論考

Thesis

沖縄における「民」による政策提言、その可能性と限界<前編>

1999年11月末、沖縄県は名護市に対して名護市東海岸の辺野古への普天間基地移設を正式に申し入れた。地元には県内移設反対の声もあり、紆余曲折が予想されるが、沖縄県北部の振興策の要望取りまとめをまって、移設後の基地跡地利用に関する議論も盛り上がりを見せるだろう。その動きに先駆ける形で行われている研究、『米軍基地返還後の跡地利用推進のための新しい組織の設立可能性に関する研究』は、民間の視点からの提言を目指すということで、1999年11月9日の沖縄タイムス2面でも大きく取り上げられ、地元では衆目の集まるところとなっている。

(参考)『米軍基地返還後の跡地利用推進のための新組織の研究』ホームページ
県・市町村・地主会などによる調整
 基本計画 → 実施計画 → 事業計画 → 事業認可 → 事業着手
事業着手の流れ
 環境浄化・文化財調査 → 更地への整備 → 上物整備 → 使用・収益

 この「更地への整備」にかかる費用こそが非常に莫大なものである。飛行場を掘り返して更地に戻す作業の困難さは想像に難くない。この部分を少なくするために、我々は「既存施設の再利用」を挙げている。ただし、この「再利用」にあたっては、現時点で指摘できる問題点もある。それは、建物の老朽化である。建設の際、建物内に塩を含む砂を使ったため、構造が非常に脆い。逆にヘリコプターの格納庫は建て替えたばかりで比較的新しい。この点に関しては現在、地元宜野湾市の協力の下、最新の資料を用いて既存インフラの使用可能性について検討を重ねる予定である。

<2 米軍からの技術移転>

 これは、現在の基地が持つ条件を最大限活用しようという発想から生まれたアイデアである。具体的には、基地内の医療施設、特に移設が検討されている海軍病院の持つノウハウを活かそうというものである。ベトナム戦争後に妊産婦が集中した沖縄の軍の病院では産婦人科の発展が著しく、現在もその伝統を引き継ぎ、同分野では最先端の医療技術を誇っている。こういった沖縄の米軍独自のノウハウ・施設を活用して民間との共同使用に持っていけないか、と考えたわけである。このアイデアの原点は、下河辺淳氏(東京海上火災研究所理事長)の発案にある。しかし、地元、特に行政(沖縄県)はこの発案に対してこれまでまったく見向きもしていない。

 たしかに沖縄の歴史を考えれば、反軍感情の強い地において米軍との協力はタブーとも言えるかもしれない。完全な理解とまではいかないまでも、心情的には非常に理解できる。けれども、以前の報告にも書いたとおり、「単なる批判」と「問題解決の先送り」では何も生まれない。タブーであることをことさらに指摘し(批判)、所与の条件である米軍基地にはまったく目を向けずこれまでと同じ非生産的な思考パターンを繰り返す(問題解決の先送り)のは、今回の取り組みを境にやめにしてはどうか。そういった意味も含めて、この「米軍からの技術移転」には、沖縄のブレイクスルーのきっかけがおおいにある。

<3 国際貢献>

 三つ目のコンセプトは、国益と地域(県・市町村)の利益の接点を求めた結果、加えたものである。それまで基地には安全保障上の貢献のみが求められてきた。地元の人の基地に対する認識は、「銃剣とブルドーザーによる強制接収」という、往々にして非常に消極的なそれであった。
 地域(県・市町村)の利益とは何か。単に地元に誘導されてくるお金や事業がそれにあたるか。もちろんそういったものが必要な部分もあろう。しかし、地元の発展のみを考えて作った商業施設が、沖縄県内の少ないパイをめぐって浮沈を繰り返す光景から、我々は何を学び取れるだろうか。また何を学び取るべきであろうか。
 我々が理想とすべきは、地元の人の「理解」と「自負」に基づいて、大規模な跡地利用によってもたらされる「公共財」を預かってもらうということである。ここでいう「公共財」とは、安全保障であれば基地であり、今回の場合であれば、公共に資する具体的な跡地利用の立ち上げ・その積極的受け入れを指している。
 この人々の「理解」と「自負」に堪えうるもの、国益にもつながるものは何かと模索した結果、ひとつの視点として浮上してきたのが、「国際貢献」であった。

■ランドマーク・プロジェクトとしての国際メディカルセンター構想

 以上掲げた「既存施設の再利用」「米軍からの技術移転」「国際貢献」という三つのコンセプトから、我々は非常に多様性に富むと予想される普天間基地の跡地利用に関して、ランドマーク・プロジェクト(記念碑型事業)のひとつとして、アジア地域の国際救急医療の活動・教育拠点たる「国際メディカルセンター」を提言に盛り込むことを真剣に議論し始めた。
 救急用のヘリの発着に既存の施設が使え、米軍のもつ医療ノウハウを活用でき、日本外交のネックたる「ヒトによる国際貢献」にもつながる。沖縄の、あるいは日本の前進のシンボルとなるのではないか。我々の議論は大いに盛り上がった。しかし、私の心には、何か引っかかるものがあった。実際、この後我々は多くの問題と落とし穴にぶつかることとなる。

(以下次回の報告へ続く)

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城井崇の論考

Thesis

Takashi Kii

城井崇

第19期

城井 崇

きい・たかし

衆議院議員/福岡10区/立憲民主党

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政治、とりわけ外交・安全保障及び教育 在塾中

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