Thesis
アメリカでは、このところ少年による銃を使った死傷事件が頻発している。警察も親も教師も、かなりナーバスになっているらしい。6月4日の各紙朝刊に、次のような記事が載っていた。
『ニュージャージー州北部の小都市で、「消えてほしいヤツら」と書かれたリストを友人に見せびらかした13歳の男子中学生が警察に摘発され、学校から自宅謹慎と停学処分を言い渡された。不安を感じた親の求めで、50人以上の生徒が登校を止めたことから騒ぎは大きくなり、警察が学校周辺で厳戒態勢をとり、少年の父所有の銃の任意提出を求める騒ぎに発展した。』
一連の銃乱射事件に、「最近の子どもはおかしくなってしまっている」と感じる人も多いらしい。テレビドラマやアニメの過激な暴力や性描写は、子どもの発育に悪影響をあたえる、と早くから主張してきた人たちもいる。
たしかに、マンガやテレビアニメが子どもに与える影響は大きい。「ハレンチ学園」(永井豪)が連載を始めるとすぐにスカートめくりが全国の小中学校で大流行し、「巨人の星」(梶原一騎・川崎のぼる)を見て育った子はプロ野球選手になりたがり、「キャプテン翼」(高橋陽一)はサッカーの裾野を大きく広げ、Jリーグ設立の陰の原動力となった。「小学生の将来なりたい職業調査」を見ると、子どもたちの生活の多くの時間がテレビドラマやアニメ、テレビゲームに費やされており、彼らの嗜好はそこから大きな影響を受けていることが伺える。
しかし、本当に「暴力的嗜好」までもがTVに影響されるのだろうか。
暴力的映像と人の攻撃性との関係の研究先進国であるアメリカでも、それらの因果関係についての結論はまだ出されていない。ただし最近の実験で、「“攻撃的傾向の強い人”は、暴力的映像などの刺激によって、その傾向を増大させる」との結果は出されている。アメリカの小児科学会も警告を発している。「特に影響を受けやすいのはある限られた傾向の子供達だけだが、全ての親が注意をすることは結果的に彼らを有害な番組から遠ざけることになる」と。
アメリカでは来年末から国内生産されるすべてのテレビにVチップ(親が暴力シーンやセックスシーンのある番組を子供に見せないようにカットできる装置)を導入することが決まった。(参考:SCIaS 6/5号記事)
そんな話を知人としていたら、
「でも、栗田さん。子供に悪影響を与えるのは、バイオレンスものやセクシャルなものだけではないですよ。私、ドラえもんは絶対に悪いと思います」といわれた。
どういうことですかと尋ねると、小学生の娘を持つその知人曰く、
「サザエさんとドラえもんはいいマンガ扱いをされているけど、“いじめ”に関してのドラえもんの罪は重いですよ。だって、ジャイアンとスネ夫がのび太をいじめるときに、“のび太のくせになまいきだぞ!”っていうでしょ。これって、何の理由もなしの、存在の全否定じゃないですか。」
「今の20歳前後の人たちは、“人の痛みを理解する能力に欠ける”っていわれるらしいけど、もしそうだとしたらドラえもんの影響が大きいと思います。刷り込まれているんですよ。」
確かに彼女の主張には一理ある。子供に“無害”(もしくは“いい”)と思われていたマンガの中にも、知らず知らずのうちに悪影響を与えるものはあるのかも知れない。でも、ドラえもんもだめなら、親は子供に何を見せたらいいのだろう?
フランスでは日本のマンガの排斥運動が根強く続いているらしい。理由がふるっている。
「日本のマンガは最後は必ず、“正義が勝つ”し、“ハッピーエンド”だ。だが人生はそんなに甘いもんじゃない。ほとんどの場合、努力が報われないのが人生だ。子供にこんなあまっちょろい人生観を植え付けるマンガは排斥しなければいけない」からだそうだ。
お国柄もあるし、家庭の教育方針にもよるだろう。“人による”し、“ものによる”のだろう。結局、良質のものを親が判断して子供に与える、親が子供を情報の氾濫から守る“フィルター”の役割を果たすしか方法はないのかも知れない。
しかし、子供に何を与えて何を取り上げるかは、難しく、微妙な判断だ。すべての親にそんなことができるのだろうか。自分が親になったときの事を考えると、こころもとない。
と、ここまで書いてヨーガ式栄養学の基礎を思い出した。それは、
「多くの種類を少量ずつ食べる」こと。どんなものでも、多くとりすぎれば毒に、少量なら薬になる。テレビもゲームもいいけれど、それだけではいけない。当たり前の、“バランス感覚”が大切ということ。
子ども達よ。よく学び、よく遊べ。そして、よく食べて、よく寝て、よくゲームをして、テレビを見て・・・・。
つねに楽しむこと。人生を愛すること。それが、“生きる”秘訣だ。
これも、ヨーガに教わったこと。
Thesis
Taku Kurita
第16期
くりた・たく
Mission
まちづくり 経営 人材育成