Thesis
1.はじめに
日本全国には現在、養護施設が528施設ある。東京都には57施設あり、これを6つのブロックに分けている。それぞれのブロックでは、研修会を開いたり交流会を催したりして独自の活動をしている。
私はこのブロックのひとつ、第6ブロック(多摩地区・・12施設数)の勉強会(三多摩養護施設児童養護研究会)に毎月出席している。今月の勉強会では、「外から見た養護施設について」というテーマで、私が発表した。今回の月例は、そこで話した内容について報告してみたい。
2.発表内容(概略)
私は、-かわるとき-・・・・「21世紀に向けて」というタイトルで話しをした。加筆修正して以下に報告する。
養護施設は1947年に「児童福祉法」が制定されるに伴って、設立された児童福祉施設のひとつである。終戦後は、戦争で親を失った孤児や浮浪児、あるいは大陸からの引揚げ孤児達をおもに収容し養育していた。
その数は13万人(厚生省調査)にも上ったという。しかし養護施設に収容(注:現在は法改正され”収容”とは言わず”入所”という)されたのは、そのうちの約2割程度しかなかった。
養護施設は当初、このように戦争で犠牲になった子ども達を預かっていたが、そのような背景の子ども達は1960年中頃にはいなくなった。変わって親が離婚したり、行方不明であったり、長期入院するなど「家庭の事情」によって入所してくる子ども達が大半を占めるようになった。
最近では、親の暴力や放任・怠惰などによる様々な「虐待」によって入所してくる割合が年々確実に増えてきている(厚生省調査)。子ども達は、親に捨てられた憎しみ・悲しみ、虐待によって傷ついた「こころ」や歪んでしまった「人格形成」を持ちながら、施設に入所してくる。
これまでの養護施設は、子ども達を預かって画一的に養育する「単純養護」から、一人一人の「こころ」や「人格形成」にまで入り込んで養育する「専門的・治療的養護」に変わらなければならない時期に来ている。つまり、子ども達の入所理由が質的に変化してきた。養護施設は今まで実践してきた養育機能の見直しを図り、ニーズにあった施設作りを時代的に要請されている。
さらに来る21世紀まで3年を切った。日本はいま、あらゆる面で変革の時期に差し掛かっている。例えば、いま話題になっている「財政問題」もそのひとつ。累積赤字が国、地方、隠れ借金などを含めると443兆円(財政制度審議会発表)に上ると言われている。国民一人当たりに換算すると約360万円にもなり、1世帯(2.84人-厚生省調査)当たりにすると、1024.4万にもなってしまう。GDPに占める割合も90%に迫り、先進諸国の中でもトップクラスの深刻な「財政状況」となってしまった。
そうしたなか、国もようやく重い腰を上げて、「財政再建」に取り組もうとしている。先般の総選挙の争点のひとつが、「財政改革」や「行政改革」であったことや、また橋本首相が掲げた6つの改革のひとつに「財政改革」があり、これを最重要課題として取り組んでいることからも、それが伺える。
橋本首相は「これまで国家予算の聖域とされていた公共事業費、文教費、防衛費や社会保障費など、例外なく予算のあり方を見直す」と言っている。
したがって養護施設もその例外ではなくなる。社会保障費は保健衛生対策費、失業対策費、生活保護費、社会保険費、社会福祉費、その他、の項目に分けられて構成されている。
社会保障費のなかでは「社会保険費」、とりわけ老人医療費が特に問題とされている。
例えば、診療方法・報酬のあり方や負担のあり方が見直されてきているが、これはなにも「社会保険費」の分野に限らなく、等しくその外の項目についても近い将来、必ず見直される時期になるだろう。
そこで養護施設に関連してくるのは、「社会福祉費」になる。今年度の予算は3兆8008億円。うち1兆5234億円が児童福祉などの予算である。
養護施設は、自治体が運営する公立と社会福祉法人や財団法人などが運営する民間とに分けられているが、費用は共にほとんどが税金によって賄われている。今後、景気が良くなる見込みは薄く、徐々に悪くなる一方である。景気が悪くなれば、税収の大幅な増加は期待できない。むしろ高齢化社会の到来に伴って、社会保障費が増大し国家財政を更に圧迫させてしまう。
このようななかで、養護施設において見直しがされるのは経営形態になるだろう。今までの「親方日の丸」型の運営方式を改めて、”競争の原理”を導入して、経営の合理化を促し統廃合も含めて業界再編を図る時期が、予算の関係上からも来るだろう。
これは、養護施設業界にとっては、黒船に匹敵するような「外圧」であるかも知れないが、しかし避けては通れない道である。そういう事態が刻一刻と迫っている認識をこの業界の人は持つべきである。
この認識のもとに「施設改革」を為し得た養護施設が将来、生き残って行くだろう。
今年は「児童福祉法」制定50周年の年に当たり、厚生省を中心として法改正作業が進んでいる。
---不幸にして家庭に恵まれない子ども達にたいして、我々大人や社会(国家)は、どのような家庭に変わる養育環境を提供しなければならないか---という問題に対して、日本は施設に入所させて養育する「施設養護」の政策を執る。 一方、アメリカではどうか。日本のように「施設養護」を執らず、出来るだけ家庭に近い形での養護、「里親養護」を中心としている。
法改正作業が進んでいるが、残念ながら、そのなかに「里親養護」というビジョンは示されていない。全国社会福祉協議会「児童福祉のあり方委員会」の報告書(1995.10.30)に、かろうじて「里親養護」の促進が書かれている程度である。
私自身、家庭の事情によって生後3日目で施設に預けられ高校卒業まで生活した体験から考えてみて、どんなに駄目な親だとしても、職員を尊敬できたとしても、「親」に勝るものはないのが実感である。
また、養護施設の児童指導員として5年間働いて、その思いは更に強くなった。「施設養護」という養育形態は限りなく家庭から遠い。
子ども達のことを考えるならば、できるだけ家庭に近い形の養育環境を提供しなければならない。それは、「養子縁組養護」や「里親養護」になるのではないか。
養護施設は児童福祉の先駆者として、従来の「施設養護」を前提とした養育観を離れて、”よりよい養護”とはを考えて実践すべきである。
Thesis
Yoshio Kusama
第16期
くさま・よしお
東北福祉大学 特任教授
Mission
福祉。専門は児童福祉。