論考

Thesis

基地問題は「特例」でしか乗り切れないのか

■跡地利用研究参加、その後

 先月に引き続き、私は「米軍基地跡地利用を推進するための新たな組織の設立可能性に関する研究」に参加している。その後の研究における議論をまず整理してみたい。そして、それに関する私の見解を述べたい。 先月までの議論で問題となっていたのは次の6点である。(99年9月月例報告参照

1沖縄県との連携をどうするか
2特定の基地跡地に特化した「機構」にすべきか(例えば普天間基地)
3具体的な跡地利用を想定して「機構」を作るべきでは(ターゲットの明確化)
4「機構」の運営主体をどうするか(国、県、民間それぞれの関わり方)
5県民内での議論の深化をどのように図るか
6「研究」の議論をどんな形でオープンにするか

 以下に議論の内容と私見を一つ一つ述べていく。

■沖縄県との連携をどうするか

 結論から言えば、県との連携はいまだに取れていない。連携を図るために、現在三つの方法を試みている。 一つ目は、県側の担当である国際都市形成推進室(以下「国際都市」)と直接コンタクトを取って協力を求める方法である。具体的には、行政側の立場へ配慮し、「室長のオブザーバー参加」をお願いしている。行政情報を握っているという点で「国際都市」の協力は不可欠であるというのが我々の一致した見解であった。そのため、本研究での最優先事項と位置付けられたが、民間の一シンクタンクの働きかけで、行政の一部である「国際都市」が窓口を開くというのは「行政の体質になじまない」(県庁職員および元県議談)ということで、現在までのところまったく音沙汰がない。現在の行政システムからすればこれはどうしようもないことのだろうか。

 二つ目は、行政の担当部署ではなく、知事のブレーンサイドから攻める方法である。具体的には、本研究に理解を示してくれる知事に近い人物(今回の場合、四人の主なブレーンの一人や後援者の一人)に民間のシンクタンク(南西地域産業活性化センター)の活用を知事に進言してもらうことで、上層部から担当部署に圧力をかける方法である。やや政治的な手法であるが、連携という最終目標に近づくには効果的な方法であるようだ。しかし、これは既存の手続きを無視し頭越しで行われるため、リスクも大きく、最終手段に近い。今のところ行われていない。

 三つ目は、関係団体の協力を取り付けることで、県サイドも参加せざるを得ない状況を作り出すというものである。関係団体とは、地主会の元締めである沖縄県軍用地等地主会連合会(土地連)や、基地従業員の労働組合の元締めである全駐労沖縄地区本部などである。これらが参加する意見交換会などを設定して議論の盛り上がりを狙うのである。99年11月にこの会合が設定されておりその結果が待たれる。

 いずれにしても、まだ県サイドの動きに本研究はうまく食い込めておらず、実質的な成果に結び付けていくならば、今後さらに具体的な戦術を練る必要がある。

■特定の基地跡地に特化した「機構」にすべきか(例えば普天間基地)

 この点に関して議論は一致しており、「普天間基地に特化」の方向で固まりつつある。(普天間基地に関しては、政治の対応も現在のところ議員立法による時限立法の可能性が高い)この理由は次のものである。
 まず、基地問題の個別性(土地の特性、地主の意向など)の影響が大きいためである。特に今回議論の中でポイントとなったのは「市街化区域の指定」と「返還後の利用可能性」であった。

 沖縄県の場合、石川市以北は市街化区域の指定を受けておらず、跡地利用を進めるにあたって法律のサポートがないのである。また、返還区域が森林である場合など、手を加えての利活用が難しい地域のことを考え合わせても、研究成果を他の地域に「応用」するのは非常に困難であるという考えが大勢を占めた。(かりに市街化区域内にある基地への「応用」を念頭におくとすれば、牧港補給基地が対象となる。しかし、返還のメドは立っていないため、特化すればやはり「今回のみの手法」ということになる)

■具体的な跡地利用を想定して「機構」を作るべきでは(ターゲットの明確化)

