論考

Thesis

沖縄はどんな「自分」になりたいのか

今月も引き続き沖縄から見た安全保障について報告する。

■「現場感覚の共有」から「建設的なアプローチ」へ

 SACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)で返還が合意された米軍施設・区域は、条件付きながら近く返還されることが確実となっている。現在も来年の沖縄サミット開催を控えて、普天間基地の移設先および跡地利用の議論が注目を集めている。これらの跡地利用がうまく進むかどうかは沖縄のみならず日本の経済社会にとっても重要な課題である。基地政策とまちづくり(跡地利用を含む)のつながりが深いことはこれまでも繰り返し述べている。沖縄の現状についても、前回までの報告で確認したとおりである。

 これまでの基地跡地利用の取り組みを検証した結果、いくつかの阻害要因が浮かび上がってくる。ここで改めて整理しておく。

返還時期や返還区域が不明確なため、詳細な跡地利用計画の策定が困難である。
中南部地域の基地は民有地の占める割合が高く、市街地に隣接していることから周辺宅地並みの評価がなされており、この地代に相当する収益をあげる跡地利用計画の策定が困難で、地主の同意を得るのが難しい。
日米地位協定により、返還された基地の汚染問題を米国側が解決する義務がないため、返還後の跡地利用に支障をきたしている。
区画整理事業などの既存の事業手法では、市町村の財政が厳しいことから、都市基盤整備に長期間を要する。(沖縄県庁職員によれば、30年かかるとも言われる)また、面整備が終わった後に上物整備が行われるため、未利用期間が長期化することなどの事例が見受けられる。
黙認耕作地(基地内の土地で農業などを行っている)が数多く存在し、その解決が必要である。
軍雇用者の再配置や再就職の問題。基地関連収入への依存度の高い地主や市町村の家計や財政の問題。
基地に関係する既存機関の連携の弱さ(それぞれの業務で精一杯との現場の意見もある)

 現在の私の関心は、こうした事実の把握よりも、むしろこれらを踏まえた上で目の前の現実に対していかに建設的なアプローチができるかという点に移ってきている。しかし、なかなか具体的な道は見えない。
 そんな中、私はある機会に恵まれた。それは、ある研究プロジェクトとの出会いである。

■「跡地利用のための新組織研究」に参加

 縁あって、私は今年8月から「米軍基地跡地利用を推進するための新たな組織の設立可能性に関する研究」に検討委員の一人として参加している。この研究は7月から(財)南西地域産業活性化センターで行われている。NIRA(総合研究開発機構)から研究助成を2年連続でうけている異色のプロジェクトである。(昨年の研究テーマは、「米軍基地跡地利用における参加型計画策定と事業化システムの研究」)若者で、よそ者で、ないちゃー(沖縄の言葉で本土の人間の意)、しかもまちづくりの素人である私が、はからずも、政治日程と同時進行中の具体的なプロジェクトに関わることとなった。

 この研究は、大学教授、県庁OB、コンサルタント、民間企業関係者、マスコミ関係者などから構成されている。いずれもその道の専門家ばかりだ。当初の研究のねらいは、次のとおりである。(以下研究企画書より抜粋)

 「本調査では、既存の組織や現行制度の問題点を把握するとともに、基地跡地利用を推進する新たな組織の必要性と求められる機能を明らかにし、これを裏付ける制度の創設と必要な資金および組織の概要などを検討し、「米軍基地跡地利用推進機構」(仮称)の設立を提言することを目的とする。」

 具体的な作業内容は、主に以下の4つである。

資料調査(既存の組織の役割と現行制度の問題点の整理・分析)
ヒアリング(新組織に求められる機能の把握)
海外調査(米国の地域再開発公社などの海外事例の調査研究)
ブレーンストーミング

 これらの作業は検討委員会とワーキンググループ会議の二段階で行われる。私はこの両方に参加している。実際に私に求められているのは、沖縄側でない、プロでない、壮年世代でない、といった「異質」な視点である。

 そこで、私は次の二点に絞って活動している。ひとつは、国や沖縄県が言いにくいことに取り組む「民間ならではの取り組み及び意見発信」である。もうひとつは、「我々も議論をやった」という県民間の認識の一致を目指す「議論のたたき台の提供および議論の深化」である。具体的には、本研究のホームページ開設・運用に関する企画書を提出するなどしている。

 研究を進めるにあたって、現在のところ問題となっているのは次の点である。

沖縄県との連携をどうするか
特定の基地跡地利用に特化した「機構」にすべきか(例えば普天間基地)
具体的な跡地利用を想定して「機構」を作るべきでは(ターゲットの明確化)
「機構」の運営主体をどうするか(国、県、民間それぞれの関わり方)
県民内での議論の深化をどのように図るか
「研究」の議論をどんな形でオープンにするか

■ 沖縄はどんな「自分」になりたいのか

 こういった問題点が議論の中で浮かび上がってくる中で、ずっと考えていることがある。それは、沖縄はどんな「自分」になりたいのか、ということである。本研究のキーワード、例えば、自立、民間、情報公開、跡地利用を含めたまちづくりといったものには、「自らの手による自己像の明確化」という命題が根底に横たわっている。
 では、これまでどのような「自分」を描いてきたのか。

 残念ながら今のところ、この点に関しては否定的な立場に立たざるを得ない。沖縄の大部分の人は自己像を現在描けていないし、描こうとしていないのである。なぜか。

 ひとつは、基地問題の本質である個別性に目を向けることから逃げて総論ばかり取り組み、結局問題を先送りしてしまっている点である。問題が100あったとして、一気に100解決できないともわかっていて、しかし10の解決を積み上げる「決意」もできない。

 また、ひとつは目の前に山積する問題への対処に精一杯で、そんな時間的・精神的余裕がないという声を多く耳にした点である。目に付くところの批判はするが、いざという時に自分の身を割くという事はしない。「沖縄の人には「自己犠牲」という考え方はないんですか」とたずねたことがあったが、一笑に付されてしまった。

 先送りや批判からは何も生まれない。沖縄の人々に具体的な形で先をみすえた「自己像」を描いてもらうきっかけとなるように、私は今回の研究に誠心誠意取り組みたい。

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城井崇の論考

Thesis

Takashi Kii

城井崇

第19期

城井 崇

きい・たかし

衆議院議員/福岡10区/立憲民主党

Mission

政治、とりわけ外交・安全保障及び教育 在塾中

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