Thesis
◆急激な人口減と急激な人口増が襲っている日本
子どもの人口が15%割る!!
これは5月5日、子どもの日に掲載された朝日新聞朝刊の一面の見出しだ。総務庁の調査によれば、今年の15才未満の子どもの人口は、昨年よりも31万人少ない、1,888万人であったそうだ。総人口に占める割合(14.9%)も調査を開始してから初めて15%を下回った。今年も減少に歯止めが効かず、これで12年連続して戦後最低を更新している。
一方、1950年に4.9%だった65歳以上の総人口に占める割合は、今年は昨年よりも0.5ポイントアップして16.5%になったそうだ。人口も昨年より2,000万人を超え、現在増え続けている。
いま我が国は、急激な児童人口減と急激な高齢者増という2つの人口構造の変化が世界に例を見ない形と早さで進行している。
◆子育て支援策にもっと投資を!
この状況下で日本はどう対応しなければいけないのか。それは児童福祉と高齢者福祉をより充実させることは言うまでもない。しかも緊急にだ。なかでも児童福祉、言葉を換えれば子育て支援を充実させることがもっとも重要だ。
そこで厚生白書(平成10年度版)で提唱している、”子どもを産み育てることに「夢」を持てる社会を”をどう作っていくか、それがとても大事になってくる。具体的には、我々が子育てをする時に、一番身近にある保育所を含めた保育をどう改革していくかが、その際の鍵を握る。
私は、1才7ヶ月の娘を毎日保育園に預けているが、そのサービスに時おり不満を持つことがある。例えば、毎日夕方5時50分には娘を迎えに行っているが、偶々急用が出来て、時間に遅れてしまったことが何回かあった。その時、帰り際に「明日はちゃんと定刻通りに来て下さい」と、担任から毎回注意を受けた経験を持っている。そこで感じたのは、仕事を持っている以上、毎日それを確実に実行するのは極めて難しいということを、もっと理解してほしかったことだ。
こちらの家庭や仕事の都合ではなく、保育する側の都合を優先させているのは、この業界が出来た当時からの常識だ。親はきちんと保育料を納めているにもかかわらず、子どもを見てもらっている以上、保育園に強くは言えない、無理も言えないのが現状だ。これが今後も続いていくならば、ますます子どもを産み育てようとは思わなくなるだろう。少なくても私の家庭ではそうだ。それを改善するために昨年、改正されたはずの児童福祉法もまだその思惑通りに、現場サイドの意識や整備は進んでいない。
今後、保育所をもっと増やしていくことは、今日の財政事情を考えれば得策ではない。そこで私が提案したいのは、保育形態をいまの保育園(所)中心ではなく、保育ママ、家庭内保育、小集団保育、0歳児保育、障害児保育、ホリディー保育といった多種多様な保育を認めて(認可)いく施策を実行することだ。今まで認可されてきた保育園(所)は、そのまま継続して保育をしてもらい、保育をやりたいと考えている有資格者(保育士)の個人、有資格者を持つ団体や法人には、一年毎に更新していく形で保育事業に参画をしてもらうのだ。
この施策が実行に移されれば、地域のなかに地域の実情にあった様々な保育サービスが誕生するはずだ。それは、それぞれの家庭が各々のニーズにあった保育サービスを、自ら自由に選べることを意味する。そうなれば、子どもを持つ親が、だれしも経験する保育園へのイヤな思いも随分と解消されるだろう。ひいては、「子育ても悪くない」と思う家庭が増えることも予想される。また、地域のなかで宝の持ち腐れになっている多くの有資格者(保育士)の掘り起こしにも期待が持てよう。
いま我が国にもっとも必要なことは、”子どもを産み育てることに「夢」を持てる社会”を築くための大胆な発想と実行力だ。改革する勇気を我々は持たなければならない。「子どもが増えた分、将来納税者は増える、高齢者が増えた分、財政支出は増える」これは自明の理だ。したがってどちらに投資をしていくかは一目瞭然だ。子育て支援にもっと投資されて然るべきだ。それが私が考える未来への投資だ。国難とも言えるこの事態に、この視点がもっと国家的に重要視されていいはずだ。
Thesis
Yoshio Kusama
第16期
くさま・よしお
東北福祉大学 特任教授
Mission
福祉。専門は児童福祉。