 一言でいえば、絞りきれていない。この点に関しては、議論の中でも、利用方法自体のアイデアを提言するところまで含むのか、それとも県庁内や国際コンペなどこれまでに出ているアイデアを具体化するための組織を考えるのか、混同したまま議論が進んでしまっているのだ。
 私の考えとしては、本研究はモアベターなアイデアを形にするための道具であると位置付けており、現在提示されている具体的な利用方法を想定し、ケーススタディという形でその方法に関して「機構」が果たす役割を考えるべきだと思う。現在のところ、県側の案である「15年年限の軍民共用空港」や、有識者から出ている「国際メディカルセンター」などがここでは挙げられる。過去の国際コンペで出たアイデアも真剣に検討する必要があろう。

■「機構」の運営主体をどうするか(国、県、民間それぞれの関わり方)

 運営主体といった場合には、「跡地利用推進機構」(仮称)は独立性を保つはずなので、ここでは跡地利用および組織運営のための財源に絞ってみたい。

 先に述べたとおり、沖縄県の財政は火の車で「無い袖は振れない」状況である。沖縄だけの議論では「パイ」は増えないということもこれまでの歴史をみればはっきりしている。
 したがって、「自前」の部分は小さく国の補助金に頼らざるを得ないのが現状である。資金調達の具体的なアイデアとしては、次のものであった。

地料の段階的削減、削減分をプールして運営資金に
「公的資金導入」方式で借りて返さず粘る
(基地跡地に対して米国の土地銀行は多額融資、好結果につながった)
国から数千億円の預託金を引き出す

 現状としては、1は地主会の強い反対が予想され難しいと思われる。ただ、現在水面下で進められている民間主導の事業に地主が参加して地料に変わる収入の確保に成功すれば、状況は一変することも予想される。実際私も関わっている、民間主導の環境浄化事業プロジェクトは、事業化寸前のところまできている。先日もハワイ視察を行い、その事業可能性をこの目で確かめてきたところである。

 したがって、現状で可能性があるのは2か3ということになる。本研究においては、政治的な駆け引きよりはむしろ必要最低額をきちんと示して、駆け引きに一石投じておくことが求められると考える。

■県民内での議論の深化をどのように図るか

■「研究」の議論をどんな形でオープンにするか

 これらの点に関しては、マスコミとのかかわりが不可欠だが、研究プロセスや議論の内容などは、南西地域活性化センターの上層部の意向で、いまだにオープンにされていない。まとまった形になっていない状態での公開はかえって混乱を招く恐れがあるというのが理由だ。ただ、県民内での議論をワンステップとして経ることは不可欠との研究メンバーのコンセンサスもあり、先に挙げた関係団体との「意見交換会」にマスコミを招く予定だ。
 また、先月の報告に書いたホームページ立ち上げについては、上層部の反応が非常に鈍く、非常に小規模かつ実験的なものにとどまるようだ。しかも公開できる情報は非常に制限される。

 以上のように、情報公開に関してはかなりで足が鈍いが、「普天間移設」の政治日程が早まっていることもあり、議論をオープンにするタイミングはかなり慎重に選ばなければならないだろう。

■結局「特例」しかないのか

 こうしてみてくると、問題となっている部分では、基地問題の政治性に翻弄されていることがよくわかる。実際の議論も政治的な要素の扱いにどうして流れがちだ。ここで思うのは、基地自体にしても軍用地料にしても、もともと政治的に設置されたものは、政治的権力で「特例」を認めてなくしていくしかないのだろうかということである。
 権力に何度となく甘えてきて、今度が最後とまた甘える。歴史的な経緯があるとはいえ、そんな一面を沖縄の人々は捨てきれずに生きてきた。今回の件に関して、次はもう甘えないと断言する勇気を沖縄の人々は持つことができるであろうか。甘えているの沖縄だけではないという論理で、甘えの構造を継続・拡大するのか。

 今私は、この政治的権力をどう扱うか、それとどう距離を保つかということを深く考えさせられている。

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城井崇の論考

Thesis

Takashi Kii

城井崇

第19期

城井 崇

きい・たかし

衆議院議員/福岡10区/立憲民主党

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政治、とりわけ外交・安全保障及び教育 在塾中

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