Thesis
「私、学校をつくります!」
こう宣言したのは、今年3月の研究実践審査会でのことでした。何のあてもなく、ただあるのは「やりたい、やらなきゃ」という思い込みのような気持ちだけでした。ここで宣言してしまえば有言実行でやらざるを得ないだろう、と自分のお尻をひっぱたくような気分でした。
ところが驚いたことに、それから一ヶ月で沖縄アクターズスクールのマキノ校長に出会い(月例報告5月10日締め分参照)、その後来年4月に開校する沖縄の小学校づくりに関わらないかというお話をいただきました。そしてさらに一ヶ月、あれよあれよという間に気づいたらその学校の校長になることに決まっていました。
今回の月例報告ではその顛末について皆様にご報告したいと思います。
学校をつくりたい。これは三年間小学校現場に身を置きながら、どうやれば子どもをとりまく環境がよくなるのか、自分なりに考えた末の結論でした。
政経塾ではシステムという側面から、学校選択の自由を公立小学校に入れたらどうなるか、ということをテーマに研究してきました。今も日本版チャータースクール制度を導入するための研究を続けています。
しかし一方で、どんなにいいシステムをつくったとしても、教育は結局現場の問題であり、学校や第一線で子どもに接している先生が頑張ってくれないことにはどうにもならない、という結論に行き着いたのです。
子どもが自分の才能を見つけて、伸ばしていける学校。子どもがワクワクしながら学べる学校。知識を詰め込むよりも、人格形成、何よりも人に優しくすることを大事にする学校。
そんな学校をつくりたい、そしてモデルとして全国に発信していきたい。夢はふくらむものの、お金もない、土地もない。唯一あるのは今までにお世話になり、応援してくださった人々とのネットワークだけです。
いつも何かにぶつかったときに思い出す松下幸之助塾主の名言が、また頭をよぎりました。
「何かをしたいと思ったとき、色んな人にその夢を語りなさい。相談しなさい。そうすれば、応援してくれる人が出てきて、色々と必要な情報も集まってきて、必ず夢を実現できる。」
確か、こんな内容でした。
今までお世話になった方々に片っ端から相談しました。
何人もの人に「大変だよ」と言われました。でも、誰も反対する人はいませんでした。25歳の女の子が「学校をつくりたいんです」と夢を語るだけで珍しがられ、新聞にコメントが載ったりもしました。新しい小学校をつくるということがどんなに大変なことかは百も承知でしたが、何故か、一生かけてやれば必ずできる、という確信のようなものがありました。
そんな中、ある方から沖縄アクターズスクールのマキノ校長を紹介されました。先月の月例報告にも書いた通りですが、レッスンを受ける女の子たちのエネルギー溢れる姿に感動し、子どもの持っている才能を最大限に引き出すことが、人格の形成に直結することを改めて確信しました。
そして、マキノ校長が子ども達の多彩な才能を最大限に伸ばせる学校をつくりたい、という私と共通の願いを持っていること、それをすぐにも実現しようとしていることに興奮しました。そんなインターナショナルスクールを来年の4月に開校しようとしていることを聞き、是非とも協力したい、と願い出ました。 ただこの時点では、来年の4月にできるからにはもう多くの部分ができあがっているのだろう、と勝手に想像していて、どういう風に私が関わったらいいのかを模索していました。
ところがそれから二週間後、マキノ校長から電話があり、東京に呼び出されました。
「小学校の部分をあなたがつくってくれませんか。」
ここで初めて、学校づくりの理念とお金はあるものの、学校建築もカリキュラムも先生集めも、中身は全てこれからつくることを聞かされました。学校づくりにはじめから関われるチャンスなんて、滅多にあるものではありません。
そして、アクターズみたいな小中学校をつくってほしい、というのはアクターズスクールの生徒たちの願いであり、彼女たちの多くがそのインターナショナルスクールへの入学を希望していることを知りました。
