論考

Thesis

Cell City の根っこ

酔っぱらう度に青臭い議論を重ねてきた。理屈も、論拠もあったもんじゃない。ただただ自分の今までの短い人生経験だけを楯に、理念、信念、いやそこまで昇華されたものじゃない、わけのわからぬ形になりきらない“思い”をぶつけあってきた。
 やがてみんな思いを形に変え始める。議論はひかえめになり、まわりでみている誰もが、彼がなにをしたいのかわかりはじめる。
 そしてCell City が最後に残された。

 5年間ともに過ごした同期生にも、私のテーマはわかりづらいらしい。いまだに酔っぱらうと、
 「Cell City がなにか、全く分からない。幼稚園児にでも分かるように説明しろ!」とからまれ、喧嘩になる。
 幼稚園児に分かるかどうかはともかく、酒癖の悪い彼のおかげで自分の考えを誰にでもわかりやすく伝える訓練が相当できた。がその一方で、誰にでも分かる言葉を使うがために、本来の自分の気持ちから言葉がどんどんかけ離れていった。分かりやすい言い方は、不正確な言い方でもあった。

 3月で卒塾する。
 月例報告最終回は、誤解を怖れずに、「空体語ばかりでさっぱりわからない」という非難に耳をかさずに、「分からない人や、分かりたいなんて思っていない人に分からせようとするのは時間の無駄だ」と不遜な態度で、自分のテーマについて徒然なるままに記したいと思う。

 さて、テーマだ。
 わたしのテーマは、「場所」である。人生のテーマであり、政経塾でももちろんそうだった。

 みなさんは、自分の一番最初の記憶を覚えているだろうか?
 わたしは、はっきりと覚えている。幼稚園に通い始めたばかりのある朝のことだ。
 見知らぬベッドで目が覚めた。自分がどこにいるのか分からなかった。
 前夜以前の記憶は全くない。覚えていないのではない。その後幾たびも、あるときは夢の中で、またあるときは記憶の糸をたどりつつ、反芻してみたのだから。私の記憶はこの日の自宅のベッドでの目覚めから始まっている。
 真っ暗な場所が、黒と白の世界になって、やがて光に包まれる。ゆっくりと目を開けると見たこともないけれど、はっきりと母だと分かる女性がそこにいて、「今日から幼稚園だよ」という。
 私は、4才のその朝、忽然とこの世界に現れた。

 自分以外の人がすべてロボットか宇宙人で、自分を見張っているんだという妄想に囚われたことがありますか?
 世界は全て自分のイメージで、自分が死んだら世界も真っ暗になって、「ハイ、おしまい」ってなる妄想は?
 心理学の本を読みあさっていた頃、こんな妄想は幼児期にはありがちだと知ってちょっと安心したのを覚えている。

 ずっと、違和感を覚えてきた。ある日突然自分が現れたこの世界との間に。

 自己と非自己は大変重要なキーワードだ。前にも月例報告でちょっと書いたけど、自分という存在が何か、どこまでなのか突き詰めて考えてみる。すると、結局薄っぺらな皮一枚(精神的にも肉体的にも)で隔てられた、“他者と違うもの”が自分であると分かる。外側の世界を追求するのが、環境学であり、造園学だ。内側の世界を追求するのが、哲学や人間学だろう。Cell Cityは、内なる自己と外なる世界の架け橋になる。

 原始宗教は、必ず二つの根元的な命題を持つ。外側の世界に対する問い。「世界ってなに?」「宇宙の果てはどうなっているの?」。そして内側の世界に対する問い。「自分はなに?」「人間はなんのために生きるの?」。
 三つ目の命題は・・・、「ここで生きていてもいいのですか」「自分の場所はどこにあるのだろう」。二つの世界の関係を知るための問いだ。

 「人生は旅だ」、といった人がいた。「ある人はふるさとから一歩でも遠くへ行くために旅をし、ある人はふるさとを見つけるために旅をする」と。

 カスタネダとSF作家中井紀夫からの、記憶だよりの乱暴な引用。
 「ゆっくりと横目で辺りを見回しながら林の中を歩いていく。するとある日、石の脇とか木の枝の上とか、どこか一カ所が輝いて見える。それがお前の場所だ」
 「人間誰でも必ず自分の場所を持っている。そこにいれば、ゆったりと安心して。そう、世界が自分と調和していると感じられるところだ」。

 あなたは自分の場所を持っていますか。あなたは世界とジャストフィットしていますか。

 探すのも、作るのも、同じことです。

   (2000.3.28 tac)

Back

栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

くりた・たく

Mission

まちづくり 経営 人材育成

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門