論考

Thesis

札幌市リーディングプロジェクトに参加して

昨年9月から、札幌市のリーディングプロジェクトにワーキンググループのメンバーの 一人として参加してきた。コンサルティング契約上の守秘義務もあって、いままでレポー トでの報告を差し控えてきたが、4月末に報告書を提出することとなったので、今回ここ に報告することにしたいと思う。(ということなので、ホームページにはしばらく掲載し ないでください。)

[計画の内容と経緯]

 札幌市の中心部よりやや東側、地下鉄東西線の東札幌駅のすぐ近くに、旧国鉄東札幌駅 (貨物駅)跡地がある。今回のプロジェクトは、この空地の開発と、空地を中心とした地 域の再開発がテーマである。開発予定地区の面積は約15.7ha。札幌市の企画調整課が中 心となって計画が進められた。

 この開発予定地区の一部に公共ゾーンを設定し、その中にコンベンションセンターと人 材育成施設を中心とした地域間交流施設を造る、それが今回のリーディングプロジェクトの目的である。

 リーディングプロジェクト(以下リープロ)とは、自治省が県や市町村といった地方自 治体の先導的な地域づくりに対する取り組みを積極的に支援するために設けた制度のこと である。下記の5つの特定政策課題が設けられており、その課題に合致する計画でなけれ ばならないとされている。

  1. 健やかな地域社会づくり
  2. 地域の環境と調和した魅力あるまちづくり
  3. 地域情報化対策
  4. 地域間交流
  5. 地域産業創造対策  

 「東札幌」のプロジェクトは、4.地域間交流 にあてはまる。

 リープロとして自治省から指定を受けた地方自治体は、推進計画策定委員会を開催し、 学識経験者などの意見を求めながら、合致する特定政策課題に対応するための「推進計画書」を作成し、その計画に沿って事業を推進していく。今回私が参加したのは、策定委員会に出す基本プランを作成するワーキンググループ(地域開発のコンサルタントなど3名 で構成)であり、策定委員会から札幌市に提出され、推進計画所の叩き台となる、報告書 作成の実務を担当した。

 推進計画に基づく中核的な単独事業(つまり、今回のコンベンションセンターと人材育 成施設の建設にあたる)については、地域総合整備事業債(特別分)の充当率を90%とす るものとし、その他の単独事業についても可能な限り、地域総合整備事業債の優先充当が 行われる。

 そもそも、札幌市にしてみれば、二つの施設が欲しかっただけで、その資金調達の方 便としてリープロを利用したという感は始めからあった。コンベンションセンターを何故 つくるかという理由も、コンベンションのニーズがあるからというよりも、地域産業振興 のため、都市間競争に負けないためであった。

 この先の自治体経営(特に都市部)においては、産業誘致・育成、人口増加、税収増加 をにらんでの施設・インフラ整備がますます盛んになるであろう。そして、そのほとんど が、地方債や国からの補助金(=建設国債)の名を借りた借金で賄われることになるであ ろう。危機意識からそうなってしまうのは、よくわかる。いままではそれが行政努力であ り、住民(特に産業界)のニーズであったのもわかる。しかし、このままでは、過度の軍 拡競争の中、極度の経済的な疲弊に落ちいっていった旧ソビエト連邦と同じ末路を辿るの ではないだろうか。

 必要なのは現在の資本の枠内でより効果的な投資をすることであり、そのためのより効 率的な社会システムを構築することである。多くの、優秀なコンサルタントはそのことに はとっくに気がついている。遅れているのは、建設業界などの一部に見られる自分の利益 を最重要視する体質を持っているところ、そして、自立意識を持たない一部の行政である 。

[二つの縦割り]

 今回このプロジェクトに関わってみて一番感じたのが、よく言われる縦割り行政の弊害 ということだった。それも、市レベルと国レベルとそれぞれのレベルで、計画策定にあた っての障害を味わった。

 現在札幌市では、ワールドカップへ向けてのドームの建設、駅前を国際ゾーンと称して再開発するなど、大規模な開発計画が幾つも進められている。この一つ一つが異なるセ クションの担当により進められているために、施設の引っぱりあいという事態が起きる。
 例えば、東札幌地区においては、中核施設として建設が決定していたコンベンションセン ターと人材育成施設に加え、付帯施設として女性センターとか環境プラザ、町づくりプラ ザなどの移転・建設が計画されていた。この女性センター・環境プラザ・町づくりプラザ などの施設はそれぞれ異なったセクションの所轄のため、これらの施設を誘致するために は、個別にその担当者と交渉しなければならない。施設の担当者は、いくつもの開発計画 の中から、一番良い条件を提示してきた場所を選べばよいわけである。

 この方法は、一つの施設をつくるときには最高の立地条件を選べるという利点がある反面、市全体の施設 バランス、生産過程の効率化を図る上では、やや不効率である。特に、それぞれのセクシ ョンが競争意識を持ち、自分の部課の業績向上にやっきになっているときには、この仕組 が負のフィードバックとして働いてしまう。

 さらに今回の開発では、地域再開発が建設省管轄、中核施設が自治省管轄であったために苦労をさせられた。例えば、施設を計画 するに当たって、公共空地や土地の形状、公園の使い方、全体の動線計画などに言及する と、そこはもう建設省の管轄に入ってしまい、我々の提案範囲外になってしまう。かとい って、そういったものに触れずして、まちづくり、ましてやリーディング性のあるまちづ くりを提言することはできない。

[誰のための開発か]

 今回の計画参加に先立ち、1期の橋川塾員にお会いしたところ、「常に市民のために仕 事をしているのだということを忘れないように」とのアドバイスを頂いた。そう心がけて 仕事をしてきたつもりだが、始めての地域開発の仕事であり、札幌市主導の体制の中で、 思うような成果を残せたとは言い難い。

 「もの」をつくる仕事には多くの人の思惑が絡み合う。自治省、札幌市の多くの部局、策定委員、北海道、市民、経済界、コンサル‥‥。その中で、本当にをみんなの役に立つ施設つくろうとしている人は少ないし、みんなの役に立つ施設がなにか、その よって立つ価値観もばらばらである。多くの人の意見を聞き、多くの価値観を認めながら も、地域や国や人類が生き残ることのできる新しい一つのシステムとして、それを構築で きる人材が必要とされている。

  そういえば、二年前。

「人は、目に見えるものやてでさわれるものに一番影響される。だから、私は実際にものや空間や場所を造ることに よって、新しい思想やその思想に裏打ちされたシステムや制度を広めていきたい。」
そういって、塾にやってきた日のことを思い出す。

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栗田拓の論考

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Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

くりた・たく

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まちづくり 経営 人材育成

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