論考

Thesis

細胞都市序説9 「フィードバックシステムその1 行政審査制度」

4月の月例報告に対し、以下のコメントをいただいた。(今まで気がつかなかった。すみません。)今月の本論に入る前に、回答をしておきたい。

 『市町村合併推進論が、行政効率の面からのみ、という指摘はその通りだと思います。が、それだけで十分なのではないでしょうか。コミュニティ云々というのは、逆に行政単位がどうなろうと関係ないのではないですか。
 市町村単位が大きくなっても、コミュニティは変わらないと思います。』

 私の文章に多少言葉足らずの部分があったように思う。以下がこのコメントに関連しての私の主張である。

 市町村合併推進論が、行政効率の向上ときちんと関連づけて説明されているのならば良い。行政効率が向上するような合併ならば、積極的に行うべきだ。私が問題にしているのは、合併推進論の多くがその論拠をはっきりと示さぬままに、合併=行政効率のアップ、と唱えていることだ。合併して行政効率が向上することは当然考えられるが、その逆である可能性もまたある。首長や議員の数が減るという議論だけでなく、合併にかかる経費、合併後の行政システムの青図まで示した上でないと、説得力に欠けるというものだ。
 例えば、ファイリングシステムや庁内文書の様式などは自治体毎に異なっている場合が多く、その統一には当然経費が発生するだろう。その他にも、自治体間のインフラ整備度の差や地方債の発行額や過疎債の額など、合併後の青図を描くために簡単に入手でき、精密に計算・分析できる要素はたくさんあると思われるのに、なぜそういった分析を提示しないのだろうか。近隣の自治体で似たような箱ものを乱立させることが無くなる効果がある、という論もよく聞くが、そもそもこういった問題を引き起こしている箱ものは、政治家が自分の業績を誇示したり、建設業に過度の優遇措置をとろうとすることで作られることが多いのである。根本的な問題は、その必要性やコストを度外視して箱ものを作りたがる政治家や行政機構の改革にあるのではないか。
 それぞれの自治体事情をきちんと分析せずに、一般論で合併を語るのは危険であるし、そういった一般論は、有効な行財政改革案をだせない政治家のいいのがとしか聞こえない。当然の話だが、合併した方がよい自治体としない方がよい自治体とがあり、「平成の大合併」のかけ声に踊らされずに、自らの進路を理性的に判断できる、健全な運営が自治体には求められる。

 ではその健全な運営を維持するためには何が必要か。これが今月のテーマである。
 肉体には、ホメオスタシー(恒常性)を維持するための様々な環境のモニター機能と、環境の変化に対応するフィードバック機構がついている。同じように行政組織にも、モニターとフィードバック機構が必要だ。
 6月に、情報公開とそれを基にした住民による行政審査制度を導入した群馬県太田市へヒアリング調査にでかけた。
 政令指定都市では外部による財政監査制度が義務づけられているが、中都市(人口14万4千人)で、しかも行政のあり方にまで踏み込んだ審査は、全国で初になる。
 この制度の仕組みは、このようになっている。

  • 審査事項の応募:市民に、行政の仕事についての不明点、問題点を問う。
  • 審査事項の絞り込み:市民からの公募による行政審査事項選定委員会が審査事項の絞り込み(年間数点)を行う。
  • 審査委託:外部団体の「太田市行政審査委員会」と市が委託契約を結び、審査を行う。
  • 公表と反映:審査結果を市民に公表し、市政に反映する。

 なぜ、太田市でこのような制度が作られたのか。理由はふたつある。
 一つは市長の清水聖義氏が「自治体は経営すべきものである」との哲学をしっかりと持っていることにある。かれはこの制度を通じて市の行政の透明性・公平性を確保することに挑み、今度は、ISO9001(サービス業の経営効率を測る国際的基準)の取得を目指している。
 もう一の理由は、新庁舎への移転を契機にファイリングシステムの確立に取り組んでいたことにある。現在、全国的に情報公開への機運が高まっているが、太田市の担当者によれば、情報公開の根本は、「尋ねられた資料がどこにあるか瞬時にしてわかり、提供できること」にある。行政審査制度も、このファイリングシステムの整備の延長線上にあった、ということだ。(太田市の制度については、また次の機会に詳しく解説したい。)

 今、地方自治体に求められているのは、この「地域は経営するもの」という思想ではないか。その視点に立ったとき、行政の効率化というテーマを町村合併のような大きな話だけで捉えるのではなく、(ファイリングシステムの整備が住民による行政監査につながるというような)ルーティンワークの改善からの発想も生まれてくる。
 大きな視点と小さな視点の両方を要求される地方の政治家こそ、政治家としての職能を一番要求されるポジションになってきているのではないだろうか。

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栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

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