論考

Thesis

日本は何故変らないのか

1.はじめに(日本は何故変らないのか)

 在日オランダ人ジャーナリスト、カレル.ウォルフレンはその著書、「日本権力構造の謎」「人間を幸福にしない日本というシステム」の中で、幾つかの鋭い問題提起を行なっている。
 その中心となるのは、「日本には国家はなく、ただシステムがあるだけ」と言う主張である。ウォルフレンは、その理由として次の2点を挙げている。

  

1 アカウンタビリティ(説明責任)の不在
 

民主国家においては世論が究極の権威の源泉であり、この権威に対し説明責任を負うこ とを条件として、リーダーには強力な権限が与えられている。しかしながら日本には、権力を行使するものが当然負うべき、説明責任がない

  

2 権力の中枢の不在
 

日本の権力は、多数の組織に分散されていて、それらは主権者としての選挙民に責任を 明確にすることもない。どの組織も(政財官界、マスコミ、農協など)国の政策の最終責 任をとったり、緊急を要する国家問題に対し決定を下すだけの力はない

 このような日本の権力構造には、民主主義のゆらぎと法の支配の不在を見る事が出来る 。
 政財官界その他の有力グループは、市民や選挙民に何ら説明責任を負うことなしに、社会に重大な影響を及ぼす政治的意志決定を行なっている。

 それは、一般的には現状を維持する目的で、そのグループ自身の力と既得権益を維持するために行なわれている。私はそこに、日本が抱える最大の問題点があると思う。

 これに対し、ウォルフレンは「アカウンタビリティ」の重要性を説いている。
 政治的意志決定の過程を公開することで、討論の対象とし、討論による政策の変更を可 能にするのである。
 しなしながらこれを実現化するのは、相当の困難が伴うだろう。

  ウォルフレンは「最も可能性があるのは、市民がマスコミや官僚、政治家を教育すること」であると言う。
 特に日本には、官僚をコントロールする政治家がいない。政治家の多くは、業界の代表 者になりさがっている。そのような政治家の存在を、官僚は大して重要な存在だとは思わない。しかしながら管厚生大臣のように、世論を味方につけている政治家は、官僚と言え ども決して無視することは出来ないに違いない。
 これからは業界の代表者でなく、官僚に対抗しうるような度胸と使命感を持ち合わせた 政治家を、いかに数多く排出していくかが日本を変える鍵になってくると思われる。

2.地域発ゼロエミッション

 私は今、藤沢市環境部において研修をさせて頂いている。
 藤沢市は現在、環境基本条例と環境基本計画の策定に向けて、準備を進めているところ である。
 環境部の意識は相当高まっているのだが、残念ながらそれが他事業部にまで浸透してい るとは言えない。都市計画や河川改修のありかたまで含めた「環境自治体」を創造してい くには、まだまだ多くの問題を抱えている。
 しかしながら、8月2日には「建設指導課」が「生物多様性と自然保護」に関する第一 会の勉強会を開くなど、大きな変化が見え始めている。

 開発と経済を優先させてきた、町づくりそのものが、今見直され始めている。今後はそ れを、いかに大きな流れにしていくかが重要になってくるだろう。
 環境問題を考えるにあたり、地域や行政の果たすべき役割の大きさが、クローズアップ され始めている。
 先月25日に国連大学において、「地球環境時代におけるゼロ.エミッションの地域からの発信 ~ゼロ.エミッションによる持続可能な地域づくり」と題する、意欲的なシン ポジウムが開催された。

 国連大学には現在「持続可能な社会」に関する4つのプロジェクトがあり、「ゼロ.エミッション」はその一つである。
 シンポジウムの冒頭で、国連高等研究所長代行のT.デラセンタ氏は「地球環境問題を解決するには全員が参加し、調和のとれた全ての人に受け入れ可能な結果を求めなければ ならない。財界の見方や技術、NGOの意見を全て統合化する事が重要である。ゼロエミ ッションという思想を、地域の中にいかに定着させていくかが鍵である。これが成功すれ ば、ゼロエミッションは産業のルネッサンスとなるだろう」と挨拶した。

 その為には長期的なプログラムが必要であり、研究開発、教育(学校、マスコミ、コミ ュニティ)などを同時に進めていくことが重要である。

 産業革命以降の「資源の搾取、生産、流通、廃棄」の一方通行の産業システムを、持続 可能な産業システムに変えていく事が急務であるが、その為には産業そのものの「エコリ ストラ」が迫られている。

 これを実現するための戦略的アプローチとしては、次のような点が挙げられる。

  1. 主要な産業部門を想定する
  2. 製造過程の見直しを行う(よりクリーンな技術が導入出来ないか)
  3. 産業そのもののクラス分けを、やり直す(互いの廃棄物を他の産業で有効利用出来な いかなど)

 ゼロエミッションで特筆すべき事は、ただ単に「ごみ」を少なくするのみならず、地域 という単位で供給.利用システムを工夫し、エネルギー.水.ごみ.交通などをトータルに捉 え、地域の環境への負荷を限りなく小さくしていこうという発想を持っていることである 。これに基づき、沖縄県.北海道帯広市.京都府木津町.愛知県瀬戸町.山梨県などで、さま ざまな試みが行われつつある。

 限られた地域の環境容量の中で、「環境技術とシステムの開発」「地域での雇用の創造」を実現しながら、エコロジカルな街づくりを進めようというゼロエミッションプロジェ クトには、私も大きな期待をかけている。(と言うよりこれが成功しなければ、日本は深 刻な危機を迎えることになると考える)

 今後は藤沢市役所での経験を生かし、藤沢市の「ゼロエミッションプロジェクト」につ いて、考えていきたい。

3.環境保全型行財政改革の必要性

 日本の環境政策は、私が調査したドイツ.デンマーク.スェーデンなどの環境先進国と比 べれば、大変遅れていると言わざるを得ない。

 その理由として「国民の意識の低さ」や「道徳の欠如」をあげる人は多い。しかしなが ら意識の差もさることながら、社会のシステムそのものが大きく違っていることは事実で ある。

 財政、貿易、税体系などを見ると、日本は「環境破壊型」のシステムになっているとこ ろに一番の問題点がある。
 例えば、道路行政や建設行政は、環境への配慮(エネルギー消費の削減、生態系への保 護など)を口にしながら、実際はほとんど正反対の事をやっている。環境税の導入には、 激しい抵抗があり、「フリーライダー」が相変わらずのさばり続けている。

 そこで時代遅れの投資を含め、日本の財政そのものを根本的に見直し、合わせて「環境 保全型」の財政改革、それを実現するための「行政改革」を、強く訴えていく必要がある 。この点に関しては今、最も興味を持っているので(新党の政策になるように?)詳しく 調べ、まとめてみたい。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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