論考

Thesis

中国人教授の朝鮮半島分析を通じて

朝鮮半島をどうみるか。これは日本のそして世界が抱える大きな問題であろう。私自身、現在ソウルで活動しているわけだが、韓国人のアメリカ絶対主義のせいもあるのかもしれないが、多くの文献・物事を見る視点がアメリカ側から語られることが多い。多くの教授がアメリカ帰りであることもその大きな要因かもしれない。この一方的な見方が様々な誤解・偏見を生んでいるのではないであろうか。国際情勢を見る際には、多面的に物事を見る必要がある。

 私はこの冬、朝鮮半島を多面的に見る視点を養い、中国の国家戦略を調べに中国を訪れようと考えている。訪問先は、北京と朝鮮自治区の延吉である。中国高官が北朝鮮・北東アジアをどう捕らえ、そして、人民がどう考えているのか。北朝鮮に対する住民の認識調査を通じて日本の取るべき北朝鮮戦略を考えたいのである。

 私自身、朝鮮半島を考える際に、中国を積極的に利用・活用することが日本の取るべき道であると考えている。利用するという言葉を使用すると何か姑息なイメージがあるかもしれないが、さまざまなことを考えれば考えるほどこの道がある意味確実性があるように感じる。なにも、中国にべったりになれとは考えていないし、日米同盟を放棄して中国につくべきだとも考えていない。日本だけでなくアジアの繁栄にも貢献してきた日米同盟を強固に維持しつつ、本来の自主性を持った国に日本がなった上で、中国と対等の関係で議論・交渉していこうというのである。そして、その中で、朝鮮半島への仲介役、情報収集という意味で中国を活用していくべきであると考えている。

 10年前の、中韓国交正常化によって、冷えきった中国・北朝鮮関係がここ最近また友好関係を築き始めてきている。原因としては、北朝鮮側は、経済支援と食糧難に対して頼れる国が中国しか残っておらず、尚且つ朝鮮戦争を最後まで一緒に戦った信頼できる国として見ているからである。一方、中国側は、朝鮮半島で戦争が起こった場合、中国の戦争への明確な基準・姿勢を示さねばならない。また、北朝鮮で動乱が起こった際に、中朝国境付近に多くの難民が訪れる事が予想される。難民を見とめない中国としては国内の混乱を引き起こしかねないという危惧があり、北朝鮮の現状維持を望んでいるのである。しかし、なによりも、中国が朝鮮半島に関心を示す理由は来たるアジアの時代において中国がリーダー的役割を演じたいとの欲望がありそれが国家戦略として動いているからではないであろうか。いずれにせよ、中朝は様々な利害を胸に協力することで自国の戦略を有利に動かそうとしているのだ。

 では、いったい中国人は朝鮮半島についてどのように考えているのであろうか。今日は、ある中国人のインタビューを通じて見た朝鮮半島への視点を見てみることにする。

 先日、韓国の文化日報に『アメリカ・日本は対北朝鮮政策の硬直性を止めねば』というインタビュー記事が載った。インタビューを受けたのは、北京大学付属朝鮮半島問題研究所 所長の陳峰君教授であった。彼は、朝鮮半島を研究して20年になり、中国国内の最高権威と称されている人物である。彼の代表的な論文『朝鮮半島統一と中国の楽観的見解』は90年代半ばに発表された。彼の姿勢は、発表した時期が90年代半ばという朝鮮半島が一番緊張した時代にも関わらず楽観的見解を示していることからもわかるように極端な楽観主義者である。

 ところで、このインタビューを見るとき注意しなければならないことは、韓国の新聞からの情報であることだ。現在の金大中政権は、数ヶ月前、大手マスコミを対象に税務調査を実施し、役員を逮捕した。この調査の真の目的は、言論弾圧にあったということが明らかになってきた。北朝鮮政策―太陽政策―について厳しく批判することを行わせないようにすることを一番の目的としているというのだ。したがって、その後、韓国の新聞には、極端な北朝鮮政策の批判は載り難い状況になっている。その意味で、今回の楽観主義的記事は、中国の全ての意見であると考えるのは早計であるともいえる。しかし、北京大学という中国の文系界では一番の大学でしかも、朝鮮半島研究所の所長の見解は見る価値があるであろう。そこで、以下、簡単にインタビューを眺め、私の考えを述べてみたい。

