論考

Thesis

私が日本で実現したい理念と政策

3年間の松下政経塾での研修・研究活動において、私は多くの人々に出会い、様々なことを経験した。これらの出会いと経験に心から感謝している。これまでこの月例報告では、その出会いと経験をつづってきたが、それらを踏まえた上で私が実現したいこと、つまり理念と政策を体系だって明らかにしたことはなかった。もちろんまだまだ未熟であるが、一つの試みとして、本報告においてその一端をまとめてみたいと思う。

<基本理念>

私が日本で実現したい理念と政策

1.本当に苦労している人たちのために

 農家・建設業者・労働組合・圧力団体といった政治的影響力の大きい、特定の団体に属する人たちばかりのための政策ではなく、今まで軽視され続けてきた普通に生活している人たちのための政策を実行する。その過程で痛みを受ける前者の人々が抵抗してきても、初志を貫き通す。これまでの誤った部分を正すために、我慢すべきことはきちんと国民に伝え、お願いすべきことは、十分に説明した後ためらわず実行する。国民と政治家双方に堪え忍ぶ心がなければ今の逆境は乗り越えられない。最終的には腹を切る覚悟を仕事を預かっている間持ちつづける。

2.政府の役割は徐々に小さく、ますます効率よく

 政府の介入は必要最小限にし、国民一人一人がより自由に活動できる社会を実現する。政府の役割は、外交・安全保障、警察、消防、司法など、市場メカニズムの働きにくい公的サービスの実現にできる限り限定する。社会インフラ、教育、社会保障などまた、納税者の視点および経営の視点で税金の使い道を厳しくチェックし、無駄と判断されるものは容赦なく切り捨てる。

3.国益を第一に、安全保障に手を尽くし、外交に心を尽くす

 声高な理念の訴えのみに終始するのではなく、現実に日本の国益を守ることを第一に考える。これまで培ってきた平和主義の理念を自ら形にする行動が取れる体制へと移行する。そのために、安全保障に手を尽くし、外交に心を尽くす。憲法改正をはじめとして、安全保障や国際貢献のあり方を国際社会で通用するものに改める。また、国際協調路線を重視した上で、日本の国益を考えた外交を行う。例えば、アメリカ追従と呼ばれる外交方針を改め、日本が対米関係において、やることとやらないことを明確にしていく。

4.公的な仕事をみんなで分業できる社会に

 公的な仕事を社会の様々な分野の人々で徹底的に分業する。具体的には、政治および政治家への信頼回復、国民主権の理念の徹底、官僚支配からの脱却をはかるために、議院内閣制の再徹底、「参加型政党政治」の活性化を行う。それでも上記の目的達成が難しいならば、首相公選の導入まで含めて、首相と内閣の権限・リーダーシップを大幅に強化する。また、徹底した地方分権を行い、中央から地方への利益誘導政治を廃止する。これにより、国会や選挙を政府・与党対野党の政策を論ずる場とする。また、NPOの本格的な育成支援による社会的分業を推進する。

<基本政策>

1. 安全保障

 国家の第一の責務は、国民の生命と財産を守ることである。その責務を全うする仕組みをつくる。そして、再び日本を国際社会で通用し、信頼を勝ち取れる国にする。

(1)安全保障の原則の確立

 「戦わないために戦いに備える」を原則に、どのようにわが国を守るのか、内外にはっきりと示す。どのような理由であれ、軍事力の行使に至らぬよう、外交など含め、あらゆる手段を用いて努力する。それでも我が国が直接武力攻撃を受けた場合、あるいは直接武力攻撃を受けることが確実に予期される場合は、抵抗・反撃のために自衛隊を出動させることができることとする。自衛隊の出動は内閣の判断で行い、一週間以内に国会の承認を得ることを必要とする。国会で承認が得られなかった場合は直ちに自衛隊の出動を停止しなければならない。紛争の解決は最終的には国連の手に委ねられるものとし、自衛隊の出動はやむをえない、緊急避難的なものと位置づける。
 我が国の同盟国が武力攻撃を受けた場合、我が国に直接攻撃があったものと見なし、上の原則を適用する。これは集団的自衛権の行使にあたる。

