Thesis
5月末にインターナショナルスクールの校長に就任することが決まってから一ヶ月。本当に何も無い、有るのは理念だけ、というところから始まった学校づくりは、この一ヶ月でダイナミックに進みました。
毎日毎日、カリキュラムやスタッフや校舎など、学校を形づくるさまざまな要素についてどんどん話が進みます。そして、同じ思いを持って応援してくれる人々が次々に集まり、このプロジェクトに巻き込まれていきます。同じ目標を持った人々でチームを組んで仕事をするのは、こんなに楽しく、感動的なことなんだ、ということを身をもって感じています。
ある日、「この学校に入りたい」という親子に会いました。今通っているアメリカンスクールに合わなくて、笑わなくなってしまった4年生の女の子。親御さんは、創立者でもあるマキノさんにまかせ、私は、とにかく子どもさんと話をさせてください、とお願いしました。
色んな話をしました。
「あなたたちが、この学校をつくるのよ!どんな学校がつくりたい?」
「争いがない、戦争してはいけないということをちゃんと教える学校にしてほしいの。」
4年生の女の子の、切実な訴えに、私は感動しました。
「すばらしい考えじゃない!あとは?」
「ペットを学校に連れてこられるようにしてほしい。」
「OK!あとは?」
「トランポリンがある学校がいいな。」
「うーん、そんなにたくさんお金があるわけじゃないから、みんなが欲しいもの、全部は買えないかもしれないけど・・。」
「そうしたら、私たちでバザーをやって、お金、つくるわ!」
彼女のアイディアは、尽きるところを知りません。時間ぎりぎりまで、たくさんたくさん話をして、また新しいアイディアがでてきたら、いつでも電話して教えてもらうことを約束して、やっと話を終えたのでした。
お母さんのところへ戻って、話の中身を報告し、
「彼女は、絶対、大丈夫!すごくいい子に来てもらえて、私は嬉しい!」
と太鼓判を押すと、突然、お母さんが泣き出しました。
「やっとこの子の居場所ができました。安心しました。会えてよかった!」
涙が止まらないお母さんを前にして、私もマキノさんも、一緒になって泣きました。私がずっとやりたいと思っていた事を、待っていてくれた人がいたんだ!と思うと、生徒がこの子一人でも、やらなきゃ!という気持ちになります。
でも、実は、ものすごくたくさんの子どもたちが入ってくる事になるかもしれない、覚悟しておけ、と、マキノさんには言われています。アクターズスクールの子どもたちが、少なくとも100人は入ってきそうなこと。マスコミを通してのキャンペーンの反響、問い合わせがものすごい数来ていることなどを考えると、一体何人が入学希望者として来ることになるのか、想像もつかない状況なのです。私もマキノさんも、居場所を求めてこの学校に入りたいという子どもは、できうる限り受け入れようという考えなので、その準備は本当に大変です。
でも、生徒が1人であろうと、1000人であろうと、来たいという子どもがいる限り、テントをはってでも、来年の4月に学校を始める気持ちでいます。
今月の学校づくりのプロセスの中で一番大きかったのは、カリキュラムの大枠が決まったこと。これは私がずっと実現したいと思っていた子どものためのプログラムをそのまま形にしたもので、学校づくりの根本、幹の部分となります。それを含めた学校のQ&Aを引用して、今月の報告としたいと思います。
Star Hills International School Q&A
98・6・25現在 文責:TS
1、 カリキュラム
ひとりひとりの子どもの才能を発見し、伸ばす。その過程で人として生きていくのに必要な基礎基本を身につける、というのがこの学校の基本方針です。
原則的には、1日に40分のユニット×2(次頁の時間割ではBasic Studies Ⅰ&Ⅱにあたる)で読み書き、数の概念などの基礎基本を学びます。その際には学年によって学ぶ内容を決めるのではなく、その子どもの発達段階、興味関心に応じてさまざまな教材を用意します。また、従来のように一斉授業の中で知識を暗記させる方式ではなく、子ども自身が自分のペースで自分が学ぶ方法、教材を選べる方式をとります。
午後は、子どもひとりひとりのプロジェクト(Personal Project)を進めます。自分が興味を持ったテーマを選び、計画を立てて実行する。周りの人々のサポートを得ながら子ども自身が目的、手段、実行方法を考えます。その作業を繰り返すうちに、子どもは自分が何に向いているか、どんな才能があるかに自分で気づいていくのです。そして、自分で見つけた目標を達成するためにどんな勉強、知識、知恵が必要かということがわかり、それを身につけたいというモティベーションが芽生えます。
