論考

Thesis

CANフォーラム活動報告

 97年11月より98年4月まで、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)で研修活動を行った。GLOCOMは、政治、教育、文化人類学、言語学などの研究者の集まった研究機関だが、現在は特に地域情報化に力を入れて企業の委託研究などをおこなっている。経済学者でもある所長の公文俊平氏は、地域からの情報化とそれに伴う地域経済の振興をはかる為のいくつかの団体を主宰している。有名な大分県のマルチメディアネットワーク、ニューCOARAに関わっているハイパーネットワーク研究所もその一つである。

 もう一つ、公文氏が主宰し、地域からの情報化を進めている団体にCANフォーラムがある。CANフォーラムはNPOであり、GLOCOM内に事務局を持っている。私は、GLOCOMの研究員として活動する一方で、CANフォーラムの事務局の一員として研修をさせて貰えることになった。今月は私の半年間のCANフォーラムでの研修活動を簡単に報告する。


1.CANフォーラムとは

 CANとは何か。CANフォーラムとは何をするところなのか。パンフレットから引用し、紹介しよう。

『「CAN(community Area Network)フォーラム」とは、各地域をベースとする「内からの情報ネットワーク化」を推進する運動のことです。 具体的には、地域の構成員がまず自分たちのコンピューターを相互に接続するシステムをつくることによって、各地域に必要な情報を高速に交換できるようにして、その積み上げにより全国規模の情報ネットワークを構築することを目指すよう地域構成員に働きかけるものである。』

 日本のインターネットは、まず大都市間に幹線が引かれ、地域にはそこから支線が引かれるというツリー状の発展をしてきている。いわば、「外からの情報化」だ。それに対して、まず地域単位での情報化、コミュニティの「内からの情報化」を全員参加で進め、地域におけるLAN(=CAN)を構築し、それを積み上げて全国的なネットワークをつくろうというのがCANの基本的考え方である。

 産業の低迷、環境問題、高齢化への対応、教育問題などは、地域コミュニティをベースとした単位で解決される問題であり、そのためには、地域内のまた地域をベースとした情報の交流と発信を促進しなければならない。それをサポートする団体、各地域の経験や情報の交流の場となる「ネットワークのためのネットワーク」「プラットフォーム」がCANフォーラムという団体である。

2.CANフォーラムの活動

 事務局は現在4人で運営されている。専従のマネージャーが1人、残りの(私を含めて)3人が、ボランティアやアルバイトだ。さらに、GLOCOMのスタッフ数人が、(主として技術的な)サポートをしている。

 発起人を中心に運営委員会が構成されており、そこでで基本的な運営方針が採択される。さらに、地域の情報アクセスを高めるためにADSLや無線(ともにインターネット接続やLANを構築するときに使われる通信技術の1種)などの技術について展望するアクセス・チーム、地域の経済活性化を支援する切り口を探すアクション・チームなどのプロジェクトチームが設置されている。しかしこれらのチームは、別に本職を持った会員が個人の時間を割いてチームのリーダーとしての業務に当たっているという事情もあり、完璧に機能しているとは言い難い。現在までのCANフォーラムの事業の多くは、会長・マネージャーが中心となって企画立案を行い、各々のプロジェクトチームがサポートをし、事務局とGLOCOMのスタッフによって運営が行われている。

 以下簡単に、活動内容を列挙する。

・Webとメーリングリストによる情報の交換

 インターネットのホームページと、メーリングリストを活用して、地域情報化に関する情報交換を行っている。

・ニュースレターの発行

 紙媒体のニュースレターを毎月発行することで、これから情報化を進めようとしている地域に対してアプローチをする(FAXを入れることが情報化だという自治体、地域はまだまだ多い)。また、目に見える形の会員サービス(自治体は、“形”にならないものに対しては、なかなか予算を組まないため)でもある。栗田が編集人を務める。(既発行分は亀本さんに提出してあります。)