(2)憲法改正

 憲法9条2項を削除し、自衛隊に軍隊としての正式な地位を与える。1項で定めた、戦争による紛争解決の禁止は、今や国際規範となっているもので、今後とも尊重する。以上の変更によって、本来自衛隊の持つ軍事力に期待される自衛能力と、制御されるべき危険な部分に対して適正なシビリアンコントロールが働くようにする。

(3)国際貢献のあり方

 他国との相互交流は今後も深めていく。その一環としての我が国の国際貢献は、9割以上は資金援助や技術協力といった経済協力を行う。しかし、希にだが、世界の平和を維持するために軍事活動に参加せざるを得ないときもある。国連を中心とする平和維持活動への自衛隊の参加は、内閣の判断で行い、一週間以内に国会の承認を得ることを必要とする。国会で承認を得られなかった場合は直ちに軍事活動への参加を取りやめる。

(4)日米同盟のあり方

 当分の間は日米安全保障体制を堅持する。ただし、日米地位協定を改正し、治外法権を撤廃するようアメリカに強く働きかける。また、思いやり予算も段階的に削減する。沖縄を中心に偏在する軍事基地のあり方も全国民で再検討する。以上の内容をアメリカと議論するための定期的な政治家会合を創設する。

(5)自衛隊のありかた

 現在の自衛隊が持つハード面(装備・兵員の質、生産・整備能力)はある一定の質に達していると考える。必要なのはソフト面の整備である。具体的には、次の3点である。まず、有事法制を含めて必要な法整備を衆人環視のもとで行う。次に、意思決定メカニズムを明確化する。とりわけ、命令権者と武器使用に関する部分をはっきりする。それから軍事情報を自力で得ることができ、分析も可能となるのに必要な準備を行う。

2.政治・行政

 国民主権の理念を徹底させ、国民本位の政治を実現する。

(1)政治の信頼の回復

 国民本位の政治の実現を目指すにあたってまず必要なのは、この政治不信を払拭することである。そのためには、国民の「何かおかしい」と思っている気持ちの受け皿となる政治勢力が必要であり、その受け皿としての役割を担う政治家が覚悟を持って職務に臨む必要がある。そんな政治家となるべく精進し、また、そういったタイプの政治家の数を増やすことに力を注ぐ。

(2)議院内閣制の再徹底

 直接民意を反映できるシステムの導入が望ましいが、リスクも高いため、まずは既存の議院内閣制がきちんと機能するよう心血を注ぐ。そのために、政治的競争を可能とする政党政治の実現を図るべく、政策別に政党をわかりやすく整理しなおす。そのために必要な政界再編にこの身を捧ぐ。また、国会を政府・与党対野党の政策対決の場とし、官僚による答弁は原則として禁止する。党首討論の時間や回数を大幅に増やし、完全テレビ中継を実現する。

(3)地方分権

 「地方のことは地方がやる」を原則とする。中央政府の役割を、国防・外交・司法・治安維持・金融安定・社会保障など国家の中枢にかかわることに限定し、それ以外の行政はすべて地方政府が担うこととする。そのための受け皿をつくるため、全国を300程度の基礎自治体に再編成し、地方政府の体力強化と効率性向上を図る。中央から地方への個別補助金は全廃し、地方政府が自由に使える一括交付金を創設する。さらに10年以内に、地方政府が自分で使う金は自分で集められるよう、中央と地方の税体系を改める。これにより、中央から地方への利益誘導政治に終止符を打つ。

