論考

Thesis

情報化と政治を考える

本月から参議院選挙の候補者を通じての政治及び選挙のあり方の研究を始めた。そのさなか、日本の政治に大きな事件が起こった。内閣不信任案をめぐる、加藤紘一氏の一連の言動による自民党内の混乱である。この加藤氏の行動に関する論評はさまざまなメディアで行われてきたが、この中で私が注目したのは、情報化社会における政治家の情報発信のありかたであった。今回は政治における情報発信を考えたい。

■ 加藤氏の乱と情報化

 まず、ここで取り上げた加藤氏のホームページについて簡単に紹介したい。加藤紘一氏のホームページは、プロフィールなどの他、連日内容が更新され、氏の考え方や、それに対する反応などが掲載されている。このサイトを訪れた人は文章によるメッセージだけでなく、動画による肉声メッセージにも触れることができる。騒動のあった氏のホームページへのアクセス件数は一週間で10万ヒットを超え、これを管理するサーバーは負荷に耐え切れず一時ダウンした。また氏のホームページには3万通にも及ぶEメールによる意見が寄せられた。ウェブ上における一政治家への関心として、これほどの数は古今例がない。

 この現象をどのように評価するのか。
 まず「くたばれ自民党」の声を代表したものという意見がある。結果として自民党内の派閥抗争であったこの混乱は狭い意味で言えば自民党関係者の事件であって、他党派を含め「関係ない」人々が勝手に口を出されてはかなわないと考えているのである。
 しかし、私はこう考える。結果的には、自民党内での多数派工作に敗れ、氏は失脚したわけだが、潜在的な政治への期待の掘り起しには成功したのではないか。居酒屋で政治の話題が大声で議論され、コンビニエンスストアで国会中継の音声が放送される中で、もしかしたら世の中が少しでも良くなる方向へ動き始めたのではないか、加藤さんに対する絶対的な支持ではないものの、良い方向へ向かう兆しではないかと多くの人がそのダイナミズムに影響された。政治への期待の再燃といっても良い部分もある。
 これまでの政治に対する人々のどんよりとした気持ちは、政治自体へのあきらめではなく、政治家へのあきらめではなかったか。
 そんなあきらめを短い時間とはいえ払拭しかけ、潜在的な政治への期待を掘り起こした情報化の進行はこれからの政治にも有用なものであろうか。

■ 政治におけるインターネットの可能性

 政治において、ウェブは有用なものだと考える。なぜか。
 まず、先の例に見るように、ウェブに接する層の関心は内容如何で高くなりうるからである。現在日本のインターネット人口は約2000万人である。このうち個人使用の占める割合はまだ低く、もっぱらビジネスユースのほうが先行している。国内におけるパソコン売上も年々伸びているが、所得格差による影響は避けられない。それゆえ「平均的な」有権者像とは必ずしも一致しない。しかし一定の有権者のニーズを捉えることは可能だと考える。この他に政治活動にウェブを用いるメリットは次のようなことがある。

・インタラクティブ性
インターネット上では、ウェブ上での情報発信、Eメールによるやりとりをはじめ、BBS(電子掲示板)やチャット(ウェブ上での会話)、メールマガジンによる発信など直接のやり取りができるというメリットがある。政治が疎遠だと感じていた有権者にとっては直接メッセージを伝える絶好のチャンスである。

 

 

・匿名性
ネット上での意見発信では匿名も許される。これによって政治への最初のハードルはかなり低くなる。

 

 

・利便性
ネット上では、時間や場所を問わず、必要な情報を閲覧可能である。これによって、多様な生活スタイルの中でも政治家や政策の情報を取り出せる。政治家の側から言えば、新たな媒体を得たことで、議会でのそれとは異なる説明責任の果たし方が可能となる。 もちろんデメリットも存在する。

 

 

・「愉快犯」や「確信犯」による妨害
先に述べたようにネット上では匿名がまかり通るため、ネット上での活動を妨害する「荒らし」と呼ばれる愉快犯(時には確信犯)が横行する。身元を隠す技術も年々発達してきているため、管理が非常に手間がかかり、難しい。直接的な政治活動ではないが、ここにひとつの例がある。私設のポータルサイトによるキャンペーンである。シドニーオリンピック柔道における篠原選手の「誤審」問題の際に、あるポータルサイトが「誤審」覆しを狙うキャンペーンを行った。内容は、海外の柔道に関するページや国際柔道連盟のBBS、主審の出身国であるニュージーランドの大使館にわたるまでの匿名で悪質な内容の書き込みおよびEメールの大量送付である。

 

 

・有権者の目に触れるのが困難
実際自分のサイトを立ち上げて情報発信しても、それを人々が必ずしも見てくれるとは限らない。以前私も、自分がかかわっていた沖縄基地問題に関するサイトを共同研究者と共に立ち上げたことがあった。しかし、アクセス数、反応は少なく、効果は非常に薄かった。特定の層のみが興味関心を持つ話題とはいえ、九州沖縄サミットを控えた数ヶ月前の時期だったにもかかわらず、である。現在のところ、有権者の目に触れるにもテレビや新聞、雑誌など既存のメディアに依存するところが大きい。メールマガジンも同様のことが言える。購読登録を増やすには既存のメディアに頼らなければなかなか実現しがたい。

■ 情報化を生かすには

 まず、インターネットやEメールはあくまで情報を飛ばす道具であるとの認識を忘れないことである。いくら良い道具を持っていても肝心の中身と腕が良くなければよいものは作れない。この中身と腕とは何か。それは政治家自身の生き方と主張である。インターネットビジネスではコンテンツが大事ということは言い古されつつあるが、政治の世界ではまだまだ通用しそうだ。
 また、有権者との距離を縮めることに専心すべきである。総花的な情報の発信ではなく、特定のニーズに合わせてページごとの「客」の違いを理解しながら、ウェブ上における政策広告などでいい意味での欲に訴えかけ、相互のコミュニケーションをはかる。加藤氏が成功した部分である。
 実際私は参院選の候補者の下で、情報発信を実践するチャンスをもらっている。これを良い機会として実践的に研究してみたい。

参考

加藤政局の一連の流れは以下のリンクを参照のこと
http://www2.neweb.ne.jp/wd/current-00/2000katou.html
加藤氏のホームページ
http://www.katokoichi.org/

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城井崇の論考

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城井 崇

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衆議院議員/福岡10区/立憲民主党

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