論考

Thesis

21世紀型企業の経営戦略

1 はじめに

 現在地球の総人口は58億人であり、そのうち先進国の占める割合は10億人である。先進国は、世界のエネルギー消費量の70%、金属資源の75%、木材の85%を消 費しており、この先進国の経済やライフスタイルが深刻な環境破壊を招いている。
 先進国の人達が享受している快適で便利な生活や、20世紀型の経済システムでは、残り少なくなっている金属資源や、温暖化、酸性雨、オゾン層の破壊などの問題に対応出来ず、いずれ破局を迎えることになる。このままでいけば、その時期は早ければ、2010年頃になる(資源.食糧.エネルギーなどの限界)とするのが、多くの有識者による共通見解であるようだ。

 中国やインドなどの人口大国が、現在のような経済発展を続けていくと、環境破壊や資源の制約が原因となって、経済が成熟する前に破綻してしまう可能性がある。唯一の懸命な選択は、資源、エネルギーを極限まで節約し、環境への負荷の小さい持続可能な経済システムを構築し、それを先進国から途上国へと広げて行くことである。
 しかしながら現時点においては、途上国では先進国を上回る、環境破壊型の経済発展が続いている。
 中国に生産プラントを持っていけば、大量の自動車を1年のうちに生産することが可能になる。しかしながら、中国人が日本人なみに自動車に乗るようになれば、地球はパンクしてしまう。

 ある国際会議で、オランダの代表が自国の自転車キャンペーンの話をした。そして、その場で自転車社会である中国を誉めたと言う。しかしながら、中国の代表は「これからの中国は自動車社会になる」という話をし、意見がすれ違ってしまったと言う。
 この例からも分かるように、これだけ環境問題が深刻化しながらも、人間の「豊かになりたい」「便利で快適な生活をしたい」という欲望にブレーキをかけることは、大変難しい問題である。
 私は、国際会議でもよく指摘される事ではあるが、まずは先進国から極限まで資源.エネルギー利用の効率化を進め、持続可能な社会に向けて動き出すことしかないと考えている。

 実際、日本と同じく工業国である北欧のスウェーデンでは「持続可能なスウェーデン」をつくることを、次の国家目標であるとして、具体的に政策をたてている。
 それだけ、もう時間がない、今やらなければ間に合わない、と言うことも出来るのである。
 日本は世界第4位のエネルギー消費大国であり、世界の資源の約10%を消費している。経済大国として、また技術大国として、わが国の果たすべき責任は大きい。

2 次世紀の経営戦略

 20世紀の企業戦略は、一言で言えば「労働生産性の向上」にあった事は間違いないだろう。
 欠陥製品ゼロ、在庫ゼロを追求し、機械化、合理化をすすめ、生産性の向上につとめる中で、エネルギーや資源は、むしろ犠牲にされてきた。労働生産性を高めるために、エネルギーを大量に消費するようになった。そして、資源の多くは無駄に廃棄された。丸太を例にとると、これまでは4割程度しか有効利用されていない。
 しかしながら、21世紀の経営戦略は、「エネルギー.資源の生産性をいかに高めていくか」に変りつつある。環境の悪化と資源の枯渇は、21世紀の初めにはますます深刻になるからである。

 20世紀の経済学は、「無限で劣化しない地球」を前提にしてきた。この前提によれば、永遠に右肩上がりの経済発展が可能であろう。だが当然のごとく地球は有限で、劣化し続けている。これまでの経営が、多くの資源を採掘し、深刻な環境破壊を招いてしまったという認識のもとに、新しい21世紀型の企業行動を定着させる必要がある。
 グンターパウリが編集したゼロ.エミションという本の中で、環境経済学者ハーマン.デイリーは、持続可能な発展のために必要な3つの条件を述べている。
 それは、私が関係しているナチュラルステップの、4つの条件とほとんど同じである。

  1. 再生可能な資源は、再生可能な範囲で消費されること(木材、植林)
  2. 再生不可能な資源は、代替資源の生産の範囲で消費されること
  3. 有害廃棄物は、自然の浄化力の範囲で使用すること

 単純に考えればごく当り前の事ばかりであるが、これを守るのは至難のわざである。産業革命以降の経済理論は、資源.エネルギー.環境の制約を全く考えてこなかった。
 しかしながら、今、それが崩れ始めている。

 それでは、このような21世紀型の「持続可能な経済システム」「ゼロ.エミッション型(資源を100%有効に利用し、同時に環境負荷の全く伴わない)発展のシステム」を作り上げていくには、どうすれば良いか。
 日経新聞の論説副主幹三橋氏は、近著「ゼロエミッションと日本経済」の中で、次のような事を主張している。

  1. 産業クラスター郡の形成
  2. 逆工場とLCA
  3. バッズ課税、グッズ減税
  4. 再生可能なエネルギー源の開発
  5. 植林、バイオマスの活用
  6. ライフスタイルの転換

 順にその内容を述べていくと、1は国連大学が提唱したゼロエミッションの基本となる考え方である。
 ある産業の廃棄物は、違う産業の原料になる。このように産業連鎖が可能になれば、廃棄物は極限まで少なくなる。
 事例としては、ビール工場の残さで、魚の養殖をするなどの、有機物の再利用が考えられる。またセメント業などは、大量の廃棄物を原材料として使用することが出来る。

 エバラ製作所は、中国で発電所から排出される硫安から、化学肥料を作る実験プラントを完成させた。このように廃棄物を原料として利用する事で、生産システムをこれまでの一方通行型から、循環型のものに変えていくことが出来る。廃棄物の存在しない生態系の仕組みを真似た循環型のシステムを、21世紀には主流にしていくことが必要なのである。

 2.は、製品を徹底的に分解してリユースできる設計に変え、それでもリユースできないものは原料としてリサイクルするというものである。
 この逆工場は、今多くの学者や実務家、企業による研究が進められており、ゼロエミッションの重要な条件になっている。

 3.は、端的に言えば、環境に悪いものに課税を、良いものに減税を行うものである。
 例としては、世界にさきがけてデンマークやスウェーデンなどで導入された、炭素税があげられる。20世紀の税体系の中には、全く考えられていなかったことであるが、税制改革によるアプローチも大変重要なのである。
 ここで、グッズとバッズを一部分だけ見てみると、

  1. グッズ(労働、貯蓄、投資、事業)~法人税、所得税のひきさげ
  2. バッズ(資源の浪費、汚染、交通渋滞)への課税

などが考えられる。

 このように税体系を環境保全型に、思いきって改めるのである。
 身近なところでは、1.家庭ごみの有料化2.ラッシュアワー料金3.炭素税などがすぐにでも導入可能である。
 デユポンのウーラード会長は近年、次のような環境経営三原則を掲げ、企業家の果たすべき役割を強調している。

  1. 環境を改善出来るのは、企業である
  2. 営業部門は、環境部門の意見を尊重するべきである
  3. グリーンフィールド(自然が多く残っているところ)から、ブラウンフィールドの開発へ向かうべきである

 このように世界のトップレベルの経営者達が、環境問題に真剣に取り組み始めたのは喜ばしい事ではあるが、まだまだほんの一握りである事は否定出来ない。

 ナチュラルステップの日本支部を作る活動を通して、今後は企業への環境教育に積極的に取り組んでいきたいと考えている。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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