アクターズの生徒たちが入学してくれるなら百人力だ、と思いました。これは一から学校をつくるのとは天と地ほどの違いです。彼女たちのエネルギー、パワーがそのまま学校をひっぱってくれるだろうという大きな期待を持ちました。
その場で「やらせてください」と返事をしました。あちらが直感で声をかけてくださったのだから、こちらも直感で返事をするしかない、という変な確信がありました。
そして、その二週間後、大きな荷物を抱えてアクターズスクールの事務所に足を踏み入れた瞬間、マキノ校長の
「やっぱりキミは、校長って感じだね!」
という一言で、インターナショナルスクールの校長になることが決定してしまったのでした。
一つだけ、心に引っかかっていたことがありました。どうしても来年の4月開校とゆずらないマキノ校長。「どうしてそんなに焦るのだろう?」と思っていました。
沖縄でマキノ校長の家に招待されて、すっとその謎が解けました。
57歳のマキノ校長には、7歳、4歳、2歳の子どもがいます。7歳のまりかちゃんは本来なら小学1年生ですが、マキノ校長の「公立小学校に一日でも入れたら、感性の芽をつみ取られる」という強固な信念のために、小学校には行かず、インターナショナルスクールの開校を待って、もう一度保育園のようなところに通っているのです。
学校に行きたくて行きたくてしょうがないまりかちゃん。彼女にせがまれて学校ごっこをしながら、
「今度できる小学校は、自由な学校なの?」
と訊かれて、私はじーんとしてしまいました。
どんなことがあっても、この3人の子どもたちの面倒は見なきゃあ、と思いました。
自分の子どもを行かせたい学校がないから、自分で学校をつくる。これは一見不純な動機のようですが、親としてあまりにも純粋で、自然な思いです。実はアメリカでチャータースクール制度が発展している背景にも、「子どもの学校を自分たちでつくりたい」という親御さんたちの思いがあるのです。
日本の親御さんたちにも、自分たちの望む学校がつくりやすい土壌ができるように、まず沖縄に一校、成功事例をつくりたい、と思っています。
これからやらなければならないことは山ほどあります。一歩一歩山を上っていくつもりです。皆さんのご協力、ご支援を、どうかよろしくお願いいたします。
現在の日本の教育では価値を点数で計られてしまい、自分の才能が何なのかわからない子どもがほとんどです。スターヒルズインターナショナルスクールは、子どもたちをいわゆる偏差値教育から切り離し、人格形成を根幹にしたいと考えています。国籍や人種を問わず子どもを受け入れ、その子どもたちが自分の一番好きなことをみつけて好きなことをやれる学校。子どもが自分の才能をとことん追求して伸ばしていける環境を提供したいのです。沖縄アクターズスクールの経験と実績をもとに、好きなことをとことんやれる環境を与えることによって可能性や才能、感性を伸ばし、自立した精神を持ち合わせた子どもたちが育ち行くという確信から、今の子どもたちにとって一番大切なことは点数を取ることではなくて、幼児の頃から自立心を自発的に養うことであると信じています。当スクールでは生徒に点数はつけません。人格の成長を重視します。
原則的には3歳から18歳までの児童の就学を中心としますが、学年にとらわれないフリースタイルの中での二カ国語教育(日本語・英語)を中心とし、第二外国語・第三外国語の選択クラスのほか、学問、スポーツ、アート、エンターテイメント、マルチメディアなどの各種クラスを設置し、広く国内外の児童の入学を歓迎します。グローバルな環境の中で国籍や人種をこえてバイリンガル、トライリンガルとして成長していく子ども達は、日本のこれからの各分野を担う貴重な人財となるでしょう。このような新しい形のスクールを北中城村に設立し、現在の日本の人格形成を軽視した受験や就職のための点数主義教育を変えることは意義深いことであると確信いたしております。
平成11年4月開校
Thesis
Tomoko Shirai
第16期
しらい・ともこ
NPO法人新公益連盟 代表理事
Mission
教育・ソーシャルセクター