(4)民間人をパブリックセクターへ

 民間の人間が公共政策に関わることができ、パブリックセクターと、プライベートセクターを行き来できるシステムを実現する。
 具体的には、次の二つである。
 まず、公務員・政策スタッフに関する人事・採用制度の弾力化である。現在の?種と?種、いわゆるキャリアとノンキャリアの区別を廃止し、「中央省庁職員試験」に一本化する。彼らには「ノーブレス・オブリージュ」の考え方(富や権力を持つ者には重い社会的責任・義務があるという考え方)を徹底して持ってもらうよう、常に働きかける。課長以上の人事権は政治家が握ることとする。また、中途採用制度を充実させ、政治任用実現への足がかりとする。
 次に、政治家ではない人間が大臣になりやすいシステムへ移行する。利害調整ではない、政策実現のためだけの助っ人としての民間人がその職務をまっとうできるサポートシステムを作る。

(5)NPO育成・発展のために、寄付で喜びを分かち合う社会へ

 NPOと政府による公的サービスの分業は、21世紀の日本における重要課題である。NPOを育成・発展させていくために、社会的認知度を上げていく。具体的には、NPOへの寄付金に対する税金は全額免除とし、控除の対象とする。また、寄付者が寄付金の流れをチェックできるシステムも同時に導入する。最終的には、寄付によって人と喜びを分かち合えるシステムを実現する。

(6)民間・非営利・独立の政策シンクタンクの設立とその支援

 政治家、官僚に次ぐ、第3の存在としての、民間、非営利、独立の政策シンクタンク・政策NPOによる、「健全な対案」が常に供給されるシステムを実現する。政策に関わる人口を増やすべく、ここで生み出される人材が政治と民間を行き来できるシステムも同時に実現する。

3.教育

 教育政策は、一義的には、子供のためであることを今一度確認する。いろいろな人間のありかたを認め合える社会、学校制度を実現し、21世紀の日本を担う、優秀なよき日本人を育成する。

(1)学校設置の弾力化

 いろいろな子供がそれぞれなりに育っていける環境を整えることがもっとも必要なことだと考える。しかし、政府が教育分野で具体的にできることは少ない。そこで、小学校から大学まで、教育機関は原則民営化し、自由に設立させ自由に教育内容を決めさせる。基礎的な教育費用は、政府がバウチャー(教育費専用の商品券)の形で国民に交付する。国民は自分の希望に添って自由に教育機関を選ぶことができ、そのバウチャーを用いることができるものとする。教育機関は相互に競争することでその質を高めることができる。政府は教育の最低基準を定め、その達成度をチェックする役割に徹する。学習指導要領は廃止する。

(2)教員教育の再徹底と人事・採用制度の弾力化

 教員の教えるやりがいと能力をのばし、プロフェッショナルとしての自覚と誇りを持ってもらうべく、教員教育の場を充実させる。具体的には、研修の場を増やし、研修のための費用を地方政府から支出する。それと同時に教育界以外の経験をもつ中途採用の教員を増やす。それらを実現するために、教育委員会及び校長、教員採用担当者の人事権を大幅に見直す。

(3)学力低下を招かないゆとり教育

 学力別クラス編成と少人数教育を奨励することで、安易に教育内容を減らすことなく、ゆとり教育を実現する。特に、学力別クラス編成は、できる子もできない子も自分のペースで勉強を進められる点に良さがある。自分のペースで勉強することを本人も周りの人間も認めあう意識改革を促していく。

(4)伝統文化教育の実践

 初等・中等教育では、社会生活を送る上での基本的なルール、とりわけ、自由と責任の相関関係を徹底的に身につけさせる。その際、一つの基準となる価値観を身に付けるため、伝統文化におけるものの考え方を身につける機会を積極的に作れるよう支援する。

(5)可能性を作り出す高等教育

 大学・大学院まで含めた高等教育においては、短絡的な結果第一主義の教育・研究ではなく、裾野の広さを第一に考えた、創造性第一主義の教育・研究を行うことができる環境作りを支援する。

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城井崇の論考

Thesis

Takashi Kii

城井崇

第19期

城井 崇

きい・たかし

衆議院議員/福岡10区/立憲民主党

Mission

政治、とりわけ外交・安全保障及び教育 在塾中

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