論考

Thesis

アメリカの教育(1)~DiversityとStruggle~

「なんでわざわざアメリカなんかの教育を見にきたんだ!?日本の教育の方がよっぽど素晴らしいってのに!」
 アメリカの教育について調べに来た、と言うと、学校の先生からも、タクシーの運転手さんからも、何十回となくこんなことを言われました。
 「アメリカの学校は自由すぎる。日本みたいに厳しくしないとダメだ。」
 日本の学校は今、懸命に個性化、自由化への道を探っている、と言うと皆一様に腑に落ちない、という顔でした。
 アメリカの教育と日本の教育はちょうど逆方向を向いているような気がして、とても興味深く思いました。

 正直なところを言うと、私がアメリカへ行ったのは、アメリカをお手本にしようと思ったからではありません。
 アメリカではレーガン政権以後、学校選択の自由を導入しようという流れができ、各州でそれを可能にする法律づくりが進みました。しかし、そのためにただでさえ大きかった貧富の差や人種の差による教育機会の不均等、格差がさらに広がった、という批判も根強くあります。
 将来的に学校選択の自由を日本に導入することを主張している者としては、そんな失敗例もきちんと押さえて、日本も同じ失敗を繰り返さないようにしなければいけない、というのが訪米の一番の動機でした。実際、アメリカで今軌道に乗り始めているチャータースクール制度などは、現在日本の政権の中枢でその導入の可能性が議論されているのです。

 今回は小学校という枠にとらわれず(日本では小学6年生にあたる子どもが中学校にいたりもするのです)、できるだけ多様なタイプの学校や教育機関を訪ね、実践的に研究している方々にお会いしました。
 一ヶ月間での訪問先は以下の通りです。

 

ミシガン州  
University of Michigan Sally Lubeck 助教授
     〃 Harold Stevenson 教授
Ann Arbor Logan Elementary School
Ann Arbor Rudolf Steiner School
ワシントンDC  
Washington DC アメリカ合衆国教育省
ニューヨーク州  
New York 112Public School
New York District30教育委員会
New York IBCNew York
New York 日本経済新聞ニューヨーク支局
New York Japan Foundation
New York OCS News
New York Edison Project
(全米のチャータースクーを経営している民間会社)
マサチューセッツ州  
Boston Boston Renaissance Charter School
(Edison Projectによって経営されているチャータースクール)
ウィスコンシン州  
Waunakee Waunakee Elementary School
Waunakee Waunakee High School
Cherokee Cherokee Middle School
Madison Madison Memorial High School
Eau Claire North Star Middle School
Eau Claire Lake Shore Elementary School
カリフォルニア州  
San Pedro South Shore Magnet School
El Segundo West Athens Elementary School
Gardena Washington Clusterwide Fall Conference
Diamond Bar Chapparal Middle School
Chino Hills Country Spring Elementary
University of
California Riverside
Sue Teele 教授
Santa Monica あさひ学園
Los Angeles Los Angeles Unified District 教育委員会
Beverly Hills El Rodeo Elementary School
South Central Accelerated School

 アメリカは、「アメリカの教育」という風に一口で括ることができないような巨大な国です。実際、学制も、州どころか、郡によっても、この地域は小学校6年、中学2年、高校4年なのに、隣は小学校5年、中学校4年、高校3年、といった具合に異なるのです。

 ただ、私が見せていただいた地域の例に限って言えば、やはり、人種、貧富の差などによる教育の機会の格差が大きいのは事実です。これは学校教育制度のみならず、社会的背景が密接に関係する問題です。
 日本と同じような学区制があるところに、他の選択肢(具体的にはマグネットスクールやチャータースクール)をオプションとしてを入れたがために、そこに集まってくるのは学校への送迎ができるような経済的余裕のある家庭、あるいは教育熱心な家庭などの子どもに偏ってしまい、特に貧困地域では残された学校との格差がますます広がってしまったことは否定できません。
 そして、同じような学区制度、教育委員会制度を持つ日本にとってもこれは無視できない結果であるとも言えます。アメリカの人種問題の根深さは想像以上で、その日本と比べての特殊性は差し引くとしても、もともとある学区制のオプションとしての選択肢ではいけない、やるのだったらオランダのように「どこへ行っても自由、自分で選びなさい」という形にしないと、問題は根本的には解決しない、というのが今回の調査で得た大きな教訓でした。

 そして、このように「いい学校」と「悪い学校」の差が拡がっていく中で、「いい学校」はどんどん新しい学校経営の形や新しい教育方法を取り入れて頑張っています。
 その背景には、やはり、チャータースクール法の制定など、従来の法律の縛りからは自由な、独自の教育を行える土壌づくりがなされてきたことがあります。
 この新しい学校経営の形、チャータースクールについて次回御報告し、次次回はこの新しい教育方法の中でも特に興味を惹かれた「Multiple Intelligence (MI)」のお話をしたいと思います。

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白井智子の論考

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Tomoko Shirai

白井智子

第16期

白井 智子

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