論考

Thesis

高齢者福祉の新たな視点(3)

1.はじめに

 私事で恐縮であるが、私の妻は鎌倉市社会福祉協議会に勤めている。職種は、市内に住む高齢者のお宅を訪問して、主に家事の手伝い、食事・排泄の介助や介護などをするホームヘルパーの仕事をしている。一日に2軒から3軒ほど訪問する在宅高齢者支援や障害者支援の仕事を約20人のスタッフとともにしている。
 その彼女が今回の厚生省の不祥事を「私たちや施設で勤めている職員が、お年寄りのことを真剣に考えて毎日一所懸命に頑張っているのに岡光事務次官は、私たちを裏切った。真面目に働いていて何もしていないのに、白い目で見られたりして馬鹿を見るのは、悔しい。やってられない」と何とも言えない表情で私に語った。

また、私が以前勤めていた養護施設の施設長は、「今回の不祥事で、我々の施設も特別養護老人ホームと同じに見られる可能性がある。周りの目が厳しくなるかもしれない」と話し、とても心配していた。
私自身もある勉強会で児童福祉をテーマに講義したところ、参加者の一人から「今回の不祥事をどう考えていますか」とテーマとは違った質問をされ、困惑してしまった。

我が国は、高齢者福祉をどこの国よりも真剣に取り組まなければならない時期に差し掛かっているにもかかわらず、先般の厚生省事務次官の不祥事により、福祉、とりわけ高齢者福祉に対する国民世論は2歩も3歩も後退してしまった感があるのではないかとかんじる。

2.我が国の高齢化率

 我が国の高齢化(注:全人口に占める65歳以上の割合)率は、世界に類を見ない速さで進んでいるといわれている。
総務庁の発表によると、一昨年の高齢率は、14.5%であった。昨年では、さらに上がり15.1%となっている。これは、65歳以上の人口が、約2000万人以上もいる数字である。

 1992年9月推計の厚生省人口問題研究所発表「日本の将来推計人口」の中位推計によれば、2025年の65歳以上の実数は、3244万人になる。高齢化率は、25.9%にもなる。なんと国民の約3.8人に1人が高齢者になる「超高齢化社会」が到来することになる。

3.合計特殊出生率

  高齢化は各世代間の人口のバランス問題でもある。高齢化率が高まるというのは、若い世代の人口が高齢者の数よりも多く減少していることによる現象であることがいえる。

厚生省児童家庭福祉局作成「人口構成の推移と将来の見通し」の資料をみてもそれが顕著に表われている。
この資料では、世代を3つに区分((1)0歳~14歳(2)15歳~64歳(3)65歳~)して全人口に占める割合を算出している。 それによると、

年齢/年代 S.45 S.55 S.60 H.4 H.7 H.17 H.27
(1)0歳~14歳 24.0 23.5 21.5 17.2 16.0 15.6 16.3
(2)15歳~64歳 68.9 67.4 68.2 69.8 69.4 65.2 59.5
(3)65歳~ 7.1 9.1 10.3 13.1 14.5 19.1 24.1
全人口(千人) 104,665 117,060 121,049 123,611 125,463 129,366 130,033

となっている。
この表でも分かるとおり、特に減少が著しいのは、(1)の0歳~14歳の世代である。
また、一人の女性が一生のうちに産む子供の数(合計特殊出生率)は、年々減少している。
厚生省の調査によると、

年 代 S.35 S.40 S.45 S.50 S.55 S.60 H.2 H.5 H.8
出生率 2.00 2.14 2.13 1.91 1.75 1.76 1.54 1.46 1.43
出生数(万人)   182 136 193 190 158 121

となっている。

 出生率や出生数が年を追う毎に減少していくことは、世代が上がれば上がるほど人口が少しずつ減少していく、従来のピラミット型から逆ピラミット型へ変化してきていることがいえる。
 したがってこのままの状態が続けば、ますます逆ピラミット型を加速させることにも繋がっていく。

4.高齢者福祉政策の視点

 先ほど、高齢化問題の一つは、各世代間の人口バランスの問題であると述べた。これから訪れる「超高齢化社会」を乗り切るには、今いる高齢者にたいして政策をつくっていくことはもちろんであるが、それとともに、人口バランスをどう適正(ピラミット型)に改善していくかといった視点が大切である。さらにその政策の策定と実施が急務であることは言うまでもない。
そのキーワードは、児童福祉の充実である。年々減少している合計特殊出生率を上げる政策の策定、つまり子育て支援政策を充実させることが大事な視点である。

 近年、女性の社会参加の進出に比例して、晩婚化やあるいは結婚をしない・したくない女性が増えている。また高学歴化に比例して教育コストも上がり、それが家計を圧迫させることにも繋がり、子供の数を控える少子化傾向も顕著に出てきている。

 人口バランス問題を改善しなけれないけないにもかかわらず、子供を産み育てる環境はますます悪化している。
 国を初め我々は、子供を安心して産み育てられる政策を作らなければならない。このことは、来る「超高齢化社会」への先行投資でもある。

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草間吉夫の論考

Thesis

Yoshio Kusama

草間吉夫

第16期

草間 吉夫

くさま・よしお

東北福祉大学 特任教授

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福祉。専門は児童福祉。

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