Thesis
先月に引き続きカナダの児童福祉の取り組みを報告したい。
親がある日突然蒸発してしまった、親が急に離婚してしまった、あるいは親からずっと前から何度も虐待をされていたなど、子どもと親が一緒に暮らせない場合、カナダでは里親かグループホーム(小集団での生活)によるケアーで、子ども達の面倒を見ていくシステムになっている。この国には、養護施設は存在しない。
「地域のなかで出来るだけ家庭に近い形で子どもを養育していこう」というのが、カナダの児童福祉の基本だ。
一方、日本はどうか。カナダとは大きく違っている。基本的には乳児院や養護施設といった施設によるケアーが中心だ。里親制度もあるが委託されている子どもは養護施設で生活する児童数の約1割程度と少ない。
カナダは、子どもの権利を擁護するシステムが整っていることは先月述べた通りだ。
この国では子どもを守るシステムに留まらず、さらに一歩進んだ積極的な取り組みが展開されていた。
トロントの中心街の東側に位置するペープ地区にある青少年資源センター、パーク(PARC;Pape Adolescent Resource Centre)がそれだ。外観はどこにでもあるごく一般的な住宅だ。ここには、里親やグループホームでケアーを受けている・受けていた約400人の青少年達が、月曜日から金曜日まで集まってくる。 パークは、「インケアーを受けている子ども達に様々なプログラムを提供し、彼らの自立を促していく」ことをモットーとして、1986年からスタートした取り組みだ。ここの運営は、民間と公立のCAS(日本の児童相談所に相当)が任され、カウンセラーや相談員など7人のスタッフが、朝9時から夜の9時まで常勤している。そこで彼らは、スッタフからアドバイスをされたり、相談をしたりするなどのいろいろな援助を受けている。
費用はすべてオンタリオ州政府のコミュニティー・ソーシャル・サービス省が負担している。彼らの自立支援を日本の児童相談所に当るCASが主体となって行っている所が、このパークの大きな特徴だと言える。
パークでは曜日毎にプログラムが分かれている。月曜日はユース・エディションのグループが活動し、火曜日は低年齢の子ども向きの「野球」、水曜日は「ネットワークグループ」、木曜日には「セックスグループ」といった具合に日替わりでプログラムが用意され、それぞれのグループが独自に活動をしているのが特色だ。自分の関心のあるものには自由に参加できる仕組みになっていて、別のプログラムに参加したい場合、もちろん掛け持ちも可能だ。あくまでも彼らの自主性・主体性に任されている。
大阪府立大学の許斐助教授とパークを訪れたのは、6月も終わろうとしている水曜日の午後6時半をちょっと回った頃。私にとって2回目の訪問。すでに、「ネットワークグループ」のメンバー12人が集まっていた。里親宅から来たメンバーや、インケアーを受けているものの大学に進学して生活自立しているメンバーなど、いろいろな所からやって来る。
この日は、この夏にカナダ訪問予定のハンガリーとジャマイカのインケアーの子ども達の受け入れ方法についてが主な議題となり、皆で意見を出し合っていた。受け入れ費用の一部を捻出するために、「自分たちでTシャツを作って販売しよう」とか「Tシャツのデザインどうしようか」、役割決めなど2人のスタッフを交えながら、活発な話し合いが9時半過ぎまで続いた。
帰り際にメンバーの一人であるロサンヌ(22才の女性)から、白い一冊の本をプレゼントされた。表紙には「SPEAK OUT」と書かれ、「これは、自分たちがインケアーを受けなければならなかった理由や、そこで体験したこと、自分たちの考えを一冊にまとめた本です」と紹介された。彼女は続けて「SPEAK OU-Tを行政や社会の人達や、遠く海外の人達に買ってもらったり、配ったりして啓蒙活動もしている」と説明してくれた。この本は8年前に出版されいる。
本の出版以外にも過去にはハンガリーやジャマイカなどに出向き、パークの活動や自分達の体験や考えを発表したり、あるいは意見交換などを目的とした交流会も持ってきた。さらに毎年、自分達でサマーキャンプを企画したり、イベントを行ったりするなどの幅広い活動も展開している。そんな彼らの姿に、行政におんぶに抱っこの気持ちは少しもかんじられない。
リーダー格のジョージ(27才の男性)は、「日本でパークの活動を聞きたいと要望があれば、我々はいつでも行く用意があります」と来日意欲を示す。彼らの活動は国内だけに留まらず、海外にも目を向けられていて、そのエネルギーに圧倒される。彼らと話していてかんじることは、「里親で育ったこと」や「グループホームで育ったこと」を、少しも引け目にかんじていなかったことだ。それどころか自分の境遇を隠さず世間に公表し、広く知ってもらおうと前向きに生きている姿が、とても印象的だ。
あるメンバーはパークの意義を次のように語っていた。「ここへ来て良かったことは、いろいろな人達の関わりで、自分も後輩のいい模範となりたいと思えたこと。重要なことは、それぞれの経験を出し合って、自立していくことだと思う」
州政府がインケアーの子ども達が自立出来るようにバックアップしている取り組みは、わが国でも大いに学ぶべきところがあるのではないか。
また、パークに集まる彼らの前向きでしかも積極的に生きている姿勢から、私を含めた日本の施設出身者は見習わなければならない。私たち施設出身者も彼らに続かなければならない。
Thesis
Yoshio Kusama
第16期
くさま・よしお
東北福祉大学 特任教授
Mission
福祉。専門は児童福祉。