論考

Thesis

ドイツ、デンマークのエネルギー政策(その2)

1.はじめに

 デンマークではまず初めに、風車協会(1978年発足)を訪問した。
 現在協会の会員数は9761名。デンマーク国内にある3800台の風車のうち、民間所有は2150台であり、その所有者たちがこの協会の会員になっている。

 デンマークでは、個人で風車を所有するケースもあるが、10~20人が共同で大型発電風車を設置することが多い。

 デンマークの風車の設備容量は現在620メガワットであるが、(世界第三位)その内訳は、電力会社所有(180メガワット)個人所有(220メガワット)共同所有(220メガワット)となっている。

 これまでデンマーク政府は風車を普及するために、助成や税制上の優遇措置など様々な制度を整備してきた。

 1989年までは風力発電への投資に対し、30%の助成が行なわれている。(風車の設置コストがダウンしたため、今日では廃止)

 発電コストについて見てみると、今年の4月、エネルギー庁は「経済的観点からみた電力の生産コスト」と題する報告書を作成している。それによると風力発電のコストは1キロワット時あたり20~22円であり、石炭と比較すると1キロワット時10~15オーレ(2円弱)安いレベルにまでダウンしていることが分かる。

 このような報告を踏まえ、デンマーク政府は環境にやさしく、経済的である風力発電をさらに推進しようとしている。風力発電は現在、電力需要の4%をまかなっているが、2005年にはこれを10%に拡大する見込みである。

 そのため1992年、政府は「風車に関する法律」を制定し、大型のウィンドファームが作られた場合には、それを支える送電線の強化は電力会社の負担により行なうものとした。又同時に行なわれた国土利用法の改正により、(国土利用法は5年に一度改正)各コミューン(自治体数275)はそれぞれ3~5箇所、ウィンドファームの適地を選定する義務を負っている。適地とされた場所には、1箇所につき3~5台の風車が設置されなければならない。

 風車の設置に対しては、それが「景観を悪くする」という小数意見もあるらしいが、アンケートをとると、デンマーク人の8割が「風車の設置に賛成」と答えると言う。

 今回の訪問で、私はコペンハーゲン郊外にあるアミドホルムという所にあるウィンドファームを見に行った。オレンジ色の夕焼けがあたりを染める中、海風を受けて勢い良くまわる大型発電風車(現在デンマークで主流の600~1000キロワット級)は、勇ましく感動を覚えた。

 海岸に13台の大型発電風車がずらりと並んだウィンドファーム。それは新たなエネルギーの時代の到来を、確かに感じさせている。

  2.デンマークのエネルギー政策

 このように風力発電の普及に力を入れるデンマークは、エネルギー問題を環境問題ととらえている。このような観点から1980年代の後半からは、環境汚染を出来るだけ減らした「持続可能なエネルギーシステム」の構築に積極的に取り組んでいる。

 1992年には、エネルギー庁と環境庁を「エネルギー環境省」に格上げし、さらにエネルギー庁のなかに「再生可能エネルギー」のセクションを設けた。

 最新のエネルギー政策は「エネルギー21」と呼ばれるもので、(1995年国会で決議)2005年までに二酸化炭素排出量を88年レベルの20%削減し(これは義務化されている)さらに2030年までに50%削減しようという大変意欲的なものである。 このエネルギー21の中には、持続可能なエネルギー源として「風力、バイオマス、森林、太陽」などの潜在的可能性がどのくらいあるか、それを導入するためのコストがいくらかかるかなどの、詳しい報告書がおさめられている。

 ここでデンマークのエネルギー政策の決定プロセスについて、簡単に述べてみたい。
 エネルギー環境大臣の大臣室には、エネルギー分野の専門家が3人配置されており、彼らとエネルギー庁の職員が大臣の直接の諮問機関である。

 エネルギー庁の職員は、エネルギー政策の原案を作り、(その際、大臣の意向がかなり反映される)これが国会の常任委員会にかけられる。実際の意志決定は、様々な角度からの質疑応答の末、このエネルギー常任委員会で行なわれている。

 95年に決定された「エネルギー21」は、現在の大臣(社民党の大物。後述のニールス.メイヤー教授の友人で再生可能エネルギーに深い理解を示す)の名前を取って「アウケン.プラン」と呼ばれている。エネルギー環境大臣は現在閣僚の中でも重要なポストとなっており、大臣の資質はデンマークのエネルギー政策に大きな影響があると言う。(このあたり、日本の政策決定プロセスとは、かなり大きな違いがある)