インストラクターは子どもが自分のやり方で勉強できる環境をつくり、そしてひとりひとりの才能の発見、気づきを手助けする役割です。
ただし、この学校は子どもがつくる学校です。そして、子どもの発達の仕方はひとりひとり違います。入学してきた子どもの興味、関心、才能、能力によってカリキュラムはどんどん形を変えていくことになるでしょう。
子どもひとりひとりが、自分に一番合ったカリキュラムをつくれるようになることが当校の目標です。
School Hours
Monday through Friday 9:30~14:30
9:30 Star Hills Morning Exercise and Cleaning Up
9:50 Start Off Meeting
10:00 Basic Studies Ⅰ(注1)
10:40 Recess
11:20 Basic Studies Ⅱ
12:00 Lunch Time
13:00 Personal Project (注2)
14:30 Time to go home
(但し、生徒のプロジェクトが終わらないときは、 保護者の同意を得てスタッフがいる限り続けさせる)
(注1)Basic Studies Ⅰ & Ⅱ
生徒のニーズに応じて講座を設置、学年に関わらず選択することができる。
基本的には自学自習型のワークを自分で選び、それを段階に応じてマスターしていく方式。インストラクターはサポート役となる。
生徒の希望によりグループワーク式の講座を設ける。
(注2)Personal Project
最初に計画を立てる。目的、方法、タイムスケジュール、アウトプット(あれば)を組み立てる。一つのプロジェクトが終わるごとに次の段階に進む。
中学生以降は将来の職業をも視野に入れた計画を立てるようにする。
以上の時間割がいやな子どもには、やりたいというモティベーションが芽生えるまで好きなことをさせる。←基本!
2、 教員、スタッフ
国籍不問。年齢・経験不問。
学校で一番大事なのは子どもが幸せに育つベースをつくることだということを理解している人。ものごとを考える定規がたくさんある人。アタマとココロがやわらかい人。ハートがあたたかい人。そんなスタッフを現在募集しています。
3、 卒業認定
原則的には15歳で中学校段階修了、18歳で高等学校段階修了とします。しかし、高等学校段階を修了する前に自分の進むべき道が見つかった場合、保護者の同意が得られれば卒業認定とします。
高等学校の最初の卒業生たちが出るのに間に合うように二年制のカレッジを新設する予定です。
4、 義務教育との関係、学校教育法上の位置づけ
この学校は、インターナショナルスクールであり、学校教育法上の各種学校にあたります。学校教育法第一条に定められているところのいわゆる「学校」ではありません。
それでは、スターヒルズに通っている中途で他の「学校」に移る事情ができた場合はどうなるでしょうか。
現在の文部省の見解では、「小学校」の6年生を一年間履修すれば中学校入学資格を得ることができ、そのまま「中学校」へも進むことができます。インターナショナルスクールの小学校段階を修了した後、中学校段階で「中学校」へ移る場合、原則的にはもう一度「小学校」の6年生の過程を修了してから「中学校」に進学、ということになります。
スターヒルズを卒業して他の高校、大学へ進学したい場合、受験できるかどうかは個々の学校との間の単独交渉になります。
スターヒルズを卒業した子どもが他の高校や大学を受験できるように交渉したい、という希望を持った場合、スターヒルズはそれを全面的にバックアップします。
(参考条文)
学校教育法
<学校の範囲>
第1条
この法律で、学校とは小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園とする。
<学校の設置者>
第2条1項
学校は、国、地方公共団体及び私立学校法第三条に規定する学校法人のみが、これを設置することができる。
<高等学校入学資格>
第47条
高等学校に入学することのできる者は、中学校若しくはこれに準ずる学校を卒業した者又は監督庁の定めるところにより、これと同等以上の学力があると認められた者とする。
<大学入学資格>
第56条