 彼は、インタビューの中で大きく分けて3つのことを述べていた。1、9・11テロはむしろアメリカ・中国の関係に肯定的に作用した。2、アメリカと日本は北朝鮮への強行政策を辞めるべきである。3、来年末の韓国大統領選挙によって次期政権は現在の太陽政策を維持するであろう。というものである。

 この中で注目するのが、2番目のアメリカと日本の北朝鮮への政策転換を促す点である。彼は北朝鮮は朝鮮半島の緊張と軍事的対峙を全く望んでいないのは事実であるとし、内部の平和を望む動きは外部からも客観的に見ることが出来るとしている。その例としてEU圏との国交樹立を挙げている。また、『観念を一新し旧体制を脱する努力をし、大胆に技術開発を進行しなければならない』という金正日が今年の始めに発表した論文を引用し、内部的にも平和に対する動きが見えるとしている。そして、経済的困難も山場を越え、しかも、食料事情も大きく改善されたとして、その時にアメリカと日本が北朝鮮の首を締めるようなことをすることを止めるべきであるとしている。

 この点、確かに、北朝鮮内では一定の変化はあったのかもしれない。しかし、EUとの国交樹立は、全く利害が関わらない国であるということがウラにある。北の変化を外部に宣伝するだけであるとも取れる。教授が、アメリカ・日本の戦略上の立場を理解していないともとれる。日本にとって、北朝鮮との間でまず議論されなければならないのは、70年代に一方的にちゃらにされた日本への債務、そして、拉致問題であろう。

 北朝鮮に拉致された日本国民がいる。これらの事件は日本政府も認めていることである。さて、この拉致問題を考える際には、韓国と比較しながら見ていく必要がある。実は、韓国にも拉致問題・朝鮮戦争時の捕虜問題がある。この点、現政権は拉致問題には目をつぶって経済交流を通じて南北関係を改善させようとの戦略で南北対話が進められてきた。

 昨年の南北会談合意によって、韓国内に捕らえられている北朝鮮の工作員などの非転向者達が北に送り返された。その後、彼らは、労働党党員の資格を授与され住宅まで与えられた。

 これに対して、韓国人の拉致問題に対する北朝鮮の反応はどうであろうか。実は何も変化は見られないのである。一方的に北朝鮮が得をしたという形になっている。このような、自分勝手な国が一向に変わろうがどうして信じることが出来るのであろうか。強行政策を辞めればその先に何が見えるのであろうか。教授の意見には真っ向から反対である。日本は、日本国民が有事でない平時に拉致されたという重要性をもっと見つめる必要がある。その意味で、現状においては今の政策を維持すべきである。っといっても日本にしっかりとした政策があるのか疑問ではあるが、拉致問題解決を先にした外交を行っていくべきである。

 このように、中国では彼だけなのかもしれないが楽観的視点で語られている。これは、やはり中国も今まで一方的視点のみで朝鮮半島を見て来たという経緯があるからに違いない。その流れは今も変わっていないのかもしれない。

 これは、前述のように今までの日本にも当てはまることである。中国がどう考えているのかをもっと理解した上で議論していく必要があるのだ。その意味で、中国からの視点が大事である。私は、朝鮮半島を挟む各国の政策・各国の状況を理解した上で日本の取るべき北東アジアにおける長期的な政策を作っていきたい。

 これは何も朝鮮半島に限ったことではなく、あらゆる事に当てはまることである。しかし、忘れがちになることも事実である。中国が21世紀注目される中、この国とどう付き合いともに歩んでいくのか。その中で、朝鮮半島をどう捉えていくべきなのか。この点を意識しつつさらに研究を進めていきたい。

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五味吉夫の論考

Thesis

Yoshio Gomi

五味吉夫

第20期

五味 吉夫

ごみ・よしお

三得利(上海)投資有限公司 飲料事業部 事業企画部

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日本の対アジア政策を考える

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