10月22日、塾生活最後の中間報告会があり、3年半の研究活動の総まとめの発表を行った。今月の月例報告でもそれに準じ、「セルシティ概論」として、これまでのまとめを行うことにする。

1　定義

　セルシティ（cell city）とは、人間がより安全に暮らせる自立した単位としての新しい都市のあり方、社会システムをいう。
　セルシティは、従来の経済効率一辺倒の産業-工業都市と異なり、地球環境への負荷が小さい自律循環型の都市である。同時に、個人が自己の責任において生活設計、まちづくりを行える自治体でもある。その姿はあたかも生物の細胞のように、自身で考え、活動し、交流し、成長するものとなる。

　この考え方における国家とは、自立した地域国家（セルシティ）の連合体の形を取る。

【解説】
　人口爆発にともなう食料・エネルギー・環境の危機により、現代人はライフスタイルの根底からの見直しを迫られている。「21世紀は都市の時代」という言葉に象徴されるように、人口、産業、消費の集中する都市は21世紀後半には実に世界人口の9割が居住する場所になるといわれており、都市構造、都市社会システムについて考えることは、人類の文明、ヒトという種の存続について考えることと同義になっている。

　多くの人々が暮らす都市は、科学技術の発展によって高機能化するとともに、脆弱さも強めている。分業体制が進んだ社会において、個人が生産・消費・廃棄（再生）のプロセスの全てにひとりで関わることは実際上不可能になっている。現代社会における個人とは社会システムの中の一部分であり、単体としての生存能力をもはや持たなくなっている。そのため災害等で都市機能が損害を受けたときには、川に水があってもそこから飲料水を作り出す能力がない、道具も材料もあるのに火をおこして食事を作ることができない、などのプロセスカット型文明（cf 糸川英夫氏著書）の弱点を露呈することになる。都市について再考することは、個体としてのヒトの生き方、安全について考えることとも同義である。

　本来都市とは、自然の脅威や外敵から住民の生命財産を守る役割を持つ。それが都市が巨大化し、地球の容量が相対的に小さくなった現代においては、都市の活動そのものが自然に対する脅威となり、都市自身が環境破壊をおこし、さらなる都市の機能強化が迫られるという負のフィードバックを生みだしている。都市暮らしの利点はもちろんたくさんあるが、都市が人間と自然とを切り離し、生存能力を退化させてきた側面があることも否めない。

　セルシティは現代の都市のあり方、都市機能を再考し、自然と対決しない都市、人間が人間本来の姿で暮らせる都市の実現を目指すための考え方である。

2　機能

前項の基本的な考え方を「自在」という語で表す。「自在」という表現は以下の意味を持つ。セルシティは以下の機能を持つ。

Ⅰ自立

Ⅰ-1　自治　地域自らが意思決定を行う権限を持つ。

Ⅰ-2　自給　食料・水・エネルギー・産業・人材をあるていど地域内で生産、供給できる。

Ⅱ自律

Ⅱ-1　自助　住民自らが意思決定を行う仕組みを持つ。

Ⅱ-2　自制　資源・エネルギーの循環利用の仕組みを持つ。

【解説】
　セルシティの基本的な考え方は、自立と自律という言葉で表される。
　Ⅰ自立とは個として確立されていること、Ⅱ自律とは個として調和がとれていることを意味する。人間にたとえれば、肉体・精神が確立した個人であり、肉体・精神ともに健康で調和よくバランスがとれている（ホメオスタシー＝恒常性の確立）ことを意味する。

-１項は、人間にたとえれば頭（精神活動）に当たる部分である。
-２項は、人間にたとえれば体（肉体活動）に当たる部分である。
自治とは、地方分権による地域への権限委譲、連邦制への移行など、地方自治の実現を意味する。
自給とは、地域内基本食料自給率のアップ、災害時の危機管理、教育の分権、地域産業振興など、自給自足体制の確立を意味する。
自助とは、住民参加、情報公開、地域情報化、地方行政・地方議会改革など、意志決定の仕組みづくりを意味する。
自制とは、ゼロエミッション、森林交付税、河川流域連合など、循環型地域づくりを意味する。

【参考】
　セルシティの機能の分類は、基本的な考え方を易経・五行によっている。自在、自立・自律、自治・自給・自助・自制の基本分類は、太極、陰・陽、大陰・少陽・少陰・大陽の分類（密教ヨーガ、神智学も同じ）による。また、地域自給の主要要素（食料・水・エネルギー・産業・人材（・情報））は五行（木＝食料・水＝水・火＝エネルギー・金＝産業・土＝人材（・空＝情報））に対応している。