Thesis
はじめに
今月は、松下政経塾の内部機関として今年度から本格的な調査・研究活動を始めた「政経研究所」の短期政策プロジェクトである「法定外目的税とその導入方法」について助手として、各自治体へのヒアリング調査を行ってきたので、この間の法定外目的税についての調査から考えた事をレポートしたい。
法定外目的税とは何か
そもそも「法定外目的税」とは何であるか最初に簡単に見ておきたい。法定外目的税は地方分権推進計画を受けて、住民の受益と負担の関係が明確になり、課税の選択が広がることから創設された。平成12年4月施行の地方分権一括法により自治体が独自に導入する事が認められた。従来、法定外目的税は地方税法では認められていなかった。法定外普通税が創設される契機となった1949年のシャウプ勧告では「法定税主義」と「普通税主義」に沿って、法定外独立税を整理縮小するとともに目的税を限定することが勧告されていたという。シャウプ勧告を受けた1950年の地方税法改正においても法定外目的税については認められなかった。その後、法定の目的税については、1956年の都市計画税、軽油取引税、1968年の自動車取引税、1969年の宅地開発税、1975年の事業所税などが地方税法の改正により設置されている。法定外目的税がこれまで認められてこなかった理由には、租税体系の中では普通税が原則である事、また独自の税源からの財源調達の手段としては自治体には法定外普通税を設置するみちが開かれていた事などが考えられる。
今回の改革で、法定外目的税を、自治体が法定外目的税を課する事が出来る旨の課税根拠が地方税法の総則に設けられた。また、他の目的税と同様に使途を特定する必要があることから、税収の使途となる特定の費用を条例で定めるべきとされた。目的税は、その使途が特定されている点が普通税と異なるところである。法定の目的税の場合、使途を特定する規定が地方税法に定められている。法定外目的税の場合は使途となる費用については自治体の条例で定められる事になる。法定外目的税は、使途が限定され、住民の受益と負担の関係が明確であるというのが特徴である。
自治体調査から
この間、私は6つの自治体を訪問して現在導入されている法定外目的税についての調査をした。実際に訪問してヒアリングを行った自治体と法定外目的税の名称は以下の通りである。
・ 岡山県(産業廃棄物処理税)
・ 岐阜県(乗鞍環境保全税)
・ 多治見市(一般廃棄物埋立税)
・ 広島県(産業廃棄物埋立税)
・ 鳥取県(産業廃棄物処分場税)
・ 北九州市(環境未来税)
以上のように圧倒的に環境関係の目的税が多い。私が調査したところは名称こそ違うものの全てが環境に関する税、もっというと乗鞍環境保全税(岐阜市)以外は全て、産業廃棄物(岡山県・広島県・鳥取県・北九州市)か一般廃棄物(多治見市)に関してかけられる税金であった。
調査項目は導入時期や発案者、税源、税収の規模、課税客体の反応、導入課程での議会の反応や国(総務省)の反応などであった。このプロジェクトの目的の一つが、政経塾出身者の首長や地方議員が実際に現場ですぐ政策立案役に立つための研究という側面があるために、純粋に制度についてのヒアリングだけではなく、導入にあたってどのような課程を踏んで行ったのかという事や利害関係者の反応など、政治課程論的な質問も予め用意されていた。
自治体のヒアリングを重ねる中で、多くの自治体に共通している事がいくつか発見した。いずれの自治体も、法定外目的税の導入は平成12年の地方分権一括法によって、自治体が独自に新しい税金を導入することが可能になってから庁内で税制に関する研究会を作ったり、学識経験者・専門家による研究会を作って、そこから出てきた答申をもとにして、最終的に導入がされたという事である。庁内の若手職員を中心にまず研究会を作ったところと、学識経験者・専門家による研究会を先に作ったところの違いはあった。多くの自治体は、議会での反対や、また関連団体の反対はなかった事が分った。但し鳥取県のみは一度、議会で否決され、条例案が再提出されている。これは、私がヒアリングを行った自治体の導入している税金がすべて環境施策に関わるものであったために、殆ど全ての利害関係人が反対しにくい税であった事が原因だと思われる。
では何故、圧倒的に環境に関する税金が多いのか。それは環境施策がどの自治体においても、これまでに非常に切実な問題となっており、法定外目的税が導入出来るようになったという条件を利用して設計されたという背景があるからである。つまり、そもそも、自治体にとって多くの税源を確保するという目的で導入された税は少なく、環境施策(特に廃棄物処理に関わる)をどうするのかという問題がこれまでに出てきており、税金というの制度を使って、新しい環境施策を実施しているというのが実情である。但し、北九州市の環境未来税だけは、他の自治体の税とは違っていて、担当者の方はこの税金は税収の確保を第一の目的にしているという事を言っておられた。
調査をした、産業廃棄物処理税(岡山県)、乗鞍環境保全税(岐阜県)、一般廃棄物埋立税(多治見市)、産業廃棄物埋立税(広島県)、産業廃棄物処分場税(鳥取県)、環境未来税(北九州市)のうち、多治見市の一般廃棄物埋立税のみが、この中では異色の税であった。他の税の課税客体が廃棄物業者やバス事業者(乗鞍環境保全税)であるのに対して、多治見市の一般廃棄物埋立税の課税客体は名古屋市であった。自治体が自治体から税金をとるというのは非常に珍しい事である。これは名古屋市で出る一般廃棄物(住民の出す普通のゴミの事)の処理をこれまでから多治見市が行って来たが、これまでは、協力金という名目の金を名古屋市が多治見市に払って来たのを、条例を作り税という制度でとることにした事によるものであった。
