Thesis
1.はじめに
9月29日から10月7日まで、環境先進国として知られるドイツ.デンマークの脱原子力.再生可能エネルギー導入を中心とするエネルギー政策を調査した。
調査日程は、以下の通りである。
ドイツでは、既に原子力に対する優遇政策の廃止を盛り込み、電気事業法を改正し、再生可能エネルギーの導入に関する取り組みを進めている。
このような観点から、連邦経済省、緑の党、先進的なエネルギー政策を持つアーヘン市、フライブルグ市などでのヒアリングを中心に、調査を行なった。
またデンマークはよく知られているように、原発に頼らないエネルギー政策を押し進め、風力やバイオマスなどの再生可能エネルギーを、第一次オイルショック当時から戦略的に導入してきた国である。
現在では、「エネルギー21」という、大変野心的なエネルギービジョンを掲げ(2030年までに二酸化炭素排出量を50%削減、再生可能エネルギーを35%導入、エネルギー消費量を55%削減など)国家レベルで取り組んでいる。
「デンマークだけが努力しても、無駄だ」という産業界の反対を振り切って、政府が何故このようなエネルギービジョンを策定することに成功してきたか。
この点については、デンマークのエネルギー政策に73年当時から関わってきた、ニールス.メイヤー教授に、詳しく聞く事が出来た。
2.ドイツのエネルギー政策の転換
ドイツの一次エネルギー総消費量とその内訳は、石油(41%)石炭(18.9%)褐炭(8.2%)天然ガス(17.5%)原子力(12%)再生可能エネルギー(水力、太陽、バイオマス)となっている。
日本と同じく約1割を原子力に依存しており、現在の原子力発電所の規模は、26箇所で出力23.6百万キロワットである。
ドイツ政府は95年12月、長期エネルギー消費見通しを発表したが、それによると2020年までに石炭を831Pジュール、石油を164Pジュール、さらに原子力を259Pジュール(92年の17%減)削減するとしている。 P=ペタ=10の五乗
私がヒアリングを行なった、ドイツ連邦経済省第三局エネルギー政策担当のシュルツ氏は、「現在のエネルギー体系は、様々な環境破壊を引き起こす。持続可能な社会に向けた新しいエネルギー政策を具体化しなければならない」と話してくれた。
の4点に集約されると言う。
ドイツ連邦政府は気候変動への深刻な危機意識から、2005年までに二酸化炭素の排出を1987年レベルの25~30%削減することを目標としている。
日本は2000年迄に、1990年レベルで二酸化炭素排出量を安定化させる事を目標としており、二酸化炭素排出量を削減するために原子力を推進するというエネルギー政策(長期エネルギー需給見通しをとっている。一方ドイツでは日本とは対象的に、むしろ「脱原子力」の方向で、省エネと再生可能エネルギーを中心とするエネルギー政策への転換をはかっている。
「ドイツでは、二酸化炭素排出量を削減するために原子力を推進するという意見は、もうないのか」と問うと、
「それも一つの方法ではあるが、エネルギーの効率的な利用の方がより効果的である」という答えが返ってきた。
ここで少しドイツの原子力政策について見てみたい。
ドイツ国内では原子力をめぐる長いホットな議論(安全性やコストなど)の結果、現在では1高速増殖炉の開発中止2既存の原発も徐々にストップさせるという原子力政策をとっている。
しかしながら、かつてはドイツにおいても高速増殖炉(SNR300)が計画されていた。ドイツの田園地帯、オランダ国境のカルカーの地では、それに反対する数万のドイツ市民が結集し、猛烈な反対運動が繰り広げられたと言う。
ドイツの原子力産業界と政府がSNR300の建設を決定したのは、1970年の事である。
工事は73年に着工し、臨界は91年と定められた。
しかしながら、84年、85年と危険な事故がおこり、それを緑の党などが暴露したことから86年7月、ノルトライン.ベストファーレン州の原子力安全部(カルカーの認可当局)は、プルトニウム燃料棒の持ち込みを許可しない方針を決めた。
