松下政経塾は、パナソニックの創業者・松下幸之助によって設立されました。その原点は、「物と心の繁栄を通じて、平和で幸福な社会を実現したい」と願う強い想いでした。
生涯をかけて理想社会の実現を追い求めた松下幸之助は、やがて「我が国を導く真のリーダーを育成しなければならない」との答えにたどり着きます。1979年、84歳にして、未来のリーダーを育成する松下政経塾を設立しました。
自ら塾長として舵をとり、志をもつ若者たちとともに歩んだ松下幸之助は、1989年にその生涯を閉じました。松下幸之助が描いた理想社会の実現は、松下政経塾に参集する未来のリーダーたちに託されたのです。
松下政経塾の塾生に求められるのは、理想社会のビジョンをつくり、その実践者になることです。それは、人に教えられて身につくものではありません。現地現場の実体験を通じて、自らつかむ必要があります。理想の社会はどうあるべきか。リーダーに求められるものは何か。自修自得・現地現場の研修方針のもと、自ら研修を組み立てて活動していきます。
具体的には、全寮制の生活のもと、塾生たちは寝食をともにしながら研修を行ないます。前半の集合研修では、塾生同士が切磋琢磨しながら一緒に活動を進めていきます。後半の個別研修では、各自の研修テーマに基づいて、自らの現場で活動を展開します。在塾中は、松下幸之助塾主の方針に基づいて、塾が活動資金を提供しています。
1980年の開塾以来、松下政経塾は、さまざまな分野で活躍するリーダーを輩出してきました。卒塾生たちは、政治家、企業経営者、社会起業家、研究者など、それぞれの立場で活躍しています。その多くは、自らの志の実現を目指して、今もなお模索しながら道なき道を歩んでいます。
松下幸之助は、塾生に対して、師をもたずして師になった宮本武蔵の如く自分でつかむことの重要性を説きました。生涯をかけて自らの道を切り拓いていくことは、決して容易ではありません。しかしながら、その模索の中にこそ真のリーダーが生まれると、松下幸之助は考えたのです。
政経塾をやろうと志したのは、今から10年前です。相談した方からも反対され、一度は断念しましたが、一向に好ましい状態に進んでおらない。ますます日本も世界も混迷している。自分が40年ほど若返ることができるなら、自分で世直しの先頭に立ちたいとさえ思いました。「やろう」「やめよう」と思い続けました。しかし、歳をとってからでは叶いません。それで、自分に代わって若い諸君に未来を託したいと、あらためて松下政経塾の設立を決めたのです。「この塾の方針にかなった人が一名でもいれば開塾するのだ」と志を立てたのです。 政経塾の使命は塾是・塾訓にあるが如き仕事をすることです。つまり、国家百年の計を創り、実践し、日本を救い、世界を救い、人々の幸福に尽くすことです。塾生は身命を賭して、この使命に徹しきって欲しいと思います。使命は重大です。「それを、諸君、やろうじゃないか」というのが、私から皆さんへの呼びかけです。〈 昭和55年春 入塾式と当時の講話より 当時85才 〉
松下政経塾 初代塾長
松下 幸之助