論考

Thesis

生態学的な地域、フラクタルな世界

5月の月例報告に、私は「地域の主権化」家になるということ、そして漠然とではあるが 、その職能について現在思っていることを書かせていただいた。それに対し、さまざまな 助言を下さった諸先輩方にまず御礼申し上げたいと思う。
自分の考えをこうやって文章にしてみて、改めて、文章表現というものの効能である怖さ とか、有難さが感じられる。

 さて、今回私は、私の考える地域の主権化の活動の結果として、どんな世界構造が期待 されるのかについて書きたいと思う。もちろんまだイメージと検証を繰り返している段階 なので、まだまだプロトタイプなのだという御理解の下で、御一読下されば有難い。(図 がいれられればもう少しわかりやすく説明できるのだけれども。すいません。)

 まず始めに最小単位の地域がどのような要因によって規定されるのか、その可能性を述 べ、しだいに大きな構造についての話に移っていきたいと思う。

A.最小単位の地域

 最小単位の地域の領域を決定する最大要因は、生物地域である。

 世界的なエネルギーの需給バランスを考えた場合、従来の技術では現在の生活レベルを 保ちうるエネルギー供給を維持することは難しい。本来、地球上に存在するエネルギー( 風力、波力、化石燃料等)はすべて太陽という炉からのエネルギーであり(除地熱)、供 給量を越える消費を続けていれば、いつかは枯渇する。これを解決する方法は、2通りある。

  1. 供給を増やす。
  2. 需要を減らす。

である。

1.供給を増やす方法。 

a.原子力発電を増やす。  

ただし、私はこの手法をとりたくない。事故が起きた場合、人間のもつ現在の技術では、被害の拡大を防ぐことが不可能だからである。制御できない技術は身近に置くべきで はない。

b.全く新しい技術開発。  

期待はされるが、まだ未知数である。本論より逸脱するので詳細は文末へ。

c.生物的システムを取り込む。

 エネルギー供給に於ける問題は、エネルギーがなくなってしまうことではなく、人間にとって使いづらい形に変化してしまうこと、エントロピーが増大することである。ひじ ょうに使いやすい形である電気も、使うことによって、その大部分が使いづらい、熱や光 に変わってしまう。これらの使いづらいエネルギーを再利用、もしくはエントロピーを減 少させることによる再生をすることが必要である。
 熱の再利用はかなり進んできてはいるが、用途はまだ限られている。これら再利用に関 する研究開発に加え、エントロピーを減少させることができる地球上唯一のシステム、「 植物」に始まる連鎖の循環のなかにエネルギー問題解決の手法を見つけるべきである。

2.需要を減らす方法。

 需要を減らす話をすると、「生活レベルを再び下げることなどできない」という議論になりがちである。しかし、エネルギー消費を抑えて生活レベルを落とさないことは、そう難しいはなしではない。

 その土地々々の風土にあった建築を行うバウビオロギー(建築生物学)の試みは、冷房 、暖房をほとんど必要としない建築物への回帰に成功している。

また、漁業や農業の分野 においても、例えば、養殖池の環境を安定させるために使うガソリンモーターは、ある種 の魚類と置換可能であるという実験結果もある。
 もちろんこういった試みの多くはまだまだ試行錯誤を繰り返している段階である。問題 も多いだろう。しかし、経済効率一辺倒の考え方さえ捨てることができれば、生活レベル を下げることなしに、エネルギーの消費を抑えることは可能である。

 供給と需要。どちらの場合も求められるのは、新技術の開発ではなく、技術の質的変容 である。(もちろんその背景にはパラダイムの転換の必要性があり、これが最大の難問なのだが。)いままである技術の違った使い方を考える。そのことによってよりエネルギー のロスの少ない地域を創ることができる。このときの一地域のサイズはいまのところ明確 には示せないが、その領域は、社会システムの中に生物システムが深く取り入れられてく ることから、生物地域(少し広めにとれば、島、河川、分水嶺などによる境界)に大きな 影響を受けることになるだろう。

 エネルギー問題に関してのみ言及したが、他の問題に関しても同じようなことがいえる と思う。今日の世界的課題は、グローバルな側面とローカルな側面とを倶に持つ。私は、 もう少しローカルな側面に着目しても良いのではないかと思う。特に食糧やエネルギーに 関しては、一箇所で大規模に生産するよりも、ある程度の部分までは、地域の生態系にあ ったスケールでの解決を図ろうとするほうが、より「自然」で、無理のない方法のような 気がする。このスケールは、ヒューマンスケール、人間の「暮らし」に適合したサイズで もある。

