Thesis
沖縄アクターズスクールといえば、安室奈美恵、SPEED、MAX等々、小中学生の子どもたちに絶大なる人気と影響力を誇るスーパーアイドルを数多く輩出してきた学校である。
このアクターズスクールをつくったマキノ正幸校長が、新たな学校づくりを考えているという噂を聞いた。どうやろうとしているのか、話を聞きたいと思った。
そして偶然にも、沖縄県庁の職員の方に「沖縄の教育について調べたい」と尋ねたところが、「今までに見た学校の中で生徒が一番イキイキしていたから」と紹介されたのが、アクターズスクールだった。
早速、マキノ正幸校長に会いに行った。
「今、私は8~9割教育にシフトしてきているんです。」
「今の日本の学校教育は全然だめ。全部根底から変えることを考えなきゃ。」
今の学校教育をできるところから変えていきたい、という私のスタンスとは多少違う。しかし子どもたちの才能をみつけ、最大限に伸ばしたい、という願いは一緒だ。
「今までは、歌と踊りの才能がある子ども達の才能を私が見抜いて、それを最大限に伸ばそうとやってきた。でも、歌と踊りばかりが才能じゃない。多彩な子ども達の才能を伸ばせる場をつくりたい。」
実績がある人だからこその説得力。
どうしてもとお願いして、今のアクターズスクールのレッスンを見学させてもらうことにした。
スタジオのあるフロアへ。雑誌のグラビアでよくみかける女の子が、「こんにちは!」と微笑みかけてくれる。こちらの心までとろけてしまそうな笑顔。瞬時に人の心をつかみ、心の中に入ってくる才能があるのだなあ、と感心する。
スタジオの中ではこの学校で歌がトップの女の子たち30人あまりが練習中だった。
一歩中に入って彼女たちが歌う姿を見たら、涙がぼろぼろこぼれた。
彼女たちが本当に好きなことを見つけて完全燃焼しているのが、瞬時に伝わってきたのだ。
そのエネルギーに圧倒された。
そして同時に、今までに私が訪れてきた何十校もの公立小学校で、こんなに力を出し切っている子どもをあまり見たことがない、ということに気づいて、切なくなった。否、子どもだけでなく、大人でもそうだ。彼女たちのことが心からうらやましくて、涙が止まらなくなった。
マキノ校長は言う。
「芸能、というのはお客さんとの勝負。ここでは格闘技の仕方を教えている。」
私はのっけから彼女たちとの勝負に負けてしまったのだった。負けて当然、と思えるのびやかな歌声。イキイキした顔、顔、顔。
必ずしもルックスが芸能界的な子ばかりではない。しかし、この才能溢れる子ども達を全員スターに育て上げて、芸能界を変えることをマキノ校長は目論んでいるのだという。
「この子達は、歌で人の心をつかむ才能のある子達。その才能をぼくが見抜いて、子ども自身が自分の才能に気づくまで待つ。あとは最大限それを伸ばせる環境をつくってあげるだけ。歌い方や踊り方を教えるのではない。王や長嶋をはじめから育てることができないのと同じで、見えない才能を見抜いてやることが大事なんだ。」
ここには先生は数人だけ。あとは、次にデビューするまでの子たちがリーダーとなってレッスンする。
歌が盛り上がらない。「どうしてだろう。」リーダーが中心となって全員で考える。堂々巡りになってどうしても答えが出ないときだけ、マキノ校長が出て行った。
「どうしてここで前に出ていく振り付けになっているか、わかるか? もっと伝えたくてたまらない、その気持ちをためてためて、それでもおさえきれなくて前に出て行く、そういう意味が込められているんだ。」
「君たちは、歌で人を感動させる才能がある。その君たちがベストを尽くすことを信じるから、選んだんだ。いつでも力を出し切る習慣をつけなさい。」
校長先生は私のそばに戻ってきて、照れくさそうに言う。
「私が言うと、みんな聞いちゃうから、できるだけ何も言わないように、ギリギリまで我慢してるんだけどね。今は、行き詰まっちゃって、前に進まないようだったからね。」
「この中で子ども達がどれだけ人間関係を学んでいるか、バランス感覚を学んでいるか。自分がどこで出るか、どこで引っ込むか、少しでもバランスが狂ったら台無しなんだ。人のために、自分のために、どんなに気を遣っているか。」
確かに。
「あの子たちは、10歳、11歳、12歳。」
とマキノ校長に聞くまでは、女の子達の歳がまるでわからなかった。顔はあどけなくても、目が完全に大人の眼なのだ。
「この子たちが、学校に帰ると、同じように揃えて上手に歌うことを要求されて、自分の個性を殺すことばかりさせられる。自分のために歌うんじゃなくて先生のために歌うことになっちゃうんだよ。」
うーん。私も、彼女たち一人一人の存在感あふれる姿を見ていたら、
「学校って、一体なんなんだろう。何をすべきところなんだろう。」
考え込んでしまった。
きっとこの女の子たちは、何があっても自信を持って乗り越えて生きて行けるだろう。
こんな風に自分の価値を見つけてキラキラ輝ける子ども達が、一人でも増えるようにしたい、と強く願う。
Thesis
Tomoko Shirai
第16期
しらい・ともこ
NPO法人新公益連盟 代表理事
Mission
教育・ソーシャルセクター