Thesis
日本という国が変わっていくプロセスとはどんなものだろうか。国民一人一人の意識改革があって、結果制度改革があり、国が変わっていくのだろうか。それとも、まず制度改革ありき、で、それにつれられて、一人一人の意識改革 がなされるのだろうか。7月の月例レポートを書いたあとで、友人とこんな話になった。
ニワトリが先か卵が先か、意識改革が先か制度改革が先か。得た結論は、どちらも先であり、後である、だった。
改革の手法の分類の仕方にはいろいろあろうが、その中のひとつとして、意識改革と制度改革という分類方法や、上からの改革と下からの改革という分類方法があげられるだろう。これらを縦軸と横軸にとって表を作ると、どのような切り口からのアプローチがどのような意味を持つのかがわかる。
上からのアプローチ(パブリックへの訴えかけ)
←行政改革→ ・ ← トレンド生産者 →
← 代議士 ・ → ← 啓蒙家 →
← ・ マスコミ →
← 経済界 →
← 理想の政治家 →
制度重視・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・意識重視
← 地方議員・ →
・ ← トレンド消費者 →
← NPO・地域活動家 →
・ ←消費者運動→
下からのアプローチ(個への訴えかけ)
この中で今回特に言及したいのは、トレンドについて、である。
良い政治の条件の一つとして、時代に適合していることが上げられる。我々は、過去の、歴史上の政治判断に対して、あれは正しかったとか、あれは間違っていたとか、批評を下すことがある。これら評価される政治判断の中には、後世より見ればまったく愚かな選択であったとしか思えなくても、その時代に於ける政治判断としては間違いではなかったものもある。例えば高度成長期に於ける発電用ダムの建設がその顕著な例である。ダム建設は環境破壊であり、現在新たに発電用ダムを造ろうとするのは誤った判断である。しかし、当時の時代背景、国民の生活水準や電力事情、技術力を鑑みた場合、ダムを造るという政治判断は決して誤りではなかったのである。
政治を行うには常に時代の行く先を見ていなければならない。意識ある人々が政治・行政改革を起こし、その制度の下で、さらに意識の改革が図られる、そしてまた、新たに制度改革が行われる。こうした政治と民意、制度と時代意識のキャッチボールは、制度改革の実行者である政治家に正しい時代認識、未来予測があってこそ始めてうまく行く。
この時代意識(その時代をリードしていく考え方、時代の潮流、トレンド、多くの人の生活方式、生活文化などの漠然とした集合体)の変化を生み出すものが、トレンド生産者であり、それを制度改革、機構改革に結び付ける力が、トレンド消費者である。
トレンド生産者は、発明家であったり文化人であったり、経済人であったり、もちろん政治家であったりする。共通点は新しいもの、文化、価値観を生み出すというところにある。そしてトレンド生産者の特徴は、多数に頼まず、一人ででも社会変革を引き起こすことができるところにある。何年か前にJリーグブームが起こったが、このJリーグが実際に設立されるようになった“力”の背景には、一人のトレンド生産者がいた。
「キャプテン翼」という少年漫画が一世を風靡したことがある。主人公の翼はサッカー好きの少年で、彼が必殺技を駆使して試合に勝っていく、というのがその内容である。これが当時の小中学生に男女を問わず受けに受けた。それまで野球にくらべてあまりぱっとしなかった、少年サッカーチームへの入門希望者が増えた。コミケ(コミックマーケット=年1~2会晴海で行われていた漫画同人誌の即売会)は翼一色になり、サッカーのユニフォームを着たコスプレ軍団が現われた。「キャプテン翼」に熱中したこの世代が、現在のJリーグを支えている、選手、サポーターの世代なのである。
この例における「キャプテン翼」の購読者がトレンド消費者である。トレンド生産者の手によってつくられた“もの”は、トレンド消費者のライフスタイルの一部に組み込まれることによって、消費され、時代意識へと進化する。時代意識が強力になってくると、やがてそれが、機構改革、制度改革を促すようになる。(そして改革後の社会システムが、新たな時代意識を誘導する。)
この過程において政治家の役割は二つある。
一つ目は、時代意識を読み取り、それに沿って改革を行うこと、時代意識から機構・制度などの社会システムに対する働きかけの触媒の役割を果たすことである。これは先述の正しい時代認識を持ち、正確な未来予測を行うことに通じる。
もう一つは自らがトレンド生産者になることである。これは時代の波に乗るだけでなく自らの手で時代をつくること、さらに、革新的なトレンドが間違った方向に国を誘導していると判断したときに、単にそれを規制するのではなく、新たなトレンドを提出することによって、保守をするという行為まで含んだ意味合いを持つ。
このようにどのような立場から行うにせよ、改革という行為ににおけるトレンド予測、未来予測というものの持つ意味は決して小さくはない。
私は6月から7月にかけて、都内の企画会社とともに今後10年間のトレンド予測を行った。報告書自体は、ある企業の依頼を受けて作成したものなので、今その詳しい内容をここで明らかにすることはできない。しかしひとつだけいわせてもらえば、これからの10年間は世間一般には情報化時代だとさわがれているが、マルチメディアやインターネットに代表されるコミュニケーション技術などの技術的進歩以前に、根源的な意識変化が生活者の間におこる(おこりつつある)意識的進歩の時代なのである。そして、多様な方向性を持つ様々なトレンドの中から何を選び何を規制するのか、政治家の舵とり能力が真に問われる時代でもある。
Thesis
Taku Kurita
第16期
くりた・たく
Mission
まちづくり 経営 人材育成