論考

Thesis

変わりつつある沖縄・・・二元論を超えて

沖縄から安全保障を見るとき、必ず「アメとムチ」という事がよくいわれる。この場合の「ムチ」は基地負担、「アメ」はその負担の代償であるお金を指す。しかし、このアメとムチをめぐる状況は徐々に変わりつつあるようだ。ここでは、沖縄における「カネ」、特に軍用地料と国の補助金・振興策に見えた「変わりつつある沖縄」について報告する。

■ 個人向けの軍用地料は「福祉財源」?

 「零細地主」。在日米軍に土地を提供している軍用地主のうち、その賃貸料(地料)が年間100万円未満、平均年齢60歳という約58%の地主(個人・法人両方を含む)の事をさす言葉だ。一般的に軍用地主といえば、「一坪反戦地主」や「軍用地成り金」がとりあげられがちだ。しかし、実態は異なる。「一坪反戦地主」は、沖縄県外からきたわずかな人々が、反基地運動のためわずか30センチ角の土地を盾に私有財産権の行使を叫ぶ。「軍用地成り金」も成り金になるほど軍用地を持っている人は元々少ない。4000万円以上の地料をもらっている地主は、個人・法人含めて県全体の0.2%というのが現実だ。こうしてみてわかる通り、どちらにも当てはまらない地主がほとんどなのだ。戦後50年を経過している事もあって、相続などでますます地主総数は増え続け、「零細地主」増加に拍車をかけている。

 沖縄市軍用土地等地主会の会長である照屋武一氏はこういう。沖縄市には現在SACO合意に伴う基地返還予定地(例えばキャンプ瑞慶覧の一部)があるが、その地域に土地を持っている地主のほとんどは「今返されたら困る」というのが本音だ。その理由ははっきりしている。

 ひとつは、現在の地料に見合うだけの収入が返還後に保障されるかといえば現在の経済状況ではまったく期待できないからだ。地料が安かった昔なら返還を主張する人でも、時代が移り年3?5%上がっていく地料を前に、返還の主張をためらわざるを得なかった。

 もうひとつは、自分の土地であるが、返還後も区画整理などの対象であったり、もともと利用しづらい土地であったりして、結局自由に使えないからだ。

 しかし、地主の多数を占める「零細地主」の声は、元々目立ちにくい上、地主自体が住民全体に占める割合が低いため、マスコミに取り上げられても、当事者としての重要性が伝わっていないのが現状だ。彼らの声に耳を傾けると、沖縄における軍用地料は、単なる迷惑料としての性格にとどまらない事がわかる。また、その善し悪しは別にして、いまや重要な「福祉」の役割さえ果たしているのである。そういった意味では、基地返還後の跡地利用に関して、企業誘致や産業育成といった施策だけでは不十分であるし、地主、ある意は地主を含めた住民が参加した形での計画策定を実現するアイデアは今後の沖縄に不可欠であろう。

■ 基地は「阻害要因」?「制約要因」?それとも「頼みの綱」?

 基地に伴うお金でもうひとつ挙げなければならないものがある。それは、基地所在市町村が基地関連収入にかなりの程度依存している問題だ。ここで「依存」という場合、自治体の経常収支に組み入れられている「軍用地料依存」と、基地交付金・振興策などによる「政府依存」とに分けられる。どちらも沖縄の市町村財政に対するインパクトの大きさが大きく伝えられる。

 しかし、現状を見ると、ただの「依存」構造ではないようだ。恩納村や金武町、宜野座村、名護市などでは、市町村有地から発生する軍用地料が約13?14億円にも上り、恩納村では歳入の19.8%を占めている。(金武町は19.1%、宜野座村は23.5%、名護市は5.3%(平成9年度))これらは、基地関係の財産運用収入として扱われている。これが先程述べた「軍用地料依存」の具体例である。これに基地関係の補助金を加えると、基地関係収入が歳入の20%を越える自治体は4自治体(恩納村、宜野座村、金武町、嘉手納町)にも及ぶ。このような極端な例も含めて、沖縄における基地関連収入への依存は目に見える数字でも大変なものだとわかる。

 これまで沖縄では、「まちづくりにとっての基地」について、発展自体をはばむ「阻害」という表現と、あくまで条件を狭めている「制約」という表現が用いられてきている。しかし、このどちらの要素よりもむしろ財政面での「頼みの綱」という要素が強まってきており、もはや無視できない状況にまで来ているように感じる。

 市町村によって、「頼みの綱」としての度合いやそれが持つ効果は異なる。ある町では、膨大な補助金を背景に行政の管轄内にある町のインフラ整備などが終わり、補助金を使うアイデアに困るといった現状だ。アイデアに乏しいため、既存のルート(公共事業頼みの土木・建設業など)にしか資金が流れず、悪循環が続いている。別の自治体では、軍用地料が「軍用地の賃貸料」としてというよりは、「字(あざ)の入会地の配分金」としての意味合いが強くなっており、基地撤廃という論は行政からも村民からもまったく出ない。また、その経済基盤の弱さから、基地移設による経済基盤の強化を選択肢として捨て切れない、あるいは基地移設を武器として使わざるを得ない自治体もある。たしかに、補助金行政という面だけで言えば日本の他の都道府県と状況は同じだ。しかし、今後沖縄の人に説得力をもって安全保障政策を語っていくとき、基地の規模や能力だけでなく、単なる産業振興を越えたまちづくりの取り組みも合わせて考えていく必要がある。

■変わりつつある沖縄・・・二元論を越えて

 沖縄に来て約二ヶ月弱。以上のようなこれまでは決して大きくないと思われていた動きが、大きく一つのうねりを作りはじめたように感じる。だんだんと見えてきた今の沖縄の姿は、反戦平和の理念だけを頑なに叫びつづける「基地撤廃ありき」ではない。また、生活防衛と産業振興を国のお金で行うために基地を容認するという「暮らし優先」でもない。もはや白黒をはっきりさせるだけで済む状況でない事を、人々は少しずつ気付き始めているようだ。いわば、新しい沖縄の姿を白黒の間、すなわち”グレーゾーン”のどこに見出すか、立場を超えて考えていく段階に突入したと私は考える。

 県民と共に歩むと公言している沖縄タイムスの金城論説副委員長は次のように言う。

 「あなたの言う”グレーゾーン”とは、一言で言えば、「現実的対応」といえるだろう。実際にそういった動きも出てきている。稲嶺県政はその一例といえる。この現実的対応は、今の沖縄の苦悩の一つだ。マスコミもまだこの”グレーゾーン”を整理していない。今後社として整理を迫られるだろう。今のところ客観的な「報道」はできるが、「論評」は悩むし難しい。例えば、地方分権の関係で自衛隊に関する業務が自治体に移管されるが、沖縄の自治体は対応に悩むはずだ。社としても論説は書けない。」

 先に述べた通り、今後日本の安全保障政策において基地問題を考えていくとき、「基地の段階的な整理・縮小」と跡地利用を含めた「新しい沖縄を作るための現実的対応」は両輪として考え、悩みつづける必要があるだろう。

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城井崇の論考

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Takashi Kii

城井崇

第19期

城井 崇

きい・たかし

衆議院議員/福岡10区/立憲民主党

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