B.フラクタルな世界構造

 基礎的な単位となる地域(以下、一次地域)とそれらの集合体としての地域(以下、二次地域。同様に三次地域など)との関係は、上は地球全体に及ぶ社会システムから、下は 家族(世帯)集団までに及ぶフラクタルな関係の中に位置付けられる。

 前節において述べたような一次地域は、あたかも一つの細胞のようにそれぞれの地域で の自給を目指すが、余条件の差によって、当然「個性」が出てくる。
 政治機能が強いもの、食糧生産が強いもの、交通の要衝にあたり商業に強いもの。これら の地域をまとめて二次地域とした場合に、二次地域間にも同様の関係がみられる形、このような形が一つの理想である。
これはどの一部分をとってもそれが全体としての機能をあ る程度維持している形であり、どんな極限状態においても人間が生きていける環境を維持 する、という意味での安全保障にかなった形である。
 この状態には、二次地域、三次地域と大きくなっていく過程での商習慣のすり合せをど うするのかなどの課題が残る。しかし個々の一次地域をみた場合、一次地域はそれぞれが 持つ風土に立脚した地域であるため、その構造的多様性は確保されている。
 個々の一次地域(もしくは二次地域)が、社会経済的な独立度を高めていくのに伴い、 国家(三次地域か四次地域に相当)自体の存在意義は希薄になる。低次の地域は緊密な集 中力を持ち、高次になればなるほど緩やかな結合を持つようになるだろう。それはあたか も重力が距離に反比例して弱くなるようなものである。

 都市への人口集中は、まさしく重力の作用に例えられる。
 重力は「質量に比例して強くなり、距離に反比例して弱くなる」。
 まさしく東京を始めとする巨大都市の現在の姿ではないだろうか。どんどん周囲のもの を吸い込み続け、やがて、自分の重さに耐え切れずつぶれてしまう中性子星の姿が目に見 えるようである。
 適正規模の星が適正な間隔で存在することによって、銀河の運行のハーモーニーが保た れるように、適正な規模の地域国家が、適正な間隔で存在するべきではないだろうか。星 と星の間になにもない空間が広がっているように、地域と地域の間の人口分布は、正弦波 を描くべきではないのだろうか。

 もし本来の地域の姿が、今まで述べてきたようなものであるとしたら、現実にはそうはさせない何か、阻害要因があるに違いない。カイメンでさえ、自己認識の機能を持ち、体 細胞をばらばらにしても自分の細胞を見分け、くっつくというのに。地域がひとつになる 力、地域のアイデンティティを薄れさせたものは何だったのか。
 一つは、富の再分配システムの不備かもしれない。富の再分配システムの不備は、都市 を重くする。
 あとは、まだわからない。今、ここに記したことも完全に正しいかの裏付けとなるデー ターはまだない。ただ、問題点は多いにせよ、直観的にはこのベクトルはそうは大きくは ずれていないのではないかと思う。 そうはいっても、すぐに世界がこのように変わりはしないだろう。この手前にも、そし て先にも、幾つものステップがあるだろう。
 キーワードは幾つかある。まずそこから、もう少し、自分のもっている問題意識や地域 のイメージをクリヤーにする。行き詰まる度にそこへもどり、そこから、またこの仕事を 始めようかな、と思う。

注1・

このレポートは地域の構造、社会システムの一部の平面的な広がりについて言及し たもので、情報網や流通網などシステムの多くやネットワークについて、言及するもので はありません(言及できていません)。どれだけのものを視野にいれていったらよいのか 、ご指導をお待ちしています。

注2・

話のたねとして、新しいエネルギーの開発方法について
 無からエネルギーを取り出す話があります。これは、私が卒論「般若心経からみた 空間認知論」(題名は違いますが)でちょこっと触れた話なのですが、
 「なにもない空間はなにもないのではなくプラスのエネルギーとマイナスのエネルギー(物質と反物質)が同量存在しているために、なにもないように計測されるのだ。」
 という話です。ここから、物質(=エネルギー)を引き離せば、無からエネルギーが取り出せるわけです(同時に反世界ではエネルギーの爆発が起きる)。
 これは、全然証明されている話ではないのですが、実は糸川英夫氏も私と同じことを偶然おっしゃっていて、(しかも、ずいぶん前から。私が知らなかっただけでした。)氏の 予言によれば、この技術は21世紀の前半には実用化されるそうです。
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栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

くりた・たく

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