論考

Thesis

正すべき日本の北朝鮮への姿勢

南北朝鮮が新たな道をお互いに模索し始めた。朝鮮半島に今までにない雰囲気が生まれれば周辺諸国である中国・日本、そしてアメリカと言った国々もその動きを的確に捉え今なにをしなければ行けないかを決定していかなければならない。そこで、この報告では、先の南北会談を受けて実施される離散家族訪問について触れ、また、97年11月の日本人妻里帰りと比較しつつ、今後の日本、そして周辺国がいかなる役割を果たしていかなければならないかを考える。

 6月13日、韓国金大中大統領が北朝鮮を訪問し初の南北首脳会談が行なわれた。その際、両国間で「南北共同宣言」なるものが出され南北関係の発展、平和統一の実現に向けて両国が協力していくことを約束した。
 南北共同宣言の第3条項に以下のような記述がある。「南北は今年8月15日に際して、分散された家族、親戚訪問団を交換し、非転向長期囚問題を解決するなど、人道的問題を早期に解決する。」というものである。
 これは、太平洋戦争や朝鮮戦争によって不幸にも北と南に分断された家族が今回の会談を受けて数日間双方を訪問出来るようにするということである。実際、韓国国内には北朝鮮出身者が離散家族2世から3世をも含め766万7000名いると推算されている。これは、韓国総人口の約17%にあたる。

 この離散家族訪問は赤十字が中心となって進めている。今回の離散家族訪問は希望する人がすべて訪問できるというわけではない。たった100名しか訪問が許されないのである。そこで、赤十字は希望者を募り公平に選定作業を進めていった。申し込み希望者は7万5900名にも及び競争率は759倍にもなった。赤十字社は公正・透明性・信頼性をモットーに第1次対象者400名をコンピュータ抽選によって選抜し、彼らに対し赤十字の職員が個別に家庭訪問し、闘病中または体に不便はないか、法的に北朝鮮訪問に問題がないか、北朝鮮を訪問する意思があるかなどを確認して200名をまた選抜し北朝鮮に通知し、北朝鮮から結果が出て最終対象者100名が選定された。当初、5%程度を政策的に選定できるように考えていたが政府は公平性の観点からその方針を撤回した。
 そして、8月8日最終的に離散家族訪問団が確定した。訪問団は直系家族の生存が確認された38人と兄弟姉妹の生存が確認された68人中、年齢の高い順に61名が選ばれた。年齢構成は、90歳以上が3人、80代が20人、70代が64人、60代が12人で再開する予定の家族は、妻と子供17人、子供21人、兄弟姉妹61人になった。実は8月9日、北に109歳の母が存在していると思われていた、チャン・イユン(71)の母親が死亡している事実が判明した。その結果、チャン氏は離散家族訪問団の該当要件にはあたらないため待機者であった101番目の人にお声がかかった。しかし、彼がチャン氏に譲ったためチャン氏も例外的に行けるようになった。
 訪問団は、14日に案内教育を受けた後、航空機を利用し15日から18日までの3泊4日を平壌で過ごすことになる。また、北朝鮮からも同じ時期訪問団151名がソウルを訪問する。
 この訪問は、恐らくTVで生中継され国民に大きな喜びと希望を与えることになるであろう。

 実は、離散家族訪問は全斗換大統領時の85年にも実施された。今回は前回の規模よりも倍増した。しかし、前回は1回のみでその後訪問は実施されなかった。そのため、前回の訪問で期待と希望を与えられた国民はその後悲しみの涙を流した。今回の訪問の問題点は、離散家族の制度的解決について話されていないということである。もしかしたらまた1回きりのイベントになってしまう危険性もあるからである。
 そこで、まず、離散家族の生死の確認、書信往来、面会所の設置、故郷訪問を順に考えていかなければならなかったのではないか。759倍という倍率で運良く訪問できる人は良いが残りの7万を越える人達はただ、それを見ていることしか出来ない。彼らは家族が生きているのか、無事に生活していることも知る由がない。せめて、訪問できない人のために生死確認ぐらいは制度的にどのようにやっていくかを決める必要があったのではないか。また、亡命等で韓国に来た北朝鮮人については今回の離散家族の対象にもなっていない。彼らも北に残してきた家族のことを心配している一人でもあるはずだ。なにも区別する必要はない。また、北に拘留されている漁民や朝鮮戦争やベトナム戦争の際、北に行って、または北に捉えられて北に生存している韓国軍人についても一緒に考えていかなければならない。今回の首脳会談でもこの話しはなされていない。これが太陽政策なのかも知れないが、忘れてはならない重要な点である。

 韓国でこの離散家族の訪問が国民に大きな衝撃を与えるであろうということは前述したが、日本では3年前、日本人妻が里帰りをした。その時の帰国者は15名。帰国日程は1週間でそのうち3日間は本当の意味での里帰りをしお墓参り等をした。
 一方、今回の離散家族訪問では4回しか家族との対面の時間がとられていない。また、宿舎で一緒に寝たり、家庭訪問やお墓参りも禁止されている。その意味で今回の訪問は非常に制限された中での訪問と言える。

