論考

Thesis

北朝鮮工作船事件・ガイドライン関連法成立後の日本の安全保障 【後編】

本稿では、1999年4月の月例報告で指摘した5つの不備のうち、最後の一つである「政治の不備」への対処について所感を述べたい。
 私が指摘したのは、次の二点だった。まず、政治家の議論が声高な批判に終始するか、重箱の隅をつつくような事実確認がほとんどであった点である。もうひとつは「国民に対する情報公開」と「作戦行動上の機密保持」の境目があいまいである点だ。
 後者は今後の研修で何度もぶつかる課題であると思われるので、本稿では特に前者に絞って次の三点から考えてみたい。

 一つ目は、「国民の理解」への配慮がほとんどない点である。政策に対する思いが強い政治家、あるいは政策の理解が足りない政治家に多い。
 官僚と技術的な話も交えて真っ正面から政策を議論できる政治家は今後の日本においては必要だと思う。また実際にニーズが高まっている。しかし、なぜそのような技術的な話が必要なのか、我々はどの方向に向かっているのか、そういったこの国に住む人々がもっとも知りたい事をきちんと伝えようとしている人は少ない。
 政策の理解が足りない政治家に至っては、最初の質問は事実確認がほとんどだ。事実確認自体は決して悪い事ではない。行政の情報は国民に広く公開していく必要があると思うからである。しかし、その場合を除いて、担当官庁に請求すればすぐに得られる基本的な情報を何度も(同内容の質問を複数の議員が繰り返す事が多い)あえて委員会や議会の場で出す必要があるだろうか。この傾向は沖縄市議会、沖縄県議会でも特に顕著に見られた。
 二つ目は、政策論議において自己主張にばかり執心する政治家があまりに多い点である。
 世論の関心を喚起する意味で、また世論の流れを見る観測気球の意味で、派手なパフォーマンスも時には必要であるかもしれない。しかし、実際の政策決定過程(その善し悪しは別として)をかえりみず、理想ばかり語るという事が本当に国民のためとなるか。あげた観測気球が単に自己保身をはかる政局運営のためだけに用いられている現状をどう考えるか。理想実現に向けた現実的な言動をしている政治家は、私が現場で見た限り少なかった。

 最後は、踏み込んだ議論をして責任を問われるのを恐れるあまり、非常に消極的な議論しかしない(あるいは議論自体を回避する)点である。この傾向は官僚、特に政府委員と答弁書を棒読みする閣僚に多い。朝鮮半島、中台関係、領域警備に有事法制と、たしかに今日本が取り組んでいる安全保障政策には「火種」が多い。ある一つの発言、ある一つの決定で「内閣が吹っ飛ぶ」という表現をよく耳にする。しかし、この「吹っ飛ぶ」といった場合、何が吹っ飛ぶ事を心配しているのか。多くの場合、自分自身のメンツや官僚や閣僚という身分ではないか。本来彼らの仕事は、一義的にはこの国に住む人たちのためであるはずである。決して自分のためでも議論のためでもない。必要があれば、政治家は自らの進退を賭してでも仕事をしなければならなのではないか。最後まで勤め上げるだけで良いか。
 これらをふまえ、本来政治家はどのような姿であるべきなのか。先に述べたように、政治家自身が政策を熟知している必要は言うまでもない。しかし、非常に多様かつ専門的な情報を把握し続けることだけが政治家の仕事ではない。これは主に官僚の仕事である。政治家の仕事は、説明(選択肢の明示と国民の理解)と選択(優先順位の決定)、覚悟(責任の明確化)であると私は考える。特に、国民の生命と財産を守っていく根本であり、日本においてタブー視されてきた軍事力が必然的に伴う安全保障においては、この三つが徹底されるべきである。
 とはいえ、言うは易し、行うは難し、である。私も現場に立つときまで今気がついている事、特に誰のための安全保障かをずっと心にとどめておきたい。

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城井崇の論考

Thesis

Takashi Kii

城井崇

第19期

城井 崇

きい・たかし

衆議院議員/福岡10区/立憲民主党

Mission

政治、とりわけ外交・安全保障及び教育 在塾中

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