それに対し、原子力産業界は「見通しのないプロジェクトに投資を続ける事は不可能」と判断。そして91年3月、ドイツ政府は75億マルク(当初の予算は5300マルク)約6400億円を投じた巨大なプロジェクト、SNR300を断念することを決定した。 ドイツには、核燃料サイクルを自前で完成させようという計画があったが、再処理工場の建設も89年に中止されている。
さらに94年7月の原子力法改正で、いかなる事故でも敷地外に放射線の影響が出ないようにするという、守るのが困難な規制が設けられた事により、新規の立地は事実上不可能となった。
同時に原発の使用済み燃料は、従来再処理が義務づけられていたが、直接処分もみとめられるようになった。これによりドイツの電力会社はコストの安い直接処理に向かうものと考えられている。
こうしてドイツでは、原子力から天然ガスや太陽、風力などのエネルギーへの転換が今まさに行なわれつつある。
このため、ドイツ連邦経済省では1再生可能エネルギーの必要性を訴える2普及のための条件を整える3再生可能エネルギーなどの専門家を教育する などの政策を取り、1996年度は2億3千マルク(約180億円)をこれらのプログラムに投じている。
なおドイツ連邦経済省は、1974年から約40億マルク(3200億円)を、再生可能エネルギーの研究開発と普及のために費やしている。
主な用途は、太陽光発電(1000ルーフプラン 日本の通産省の一般家庭への助成のモデルとなった)に8千万マルク、風力発電(250メガワット計画)に3億5千万マルク、水力、バイオマス(2000プログラム)に1993年から1億マルク。さらに地熱と、第三世界における自然エネルギー活用プログラム(エルドラど計画)に対し、1991年から4千5百マルクが費やされた。
同時に連邦経済省は、1991年から1995年までの間に、20億マルクの融資を行ない、省エネの為の設備投資を促している。
また再生可能エネルギーの普及のため、「余剰電力の買い取り法」(1991年実施)により、電力会社に太陽光と風力からの発電電力の買取を義務づけている。
このような政府の政策により、2010年までに再生可能エネルギーは、一次エネルギー供給量の5~10%になると予測されていると言う。
3.緑の党、エコ研究所(フライブルグ)のエネルギー政策
ドイツ政府のエネルギー政策に対し、緑の党はさらにラジカルな意見を持っていた。
緑の党は、エコ研(環境保護の立場から40人の発起人によって1977年に創設された政策集団)に委託して、「1997年原発即時停止、2020年には再生可能エネルギーが一次エネルギーのかなりを占める」という私達の常識からすれば、すぐには信じがたいエネルギービジョンを掲げている。
緑の党のエネルギー政策の担当者は、「私達のビジョンは十分現実性がある。」と話していた。
その為には、
などの条件が必要であると言う。
さらに「緑の党は次回の選挙で政権に入り、このエネルギー政策を実現する」と非常に頼もしい発言をしていた。
緑の党によれば「ドイツ政府はエネルギー消費を増やしてはならない」と考えるようになっただけ進歩している。(?)
しかしながら彼ら自身のシナリオによると、2020年には一次エネルギーの消費は約3分の2になり、水力、風力、太陽、バイオマスによりその20%をまかなうことが可能になる。(残りは天然ガス31%、石油37%など)
このビジョンを作り上げたエコ研は創設以来、再生可能エネルギーの利用と省エネ工学の問題を研究しており、その経済的な分析もしている。
特に、現在のエネルギー独占企業を地方分散化して、各地域の条件にあったエネルギーを利用し、省エネを促進する方向でエネルギーを供給するエネルギー公共サービス企業にかえる必要があることを提唱している。
現在、エコ研は主に5000人のメンバーからの会費と、調査研究委託費により運営されており、60人の正職員がいるそうだ。
緑の党とエコ研究所は、私にとっては非常に興味深く、ここを訪問したことは大きな収穫になった。
Thesis
Hiromi Fujisawa
第15期
ふじさわ・ひろみ
どんぐり教育研究会 代表
Mission
環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)