 さて、日本人妻の帰国は、日本からの援助と引き換えに、また、日本が旅費や滞在費などを全額保証した形で里帰りが行なわれた。実際、彼女達は、北に気に入られた人達(全員が朝鮮労働党党員)が訪問してきたため北の実情を知り得ることは出来なかった。また、この訪問も1回きりに終わってしまった。今回の離散家族訪問でも制限されていることなどを考えると北の実情を知ることは出来ないのではないであろうか。

 首脳会談によって、各国は北に対する制裁や政策を緩和するとの声明を次々に発表した。日本政府の反応は、南北共同宣言によって朝鮮半島の緊張が緩和することを強く望むとともにこういった動きが日朝国交正常化交渉に良い影響を与えることを期待すると外相がコメントした。これを見ると日本も北に対する考え・政策の方向転換をしようと考えているように思える。実際、日朝は7月26日バンコクで史上初の外相会談を行ない「親善友好の関係のために努力する」などの共同声明文まで発表した。これを機に日朝首脳会談開催の問題も挙がってきた。実際、バンコクでの外相会談では首脳会談の件が話されている。

 首脳会談自体を行なうことは両国の関係を改善する意味でも良いことではある。しかし、今までの日本の対応を見てくると今後も同じ対応で良いのかと考えざる負えない。今までの日本の対応は、北や韓国の外圧にすぐ屈するという点がある。謝罪問題にしろ、米の支援にしろ。日本は日本にとって今なにが大事かを考えようとしていないようにおもう。

 話しがそれるが先日、韓国の「今だから話せる」と言う番組で韓国の政権、政治家と日本の政治家との関係についての番組があった。朴正煕大統領時代に韓国で地下鉄を作る事業が在った際、韓国は日本の地下鉄システムを導入した。その際、日本の価格より2倍もの価格で日本からシステムを輸入し、その一部が日本の政界に流れたというもの、また、88年のソウルオリンピック誘致の際も相当の額が政界に流れたというものである。日本の政治家が、金大中拉致事件のときにも何も言えなかったのはこういうことによるものではないか。実際、あの事件のときも3億円が朴正煕大統領から田中角栄首相に流れたと言われている(金大中大統領 角間隆 小学館文庫 2000)。日本は貸しを作ってしまったため韓国や北にNOとキッパリと言えないのかもしれない。

 さて、話しを元に戻すと、先日のバンコクでの会談を受けて河野外相が「食料支援を真剣に考慮する」と立場を急変させた。これは、日朝国交正常化交渉が今月末に予定されていることと関係があるように思う。
 日本には北との間で解決しなければならない問題がたくさんある。拉致問題やミサイル問題、食糧援助した際に国民のすみづみまで行き渡るのかといった問題など。
 日本が国益のためにはっきりなにをまず優先させるかを考えなければならない。今までの経験を通じて援助からスタートして次ぎに本論というやり方がいかに失敗を導くかを。

 また、先の南北会談で韓国が北に対して経済協力をするとの約束をした。それを受けて最低でも38度線で切断されていた鉄道の復元(17億ドル)、また、電力供給のための施設を作る費用(15億ドル)を援助すると考えられている。しかし、韓国には現在、北支援財源は約9億ドル前後しかないと言われている。したがって、北の復興には無理がある。そこで、北は日本との国交正常化による賠償金に目をつける可能性が出てくる。これには韓国も正常化をサポートしてくるはずである。まずは、国交正常化してから諸問題について考えようとの意見が韓国側から出てきたとしても立ち止まって考えなければならない。北からの亡命者で印象に残るコメントをしていた人のことを思い出す。「アメリカは骨まで拾いに来るのに、日本は生きている者を助けにも来ない」忘れてはならない、一番守らなければならないのは何よりも国民であることを。そのためにもハッキリものを言うことが大事である。石原慎太郎とインドネシアのマハティールが書いた本の中に、とにかく嫌われても議論することが大事であると書いてある。議論したその時は険悪になるが長期的に見れば良い結果が出るということである。これがまさに日朝間に言えることのように思う。
 そのためにも議論の場を日本が進んで作っていかなければならない。日・韓・朝会談や日・韓・朝・中・台会談を定期的に進めていく必要があるのではないか。日・韓・朝会談は日本と韓半島がどのような役割・関係を進めていくか。戦争についてごちゃごちゃ言うならそれに対して本音を語れる場にしたい。それに、中国、台湾が加わるとアジアにおける5ヶ国がどのようにリーダーシップをとっていくのか?その際、経済協力・軍縮をどのように進めていくかを議論する場にしたい。
 しかし、すぐにこのような場を作ることは、容易ではない。したがって、既存のものを利用しそのなかでこのような本音の話しをしていく場を作っていくのが正しい道のように思う。現在、北東アジアには、APECやASEM(アジア欧州連合)、ASEANまた、ASEAN+3(日本・韓国・中国)などの定期的に行なわれる会合がある。そのすべてとは行かないがそれを上手く活用しそこに、北朝鮮が参加できるような雰囲気を作り北との関係を改善していくことが大事になってくるのではないか。その際、しっかり言いたいことは言うという姿勢を忘れてはならない。
 21世紀は北朝鮮をどのように議論の場に参加させるのかと言うことからスタートしアジアの平和と安全のために大きな変革を遂げる世紀にしたい。

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五味吉夫の論考

Thesis

Yoshio Gomi

五味吉夫

第20期

五味 吉夫

ごみ・よしお

三得利(上海)投資有限公司 飲料事業部 事業企画部

Mission

日本の対アジア政策を考える

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