 この「エネルギー21」は、1990年の「エネルギー2000」(持続可能な発展を目指した行動計画)に引続き、「持続可能」であることに第一の優先順位が置かれている。2005年までの主な目標値は、「二酸化炭素20%、二酸化硫黄60%、二酸化窒素50%減」であり、一次エネルギー消費は15%削減するとなっている。

 また一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を、現在の5%から12%にまで拡大する事を目標にしている。

 2030年の段階ではこれをさらに上回り、「二酸化炭素排出量を50%削減、一次エネルギー消費量を55%削減、そして再生可能エネルギーの割合を35%にまで増やす」事を目指している。
 これを達成するための新しいイニシアチブとしては、次のようなものがあげられる。

     
  • 1電気料金1キロワット時あたり0.6オーレが新たに加算され、年に約1億クローネ(20億円)が1998年から基金として積み立てられる。このお金は、省エネのための設備投資に使われる事になる。 
  • 2オフィスビルのエネルギーと水の消費削減に関する建築基準法の改正 
  • 3公共セクターにおけるエネルギー使用のさらなる効率化 
  • 4省エネと再生可能エネルギーのプロモートに関する研究機関の設立 
  • 54000メガワットの洋上ウィンドファーム構想 
この「エナジー21」を実現するためのコストは、試算によると 1996年~2005年までは  3億クローナ 2005年~2020年までは  8億クローナ 2020年~2030年までは 18億クローナとなっている。            (デンマークのGNPは1兆クローナ) 再生可能エネルギーの必要性を早くから訴え、デンマークのエネルギー政策と深い関わりをもってきたニールス.メイヤー氏(センマーク工科大学教授)は、「デンマークのGNPに比べれば、これらのコストは大した額ではない」と言う。

 今回の調査ではデンマーク工科大学に氏を訪問し、氏の環境問題に対する考え方やデンマークのエネルギー政策の変遷などを聞くことができた。

 デンマークは、原発に依存しないエネルギー政策を選択した国であるとして有名であるが、その蔭にはメイヤー氏など「再生可能エネルギーの有用性」を主張する学者達の、並々ならぬ努力があったと言う。

 ここでデンマーク政府のエネルギー政策を簡単に追ってみると、76年に発表された公式のエネルギー政策の中には、原子力が必要なエネルギー源として組み込まれていた。しかしわずか4か月後、メイヤー氏ら7人の研究者は「原発を必要としない」エネルギー計画を発表する。

 1981年のエネルギー政策の中でも、原発は計画の中にあった。メイヤー氏らは83年「原子力のないもう一つのエネルギープラン」と題する報告書を再び発表。国民的議論の末、85年に政府はとうとう「原子力を導入しない」と公式な決定を下したのである。 そして90年に発表された「エナジー2000」(通称グリーンプラン)は結果的に、83年にメイヤー氏らが出したプランと、ほとんど同じ内容のものになっている。

 再生可能エネルギーの必要性を早くから説いていたメイヤー氏らの意見が、7年後の政府のエネルギー政策として採用されたのである。

 このようなデンマークのエネルギー政策の歴史を、当事者の一人であるメイヤー氏の口から聞けた事は、大変貴重な経験であった。

3.終りに

 「私達はこの地球を使って、失敗の許されない実験をしている」講義の最後に、メイヤー氏は言った。

 メイヤー氏は環境問題、中でも二酸化炭素排出量の増大による気候変動問題を深く憂慮している。
 メイヤー氏が黒板を使って説明してくれた理論によると、地球の気候を安定化させるためには年間25ギガトンの全世界の二酸化炭素排出量を、10ギガトンに削減する必要がある。

 しかしながら、中国、インド、インドネシア、などの途上国が、経済発展を進めるための石炭と石油の利用を控えることは期待出来ず、 一歩間違えばそれは「エコファシズム」となってしまう。

 これを回避する唯一のシナリオは「先進国が自らの責任において、二酸化炭素排出量を削減すること」であるとメイヤー氏は言う。

 「これはモラルと民主主義の問題である」という氏の言葉が、最後に強く心に残った。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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