論考

Thesis

風のがっこうで学んだデンマークの環境政策

1 はじめに

 デンマークが環境先進国であるということは、最近日本でもよく知られるようになってきた。飲料容器に対する早くからの規制、廃棄物、エネルギー政策等。そしてその理由としては、次のようなものがあげられている。
 「デンマークには山がなく、地下水に飲料水を頼っている」「自然を愛する国民性」「人口500万人の、小さな国だから」しかし、本質的な理由は、もっと違うところにあるような気がする。私自身、これまでデンマークの環境政策についていろいろ調べてみるなかで、「何故デンマークと日本は、ここまで政策が違うのか」と、不思議に思い続けていた。
 今回は、風力とバイオガスを中心としたツアーだったが、デンマークの社会全般について、鈴木さんから貴重な情報を沢山頂くことができた。そして「デンマークは何故環境先進国になれたのか」その答えを、自分なりに持つことができたように思う。
 私見であるが、デンマークには「さまざまな問題に対し、利害の異なる立場の人たちが 相互の対話によってコンセンサスを作り出していこうとする、社会連帯の精神と民主主義の伝統」があり、そこが日本と決定的に異なるのではないかと考える。原発をめぐる議論ひとつとっても、然りである。73年のオイルショック当時、政府と産業界が、「原子力発電が必要」とのキャンペーンをはったのに対し、「省エネと再生可能エネルギー」で対抗した、フォルケセンターや反対派の学者たち。そして、「原発が本当に必要であるか」自分たちで納得するまで勉強し、「ノー」という結論を出した市民。そこには、「何が将来的に社会全体の利益となるか」を考え、民主的な手続きに従って、あくまでも科学的、合理的に意思決定を行ってきたデンマークという国の姿がある。
 文献などで調べてみると、デンマークが現在のような環境政策、エネルギー政策を選択しはじめたのは、わずか30年前の事である。企業が有害物質を不法投棄して、地下水が汚染され、大いに問題になったとも言う。オイルショックや国内における深刻な環境汚染をきっかけとして、社会的な問題として認知され、以後は公的な規制を強める形でさまざまな対策が講じられている。

2 デンマークの環境政策

 今回のツアーで、私がもっとも印象深く感じたのは、リーベの共同バイオガスプラントを見学した際に、案内してくれた南ユトランド大学バイオガス研究所の研究員が、道中私たちに言った言葉である。バスを畑の中にある小さな川の上で止めさせた彼は、こう言った。

「見てください。この川が汚れると、私たちは生きていけません。私たちのやっているバイオガスプラントは、この川を絶対に汚染しないための方策なのです」

 人間は、いくらお金やモノがあっても、水と空気と土がなければ、生きてはいけない。そして、そのかけがえのない水、空気、土を汚すことは、子供たちの世代に多大なつけ を残すことであると、本当は誰もが分かっているはずである。 しかし日本においては、飲み水の7割を河川に頼りながら、その川を平気で汚しつづけている。これは一体、どういう事なのだろう。 鈴木さんによれば、日本では経済やモノが大事で、デンマークでは「人間」が大事だから、このように政策に違いがあるのだという。私も同感である。

 今、日本では、戦後の「経済成長」や「モノの豊かさ」を重視した国づくりが、方向転換を迫られているように思う。 環境問題だけをとっても、水や空気、土の汚染、高騰する廃棄物処理コスト、環境ホルモンなど、多くの問題を抱えている。その中で、これから「どんな方向性で、どういうプロセスで対策を講じていくべきか」真剣に議論をするべき時期にきている。 私がもっとも「素晴らしい」と考えるのは、デンマークには権力政治の伝統がなく、巨大な国家権力が存在しない(ように見える?)ことである。 約150年前に民主主義が導入されてから、デンマーク国民教育の父とも慕われるグルントヴィの影響もあり、「よき市民による対話とコンセンサスを重視した意思決定」が、自然と行われているように感じられる。それが今日、デンマークをヨーロッパの中でも「住んでみたい国」として、最も人気のある、環境・福祉の先進国へと押し上げる、大きな原動力となっているのではないだろうか。

 オイルショック以降、デンマークでは資源、エネルギーを大量に消費する社会に対する 反省が生まれ、抜本的な政策の見直しが行われるようになったと言う。世界にさきがけて、エネルギー税を導入することで、エネルギーの浪費を防ぎ、そのお金を省エネや再生可能エネルギーの研究開発や設備投資にまわしている。 そして、たった30年の間に、エネルギー自給率を100%にし、水、土、大気を汚染しない社会システムをととのえ、先進国のモデルとなるような「持続可能な社会」に向けた政策を、次々に打ち出すまでになったのである。3風のがっこうで学んだこと 日本や多くの先進国のように、環境問題を、個人や企業の倫理で解決しようとするのは、非常に危険であると思う。

 極論すれば、政策論議なしに、環境庁や通産省がそれぞれ「電気を大切にしよう」とパンフレットを作って、呼びかけているのが日本の現状であるが、それだけでは大きな変 化を促すことは難しい。 何が問題の本質であるかを議論し、これを解決するための法的・社会的な仕組みを、一つ一つ作っていくこと、時間はかかるだろうが、それが何よりも重要であると考える。その際、デンマークが培ってきた風力やバイオガスプラントを導入、促進するための仕組み(税制や制度)は、これからの日本にとって、大いに参考になるのではないだろうか。
 中でも、これから政策を進めるに当たり、「何がもっとも環境、経済の両面からみて合理的であるか」をトータルに検討し、それを実現するための「誰も損をしない仕組み」を、いかに作り出せるかが、今後の課題であると考える。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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