・コロキウム/セミナーの開催

 月に1回程度、コロキウムやビジネスセミナーを開講している。コロキウムは、スタンフォード大学のウィリアム・ミラー教授や伊那市xDSL利用実験連絡会の平宮氏など、国内外で地域の情報化に実際にとり組んでいる方々を招聘し、ご講演いただいている。ビジネスセミナーは、ODP(オン・デマンド・パブリッシング:インターネットを活用し、注文のあった部数だけ論文集などを印刷・製本・発行する新しい出版のやり方。)、インターネットによる通信教育など、情報化に伴って生まれてくる新しい産業のプレゼンテーションを行っている。

・その他

 長野オリンピックの期間中に選手村が設置された長野市川中島町で、域内LANを整備し、インターネットによる地域情報、オリンピック情報の発信、外国選手へのインターネット端末の供与などを行った。また、「24時間つなぎっぱなしで情報交換できる環境」の確立を目指すために、NTTのADSL実験などにも参加している。

3.セルシティとCANフォーラム

 CANフォーラムでの研修は私にとって大雑把に言ってふたつの意味を持っていた。ひとつめはNPOの発展段階に立ち会うこと。ふたつめは、「内からの情報化」「地域から始まり、中央へと発展する情報網」という概念が、地域を一つの基本単位とみるセルシティ構想に合致していたことである。

 CANフォーラムがNPOとして正式に発足したのは、97年の9月。以来3ヶ年計画で、97年度中に会員数100名、98年度中に1000名の目標を立て、97年度の目標は達成することができた。それなりに社会的知名度の高い人物が発起人に名を連ねている以上、会員数100名というのはそう難しいラインではない。これを10倍に拡大できるかが、今年度の活動にかかっている。

 97年度を黎明期だとすると、この一年は飛躍期だといえるだろう。この一年、98年度こそが、CANフォーラムというにとって、NPOが大きくなれるか否かの試金石の年、正否の分かれ目となる。そういった岐路に立つNPOの雰囲気を肌で感じ、その結果を間近でみることは、これから先の時代、地域を運営する主体の一角に数えられるNPOの実状を知る上で大いに参考になった。

 セルシティ構想では、一つの基礎単位である地域を生物体からのアナロジーで捉えたりもするが、その伝でいけば、CANというのは神経系にあたるだろう。地域住民の発信する様々な情報を集められる点で知覚神経的であり、それを発信し、外界に影響を及ぼす点で運動神経的であり、地域コミュニティの新しい像を提供し、地域を賦活化させるという点で自律神経的である。

 CANの試み自体はひじょうに意義深いものといえる。富山県山田村や、諏訪市などの地域情報化の先進地域では、実際に地域の活性化や、従来の産業への付加価値の貼付、住民の自己表現意欲の向上などの効果が見られ出している。

 CANは、情報通信という専門分野に特化している。しかし、情報循環を広義にに捉えたとき、そこにはまだ別のシステムがあるのではないだろうか。

 人間の体内の恒常性を保っているのは、神経系と内分泌系(各種ホルモン)の力だ。両者の働きが急激な変化とゆるやかな変化を導いて、体内環境をほぼ一定に保っている。(注・動いていることで一定に保つ。回転しているこまが倒れないのと同じ。)地域の情報循環にしても、神経系である情報通信(主としてハード整備とそれに関連する参加のノウハウ等)の他に、内分泌系にあたるシステムの整備を同時に行わなければいけない。内分泌系にあたるシステムとは何か。はっきりした答えはまだ出せないが、キーワードとして考えられるのは、住民参加、行政と住民の協働、地区行政センターへの権限委譲(ダウンサイジング)、自治組織(自治体、町内会)の活用である。

 これらのシステムをどのように組みあわせ、地域と言う“個体”を作り上げていくかは、首長や地域マネージャーの力量にかかっており、ここでもエンジニアとマルチチャネラーの共同作業が必要とされている。

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栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

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