動車を貸すというサービス業に変わるのである。となると、使用が終った自動車は無条件に自動車会社に引きとられ、リサイクルされる事になり、資源の無駄は極力少なくなる。

 このように、将来の理想的なビジョンを描き、そこから「今何が必要かを考える」という政策決定のありかたは、大変合理的であり、ドイツ、デンマーク、スウェーデンなどに共通しているように思う。

 ドイツ、デンマークが「持続可能な将来ビジョン」をどう考えているのか、それを知る事はまだ、廃棄物の処分場の延命策をどうするかを議論している日本にとって、大きな意味がある事は間違いない。

 そしてこれらの国々に共通しているのは、社会の変革に向けた政治の情熱と、強いリーダーシップである。この点についても、日本は多くを学ぶべきではないだろうか。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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