論考

Thesis

考え出すと眠れない話

高校生のころに読んだ本の曖昧な記憶。
 小説家アイザック・アシモフと友人の会話。
 友人「なあ君、このまま科学がどんどん進歩していったとして、いつの日かこの世のありとあらゆる事象が科学の力によって解明される、そんな日が来ると思うかい。」 アシモフ「いや、僕はそうは思わない。僕はこの世の真理というものはフラクタルな構造をしていると思うんだ。いくら科学が進歩しても、解明されずに残っている謎は、前と同じ複雑さで、同じだけ残るだろう。

 誰かがすばらしい発見をして、科学がまた一段階深化したとしよう。世の中の謎が、一つ解けたとしよう。それで世界の秘密は一つ減るだろうか? いいや、そこで我々が見つけるのは、いままでとまったく変わらない、同じくらい複雑な世界さ。科学がどんな高みまで上ろうとも、真理の大海は常に僕らの前でたゆたっていて、その水は少しも減ってないんだ。」

 私がまだ19歳で、ヨーガをやっていた頃に聞いた話。
 私のヨーガの師匠の師匠は飯島貫実という人で、アメリカでダーマ・ヨーガ道会を主宰していた。ある日のこと、火の鳥を描き始めたばかりの手塚治虫が会いにきた。 仏教のこと、般若心経のこと、世界のこと宇宙のこと。さんざん話して帰っていった彼は、後にこんなシーンを描いた。

 「主人公が火の鳥の尾につかまって、飛び立つ。火の鳥は極大の世界へ向かって、ぐんぐんと飛んでいく。地球が小さくなり、太陽も銀河の中の一つの光点となり、その銀河さえも沢山の銀河に埋もれたとき、主人公は突如として、この宇宙が巨大な生物のちっぽけな細胞の一つに過ぎないことに気付く。そこで火の鳥は反転すると、次に極小の世界へと向かう。人間の細胞へ飛び込むと、そこでは電子が原子核の周りを惑星のように周っている。その惑星の一つへ降りると、そこでも生物が暮らしている。

 そこで、主人公は宇宙は極大へも極小へも無限の階層を持っていること、そして、極大と極小に本質的な違いがないことに気付く。」

 卒論に書いたこと。
 認識されている世界は、世界本来の姿とはかなり違っている。世界の原形を我々が認識するとき、それは、「感覚器」と「意識」という二つのフィルターによってろ過され、変質する。「意識」は自分が認識した(変質した)世界像を正しい物だと信じ込み、世界に対して「干渉」する。その結果世界はますます歪められ、このフィードバックが限りなく続く。世界を正しく観察する方法は、無関心をよそおい、決して観察しないことである。
 仏教の諸行無常(ものみなつねなし)という言葉から導き出されることは、「永遠に続き存在するものはない(万物流転、生成発展)。しかし、永遠に続き存在するものがある(根源の存在)」ということである。例えていうならば、我々が認識する世界は、テレビドラマの世界であり、我々は映画のスクリーン上でうごめく影法師であるということになる。たった今この一瞬はどこかに消えてなくなってしまい、同じ場面は二度と戻らない。テレビの中、スクリーンの中から見れば、それが世界のすべてである。しかし、世界の外側から見れば事情は異なる。そこには、スクリーンが、テレビが、映写機が厳然として存在する。(卒論の題名は「環境医学に於ける空間と人間」。今思うと、ソフィーの世界の切り口と同じ切り口かもしれない。)

 人生とは、川面にできる渦のようなもの。渦は形をかえ、場所をかえ、現われては消える。形は目に見えるけれど、それは中を常に新しい水が流れ続けているからである。肉体も同じ。食物が、空気が常に体の中を通り抜けていく。器が空でないとものは入れられない。食べることより、出すことが大事。吸ういきより吐く息が大事。もらうより与えるが大事。

 それから、世界は点滅している。

 最近、電車で考えたこと。
 人はなぜ眠るのか。人は毎晩眠りにつくとき、死ぬための練習をしているのだという説を聞いたことがある。だとしたら、眠りは小さな死か。
 もっと小さな死はなんだろう。ぼーっとしているとき? 瞬き? 気功をしていると、均一な物質(壁、一枚の金属板など)上のエネルギーの密度の濃淡が見えるようになってくる。人生にも生命の密度の濃い時間と薄い時間時間がある。
 もっと大きな死は何か。輪廻転生があるとすれば、それ全体が一つの死か、生か。どこまでが陽で、どこからが陰か。陰と陽の境目が曖昧なように、生と死の境目も曖昧なのか。胎児は人間か、脳死者は本当に死んでいるのか。

  ヨーガに一番難しいのは生きることだと教わった。世の中、生きているだけの人は多いのに。

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栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

くりた・たく

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まちづくり 経営 人材育成

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