大学に入学することのできる者は、高等学校を卒業した者若しくは通常の課程による12年の学校教育を修了した者(通常の課程以外の課程によりこれに相当する学校教育を修了した者を含む。)又は監督庁の定めるところにより、これと同等以上の学力があると認められた者とする。
学校教育法施行規則
<中学校卒業者と同等者>
第63条
学校教育法第47条の規定により、高等学校入学に関し、中学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者は、次の各号の1に該当する者とする。
(1~4はスターヒルズの生徒は該当せず)
5、その他高等学校において、中学校を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者
<高等学校卒業者と同等者>
第69条
学校教育法第56条の規定により、大学入学に関し、高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者は、次の各号の1に該当する者とする。
(1~4はスターヒルズの生徒は該当せず)
5、その他大学において、相当の年齢に達し、高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者
5、 現在の文教行政との関係について
スターヒルズはインターナショナルスクールであり、文部省の学校教育の枠外にあります。それだけに、その特色を活かして、未来の日本の教育のモデルスクール的な役割を担っていけると自負しています。
実際のところ、現在の文部行政も、子どもが「教わる」教育から「自ら学ぶ」教育に転換してきていること、ゆとりの中で生きる力の育成を目指していることは周知の通りです。
折しも6月22日に公表された教育課程審議会(文部大臣の諮問機関)のまとめでも、
一、 各学校が創意工夫をしてゆとりある教育を展開し、基礎・基本の定着を図ること
一、 義務教育において授業内容を基礎的な内容に厳選すること
一、 小中学校で「総合的な学習の時間」を新設、必修とする。数値的評価はせず、児童生徒の良い点などを適切に評価する。指導要録上の評定もしない
一、 中学で選択教科の年間授業時間の上限を二倍に拡大
一、 高校で必修科目を縮減、選択の範囲を拡大
等の方針が発表されました。
この根底にある考え方はまさにスターヒルズの精神そのものであり、スターヒルズは現在の文教行政が目指す学校の最先端の事例として必ず日本の教育改革に役立てると考えています。
そのために、長期休暇も公立の学校とは時期をずらします。多くの先生方に来校していただき、ご自分の目で新しい教育の姿を確かめていただきたいと願っています。
7、マキノ正幸氏の位置づけ
沖縄アクターズスクール校長マキノ正幸氏は、本校の創立者です。
沖縄アクターズスクールとは、共通の創立者をもちますが、法人としては無関係です。しかし、沖縄アクターズスクールの生徒達の多くが当インターナショナルスクールに通うことになる予定です。また、エンターテイメント部門の教育については、沖縄アクターズスクールが全面協力態勢でインターナショナルスクールの子ども達をバックアップします。
7、 学費、施設費等
原則的に、学費は年間50万円以下、とご家庭の負担が最低限度ですむように考えています。また、特に才能が優れた生徒には特待生制度も適用する予定です。
8、 通学方法、寮
遠方から来た生徒のために寮、及びスクールバスを用意します。
9、校舎、キャンパスについて
森と自然に囲まれた素晴らしい環境です。森の中には小川が流れ、夏にはホタルも飛びます。天気がいい日には川や森や海が、そのまま教室になることもあるでしょう。
この環境の中に、ガラスをたくさん使って、光がさんさんと注ぎ込む構造の、天然の材料のみを使った明るい校舎を建設する予定です。
学校が暗いと生徒の顔も暗くなります。とにかく、明るい校舎を!と設計士さんにお願いしています。
10、 白井校長について(文責:RM)
25歳の白井智子さんが校長を務めます。彼女は、4年間オーストラリアで教育を受けた経験もあり、東京大学卒業後、松下政経塾で学校教育の改革をテーマに幅広い研究活動を行ってきました。常に子どもの視線でものを見つめ、笑顔あふれる素晴らしい女性です。
(注、この私の紹介の部分は、スタッフが書いてくれたものです。こんなこと、自分では書きません。)
Thesis
Tomoko Shirai
第16期
しらい・ともこ
NPO法人新公益連盟 代表理事
Mission
教育・ソーシャルセクター