この多治見市の一般廃棄物埋立税と岐阜県の乗鞍環境保全税以外は、すべて産業廃棄物に対する税であった。これらの税は産業廃棄物の排出抑制を目的とするもので、出てくる産業廃棄物が少なくなればなるほど、税収も下がるという性格をもつものであった。(この点に関しては産業廃棄物に対する税以外のここに挙げた税に全て共通であるが)これは、先に述べたように、これらの税の目的があくまでも、税収確保なのではなく、廃棄物の排出量を抑制するという事を目的とするなどの環境施策の一環として導入されたものだからである。ヒアリングを重ねる中で、複数の自治体の担当者の方から、税金のそもそもの目的は税収の確保であるから、これらの法定外目的税は「税」ではないのではないかという議論も研究会で学者から出されたという事も聞いた。
法定外目的税は地方分権の切り札か
法定外目的税の制度は本来的には、地方が独自に税源を持てるようにする為に導入されたはずである。しかし、私が実際に調査してヒアリングをした結果、税収を確保するという事を主たる目的として導入されたのは、先に述べたように北九州市の「環境未来税」のみであった。実際「環境未来税」は税収を20億円と試算しており他の自治体の導入した法定外目的税よりも非常に規模が大きかった。他の税は全て、税収を得るということは主たる目的ではなく、はじめに「環境政策」ありきという考え方であった。この事の是非はさておくとして、この事実から考えるに、私は法定外目的税というのは、地方分権を進めて行く上での大きな可能性を秘めつつも実際には「切り札」というところまでは行ってはいないし、今後も行かないであろうと思った。
税金という方法を活用する事でその自治体独自の取り組みを実施する、特色ある政策を推進するということをもって、地方分権が進んだという評価をするならば、法定外目的税は、ある意味において地方分権を進める上で大きな意義をもつ事にはなろう。環境施策に関わらず、自治体が独自の政策を推し進め、一つの政策目標の為に税という制度を利用する事は意義のあることではあろう。しかし、しょせんは「目的税」であり、また、税収確保を主たる目的とはしないということが公然と総務省にも自治体にも認識されているようでは、それほど大きな意義のある税金ではないのではないかというのが私見である。
では、本格的な分権を進めるにはどうすれば良いのか。端的にいうと私は、中央政府が基幹税の徴税の権限も大幅に地方に委譲する事だと思う。このくらい大胆な事をしなければ大きな進歩はない。地方が独自に歳入の自治を行う事が出来なければならないというのはこれまでからいわれてきた事である。歳出の自治と歳入の自治の双方が出来て初めて本当の自治という訳である。これまでのように中央からの紐付き補助金や交付税など、上からもらうお金を決められたように使うだけでは到底「自治」とはいえないという訳である。法定外目的税は平成12年の地方分権一括法の実施によって初めて導入が可能になったものであり、その意味では部分的にではあるが、歳入の自治も認められた事になる。課税自主権が自治体に認められた事の意義は確かに大きい。しかし、見てきたように法定外目的税の実際は、自治体が独自に導入した税金がその自治体の大きな収入源になるというところまでは行っていないし、そもそもそういう目的で制度設計されていない税金が殆どである。
おわりに
税源以上の問題とは少しそれるが、分権化社会にについて考える時に必ず出てくる、道州制の議論について私見を最後に述べておきたい。今は地方制度会改革も過渡期である。合併も今後もっと進むであろう。基礎自治体の再編が起こった後、現行の府県制度をどうするのかと言った議論はすぐに出てくるであろう。この分野についての専門的な研究はすでに多く出尽くしているのでここでは多くを述べないが、実際の分権ということを進めようとするとどのくらいの規模でどのくらいの権限が担えるのかという議論がもっと進められなければならない。
今は全ての政党・政治勢力が分権を唱えている。また、一歩進めて「地方分権」ではなく「地方主権」を唱える声も出てきている。また、政治学・行政学の研究者でも分権論議はまだまだ盛んに研究される分野である。しかし、実際の所、本当にこの国のかたちを変えるというところまでの分権を実施するという段階までには至っていない。この原因は様々な部分にあろうが、要はどの程度の分権を本当に我々国民が望んでいるのかという事に尽きるのではないだろか。総務省(旧自治省)はどこまで本気で分権を進めようと思っているのか、また地方の側にどのくらいの意欲があるのかが問われると思う。そのような本格的で骨太の議論なくして、法定外目的税のみをみて、分権の切り札と考える事は早計であろう。
参考文献
『分権型税財政制度を創る 使え!! 自主財源』
分権型社会を創る5(神野直彦編著・ぎょうせい)
『分権型税財政の運営 工夫しよう自治体税財政』
分権型社会を創る6(神野直彦編著・ぎょうせい)
『どうなる 地方税財源』分権委最終報告から見た地方税財源充実の視点
(編集神野直彦 伊藤祐一郎 執筆代表 務台俊介・ぎょうせい)
『課税分権』(神野直彦 自治・分権ジャーナリストの会編・日本評論社)
『地方分権と法定外税』(外川伸一・公人の友社)
Thesis
Kenichi Yoshida
第22期
よしだ・けんいち
鹿児島大学学術研究院総合教育機構准教授(法文教育学域法文学系准教授を兼務)