論考

Thesis

「地域の主権化」家の職能

二十世紀に入り科学技術は飛躍的発展を遂げた。1903年、ライト兄弟の初飛行からわず か66年で人類は月に到達し、はじめて原子爆弾が炸裂してから約50年後の今日、地球上 では420基あまりの原子力発電所が稼働している。
 たしかに暮らしは豊かになったのだろう。目に見える範囲では、貧困などどこにも存在 しないかのように見える。
 その一方で、地球は尚も増大し続ける莫大な人口を抱えこみ、いまや時代は混沌として いるようにもみえる。食糧危機、環境危機、経済危機、財政危機、政治の危機……と、あ らゆる部門で危機が叫ばれている。多くのスペシャリストがこれらの問題に立ち向かい、能力と、労力とをそそぎ込んでいるのにも関わらず、「日本は少しずつだけれども良くな ってきています」という声はなかなか聞こえてこない。なぜだろうか。

 スペシャリストの時代は終わりつつあるのかもしれない。福祉の問題は福祉の領域だけ では解決できない。教育も、規制緩和も、財政も、医学も、宗教も、すべての領域に於け る問題が、その領域内だけでは解決し得ないのだという事実が明らかになってきた。社会 の中に蓄積されてきた歪みは、従来それぞれのサブシステムの中に於ける改良で補正され てきた。しかし、その歪みはトータルシステムの改革をもってでしか補えないほどに、増 大しているのである。
 必要なのは生活技術の進歩とマルチチャネラーの出現である。例えば、老人医療費の問題を、小学校で食べ物の噛みかたと呼吸の仕方を教えることによって解決しよう、そんな 思考法と実現力を持った人材が多数出現すれば、多くの問題がたやすく解決するのかもしれない。
 私はフェローテーマとして「地域の主権化」を選んだ。それは社会生活全般に渡る生活 の技術をトータルに見直せないかという試みである。

 テーマを追及するにあたって、私は幾つかの基本的な考え方を持っている。

  1. 人口は増える。人類はもっともっと発展してよい。
  2. 科学技術と生活技術は、子供の精神と肉体の発達のような、バランスの良い発達をしなければならない。
  3. 人間は生物である。だから、生物環境の中でないと生存しえない。だから、地球環境に対する負荷の低い社会を創ることが急務である。
  4. 社会的コストは下げなければならない。同時に社会サービスの質は低下させてはならない。だから、自分でできることは自分でやる。
  5. 競争の時代から共存・共生の時代への転換は起こさなければならない。共存とは、互いに高めあうための競争をすることである。つまり、人類は野生動物の競争のルール( 決して相手を滅ぼさない。相手が滅びるときは自分が滅びるとき)を思い出す必要がある 。
  6. すべての存在が役割を持ち、すべての事柄が意味を持ち、それらのバランスの上に成り立っているのが社会である。

 これらの考え方を基に、「地域の主権化」というテーマを設定した。それは、
「国家の保護に頼るのではなく、個人が自分のできることをした上で、個人の能力の及ば ない事柄を共同体としての国家に委託する……という自己責任の原則に支えられたボトムアップ型の国家システム」の構築を目指すものであり、
「そのような国家体制(各州間で政治サービスの競争がありえる形。連邦制など。)にお ける自治体の経営、危機管理のサポート」を行って、「低社会コスト、低環境抵抗の社会。」を創ることを目標としている。

 道州制なり、連邦制なりの形で自由な地域間競争が行われる時代がやがて必ずやってく る。問題なのは、そのきたるべき時代に於ける地域のクリアーなビジョンもなく、必ず出 てくるであろう落ちこぼれ地域のマネジメントができる人材もひじょうに少ないことだ。

 私は将来「地域の主権化」家を生計の種としようと思う。マルチチャネラーとして、地域のプロデュースを行う。そのために、どのような地域、地域システムが望ましいのか、そのためにはどのような国家システムが必要なのか、そして、そのためにどのような現実的課題をクリアーしていけばよいのかを順々に探究していきたいと思う。現実的課題のクリアーが最終段階になるのは、新居の計画ができていないうちに老朽化した家を解体する人はいないからである。

 とりあえず今年は「いろいろみる」ということでフェローにさせてもらった。だからい ろいろみていろいろ考えたいと思う。そして、哲学と学問と実務のバランスをとりながら 「地域の主権化」家を目指したいと思う。

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栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

くりた・たく

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まちづくり 経営 人材育成

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