Thesis
今月の前半は先月に引き続き塾報を執筆する。今回の塾報では、私がこれから始めようとしている養護施設入所児童への支援について書いた。
現地点では、高校卒業後、家庭からの支援が全くと言っていいほど期待できないにも関わらず、上の学校(大学・短大など)へ進学を目指している彼らに対しての進学支援を考えている。具体的には進学基金を創設してその基金を基に支援を考えている。
長崎県島原市にある養護施設「太陽の寮」(寮長唐津正明氏)は、昨年度までに入所児童の高校進学率が、19年連続して100パーセントの実績がある。このような実績のある養護施設は日本には皆無であり、業界にとって驚きでもある。九州では”養護施設のラサール”と呼ばれているそうだ。さらに、大学への進学実績もあり、唐津氏が就職してからこれまでに30人以上もの児童を進学させている。
また、唐津氏は2年前に業界誌「季刊児童養護」に”大学進学の現状と方向”という題で実践レポートを書いている。
このような取り組みをしている唐津氏に私は興味を覚え、今月中旬に唐津氏を訪れ、施設見学を兼ねて大学進学についてお話を伺った。
養護施設「太陽の寮」は、駅から車で約10分の所にあり、施設は海に面して建っている。歴史は古く明治39年の創立。児童定員は70名で現在51名の児童が生活している。
高校、大学とも養護施設児童の進学率は、一般と比べ著しく低いのはなぜかと聞く。「一番のネックは施設長の資質。施設長が悪い。施設長が子ども達の知的能力をはき違いして、十分にその能力を伸ばしていない。
例えば、施設の中学生で知的レベルは高いが、万引きをしたり、タバコを吸ったりして非行系の子どもがいて、その指導に施設で困っている場合、大抵の施設長はその子が中学卒業と同時に早く就職させて、施設生活や他の子ども達への悪影響を断ち切ろうとするケースが間々みられる。
仮に非行性を持っていたとしても、施設長はその子の能力を潰してはならない。
子どもの運命は施設長の掌中にあることを忘れてはいけない。
施設長は、子ども達に目的意識を持たす指導をすることが大切。
その次に子ども達の資質。子ども達が施設に入るまでの生活は、今日食べるご飯をどうするか、親の力がが必要なときに肝心の親が帰ってこないなどといった環境で生活してきているのが大半。
学習する以前の環境で生活してきたため、学習が習慣化されていなく、その必要性も当然わからない。
施設長はじめ職員は、学習の必要性を子ども達に説かなければならない。」と言う。太陽の寮では、この前提に立って指導に当たっている。
施設内講堂では、小学生から高校生まで一同に集まり、月曜から金曜まで毎日夕食後に2時間ほど学習する。その後も中学生以上は自主学習となり、各自個別に課題が与えられてそれを消化する。
日曜日も午前中に2時間学習することになっている。その日勤務している職員全員が、学習指導主任を中心に各々の学習指導能力に応じて指導に当たっている。
子ども達はいやいやに取り組むことなく、ごく自然に学習しているとのこと。長い取り組みの中で、施設全体が学習する雰囲気(環境)に包まれ、勉強嫌いな子どもでも、みんなに釣られて、いつのまにか学習するようになるのではとかんじる。つまり、環境療法である。
大学進学先は私立ではなく、国立と公立のみに限定して指導している。これは学費の面と私立大に進学しても、勤労進学では学業と生活の両立難しい(当施設の私大中退者は30パーセント)からとのこと。
国立か公立大学に進学できた場合、その費用は施設内の進学基金で援助することになっている。学生中は、アルバイトは一切させず学業に専念させている。
唐津氏の講演料や寄付、本の印税などを基にして進学基金を作っている。いま、この基金の支援を受けて、九州大学と北九州大学に1名ずつ進学している。
最後に「教育が一番大切。教育は貯金と果実を生む。子育てとは、飯の食える人間に育てる(子ども達の能力を伸ばす)こと。施設長は、このことを認識して子ども達を指導すること。施設長の意識改革が大切。」と唐津氏は力説した。
Thesis
Yoshio Kusama
第16期
くさま・よしお
東北福祉大学 特任教授
Mission
福祉。専門は児童福祉。