Thesis
前回の炎の博覧会についてのレポートに対し、本間さんから幾つか調査不足のてんをご指摘いただきました。そのうちの幾つかについての補足をいたします。
1.「炎」というテーマ決定がどんなプロセスでなされたのか。
博覧会のテーマを決定する過程においては、えてして「何をメインテーマにするか」よりも「どんなアイテムをもっているか」が優先されます。特に地方博においては、地域の宣伝という側面が重要視されますので、この傾向が強まります。炎博では地域のアイデンティティを主張するアイテムとして「やきもの」が選ばれました。なぜやきものなのか、はっきりとしたところは不明ですが、佐賀県は日本有数のやきものの産地であり、業界や役所内でのコンセンサスがとりやすかったであろうことは、何人かの県庁職員の話から窺えました。
あとは「やきもの」→「炎」という単純な連想によるものだと思われます。「やきもの」はアイテムとしては有効でも、テーマ性を問われた場合に具現化されすぎています。「炎」というイメージを前面に押し出すことによって、先月記しました幾つかのサブテーマと連関させることができたわけです。この「やきもの」→「炎」という発想の流れは日本国内では普通の宣伝で扱われており、先月はあえていうほどのことではないと判断し書きませんでした。
2. なぜ3会場(主要なものだけでも)という会場構成になったのか。
メイン会場である有田地区は、平らな部分の少ない地域です。もともと狭い土地に民家や窯場がひしめきあっていて、とても博覧会会場に適当な規模の用地を用意できる状況ではありませんでした。本来ならばもっと面積の大きい会場用地を別の場所で用意するべきなのでしょうが、炎博における隠れテーマの「やきもの」とのかねあいもあり、やはりメイン会場は有田地区でということになりました。九州陶磁文化館は有田にあります。やきものの中でも高価なもの、希少なものを展示するためには、それ相応の施設が必要です。既存のものを利用することによって、新たに施設を作らずにすむという経費削減効果が見込まれました。(有田地区・九州陶磁文化館間は専用バスで数分です。)吉野ヶ里サテライトに関しては、一つには有田地区の面積不足を補うために必要であり、もう一つには吉野ヶ里遺跡というアイテムを有効に使いたかったという事情がありました。これは確認がとれなかったのですが、地元に与える経済効果(特に観光収入加)を狙っていたものと思われます。
会場が何箇所にも分かれていることのメリット、デメリットですが、この地域ネットワーク型の博覧会という発想は非常に面白く、とくにメイン会場のほかにサテライト会場を県内外のあちこち設置したところに秀逸さが光ります。ただし観光客がサテライト会場までいくかというとかなりの疑問が残りますので、サテライト会場の主目的はやはり地域活性化にあるとみるほうがよいでしょう。地域活性化という観点からすれば一定の効果が上げられたと思います。偶然とおりかかったサテライト会場にもその日は地元の人が沢山入っていました。あとはサテライト会場の企画運営にどの程度地元の人の手が入っているかですが、これについてはまだ未調査です。
デメリットも幾つか考えられます。その最大のものは、観光客に金銭的なしわ寄せが来るというものです。会場間を巡るために、当然時間も交通費も余計にかかります。さらに入場券が3会場共通券という形で売っていて、1会場単位で買えないために1会場しか見ない人には割高感があります。その他運営上のデメリット、会場が多地点に亘るためのコスト増(人件費・基幹設備費(トイレなど))は当然あるのですが、これはネットワーク型の博覧会というメリットと相殺される種類のものでしょう。
3. 企業が出展・参加を要請されたときに何を考えたか
(炎博に関しては未調査なので、一般的な傾向として記しておきます。)
炎博の会場では、ベンチやごみ箱に協賛金を出資した企業名が入っていました。こうした資金のみの協力をしている企業の多くは地元の企業で、県庁の出入り業者もしくは県庁の持つ許認可権に関連する業界の業者です。県庁側から資金協力や前売り券の買い上げを求められたらなかなか断われない立場にあります。許認可権を握られている側にとってみれば、いかに丁寧な形での依頼でも圧力にしか感じられないでしょうし、中には実際に権限を振りかざして強要するケースもあるようです。これをもってして「だから規制緩和が必要だ」などというつもりはありませんが、力関係が弱いところに仕事を押し付けるという行為は良識に欠けてますし、地方自治体としての本分に背く行為といえるでしょう。
これから地方分権が進んでいくであろうことを考えると、地方自治体は、地元の官・民・企だけで博覧会を運営できるぐらいの企画力・創造力・情報力をつけなければならない。そのためには何をする必要があるのか。
博報堂などが博覧会の企画に関わるやりかたをみると、代理店はあくまでもコーディネーターであり、実際の仕事は専門性の高い下請けの会社(企画会社、イベント会社、ライティングの会社など)にまかせている。まずこの専門性の高い会社を地元で育てる、地元に誘致することが必要であろう。そのためには普段からこれらの企業が食えるだけの仕事量を確保する必要がある。そこで、常に発信できるだけの情報量を確保する必要が出てくる。常に情報感度を鋭く保つ。情報公開を徹底し、市民から情報の吸い上げをはかる。地域間、国際地域間で情報の交流をはかる。そして、情報創造のために、産業基盤整備の予算から文化基盤整備に金を出す必要がある。
役所は自分が仕事をしてはいけない。仕事は創るのもこなすのもすべて民間にまかせ、役所はそのコーディネート役に徹するべきである。例えば市街に空閑地があれば、基礎調査は民間に委託し、行政は調査の協力・補助をする。結果を情報公開し、土地の使い方のアイディアを募る。議会が審議し、市長が総合的な判断を下す。
今後地方自治体がどれだけ自力をつけられるかは、住民がどれだけ地元に、自治体に親近感と愛着を持つかにかかっている。情報公開と情報の吸い上げ(衆知を集める)によって、いかに情報のフィードバックをスムースにおこなえるかにかかっている。自治体経営とは行政機構の経営のみならず、企業・住民・自然、すべての調整を行い運営していくことである。
Thesis
Taku Kurita
第16期
くりた・たく
Mission
まちづくり 経営 人材育成