論考

Thesis

教科書問題を通じて

文部科学省は4月3日、来春から小中学校で使用される教科書の検定結果を発表した。申請した企業数は8社で、修正等を経て全て合格した。今回の教科書検定は、昨年の申請時から国内外から注目を浴び議論がなされてきた。というのも、「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、つくる会)が主導し、扶桑社が出版する中学校の歴史と公民が検定に申請されたからである。つくる会はこの検定を通じ137項目の検定意見と99項目を修正し合格することになった。

 ここで、簡単につくる会についての説明をする。
 つくる会は、1997年1月、現行の教科書を「自虐的」だと批判し、独自の歴史教科書をつくって中学校に広げる目的で学者らが設立した会である。そして、漫画家の小林よしのり氏ら関係者が雑誌や書籍を通じて主張を普及させてきたという経緯がある。
 今回の検定申請の内容が昨年来表面化することで、韓国・中国をはじめとするアジア諸国は日本に対する警戒感を募らせ、政治的な圧力をかけるまでになった。しかし、政府としても検定制度が、教科書内容の明らかな誤りやバランスの欠如などの欠陥を指摘し、修正を求めることを基本とする制度の趣旨にかんがみ、また、教科書が、韓国のような国定教科書ではないという理由から政府が検定の合否に関与できないという立場を誇示し、外圧に屈することなく原則道理を貫き通した。

 4月3日、検定合格の報道が日本中そして、アジア・世界を懸け巡ることによって、さまざまな議論がなされた。中国は、結果を聞くや否や日本に対して断固修正を求めるといった厳しい対応をとった。一方、検定合格に懸念を表していた韓国の対応は少し違っていた。というのも、韓国は中国のように厳しい対応を政府がとるということを最初の段階では行なっていなかったのである。これは、ここ数年来の日韓関係を気にしてか金大統領も様子を見るといった考えをとったのかもしれない。しかし、国民レベルでは日本に対する怒りは検定合格発表前から起こっていた。

 韓国の報道を見ていて気づくことは、日本の検定制度がどのようなものであるのかということ、教科書がどのような問題点を持っているのかということについての報道・解説が少ないように感じた。これは、日本政府の説明不足と韓国マスコミの説明不足にあると考えている。だから、多くの韓国人と話をしていても、ウソを教える教科書が出来るから反対、慰安婦の記述がなくなったから反対と具体性に乏しい議論がなされる。正直、韓国人は自分が正しく判断するだけの材料を持っていないまま、ただ単に民族性なのか韓国人の良く使う「自尊心」のためなのか過剰な反応を示しているのである。

 ところで、韓国は、日本以上にインターネットが普及している国の一つであるが、今回はこのインターネットを使った大規模なデモが繰り広げられた。それは、韓国では「サイバー連座デモ」と呼ばれた。3月31日午前9時、正午、午後3時、6時、9時に30分間集中してあるホームページに接続することでそのホームページをダウンさせようというものであった。
 これは、掲示板・Eメールを通じて事前に約束・確認されたもので、対象先は文部科学省・自民党・つくる会・扶桑社・北海道議会であった。このデモは日本総攻撃と題され、次々にホームページをダウンさせていった。午後3時には産経新聞を除く5つがダウンした。韓国では、産経新聞がダウンしていないことから、あちこちの掲示板で「産経新聞を攻撃しなくては!!」という言葉が載り、結局6時には全てがダウンしてしまった。また、日本の掲示板に掲示するように、あらかじめ日本語で「歴史歪曲教科書検定通過反対!!」というサンプルまで掲載され、それをコピーし掲示板に掲示するようにという動きまで起こっていた。

 私が、韓国で生活していて感じることは、韓国人の気質は、熱しやすく覚めやすい。そして、それは異常なまでの熱しやすさだということである。今回それが現われたのかもしれない。
 少し話はそれるが、これに似たような事件が実は昨年アメリカで起こっている。これは、アメリカメジャーリーガーの人気投票をインターネットで行うというアメリカ企業主催イベントでの出来事であった。その投票で1位になった選手は、マグワイヤーやソーサといった大物スターをダントツで押しのけて一位になった。それは、韓国人でドジャースの投手パク・チャンホであった。これも、韓国から嵐のようなアクセスがあったと確認されている。このように韓国人は、異常なまでの執着心を持っていることがわかる。
 今回のサイバーデモでは、特殊なソフトを使ってデモを容易・簡単に誘導した。それは、韓国内サイトの資料室のボタンを一度押しただけで、上記の6つのホームページに同時に接続されしかも、2-3秒おきに連続して接続されるようなプログラムが作られていたのである。そして、それを後日調べてみると、4月1日にはなんとそのサイト自体が消えてなくなっていたというのだ。

 このように、韓国内の国民の反応はすばやかった。それを受けてか、金大統領が教科書問題に対して強い意思表明を行ったことで、韓国政府の対応も強硬になった。国民感情に大きく影響されるという大統領・政府の対応は独立以来かわらない韓国の特徴の一つだ。在日韓国大使を事実上召還し、また、国会議員が日本に再修正を求めるために次々に日本へ飛び立った。
 韓国のある議員は、国会議事堂前においてたった1人でデモ活動を行っている。また、16日の在日韓国大使館主催の創作オペラも、天皇や文部科学大臣が観覧されるということで、出席を予定していた韓国与野党議員も13日に訪日を取りやめた。このような、動きを通じで日韓関係は再び悪化の道を歩み出そうとしている

 ところで、私は、韓国の友人を通じて韓国でどのような歴史を学んできたのか。
 いろいろ聞く機会が今まで多くあったが、その中で、韓国は民族教育・反日教育に力を入れてきたことが容易に理解できる。というのも、1945年終戦で韓国は独立を果たしたわけだが、これから韓国が何を目指し・どうしていくかについてハッキリした指針を政府が国民に打ち出せない状態にあった。
 そこで、韓国政府は、今の現状は全て日本が悪い、日本がいなければもっと成長していただろう、その日本に負けないように、そして、我々の自尊心を傷つけられないようにしようといった国民の声をそのまま教育政策として採用してしまったのだ。そう言うわけもあって、また、教科書が国定教科書一冊しかなかったこともあって反日教育・民族教育がなされてきたのである。そして、その過程で日帝時代の歴史をこれでもかと教える教育が行なわれてきた。それは、教科書を見ても容易に理解できる。
 このように、歴史を一方的に教わって来た韓国人・それしか知らない韓国人というのは実はかわいそうな存在なのである。例えれば、宗教の信者がマインドコントロールされることによって一方的な教義を身につけ他人の話を聞く耳を持たなくなっている人と同じであるからである。

 しかし、それは、韓国だけではない。日本にも言えることなのである。私自身、中・高と歴史を勉強する過程で、日本はなんと災厄な国であるのか。日本のして来たことを反省しなくては。アジアの国々に対して謝罪しなければという感情を持つようになった。そして、大学に入学した。大学では、いろいろな書籍・人物を通じ、私が持っていた歴史観が本当に正しいものなのかについて疑問を持つようになった。そして、私自身、私の考えが間違っていたと感じるようになったのである。
 では、なぜ私がそのような間違った歴史観を持ったのかということについてであるが、それが教育、教科書にあるということに気がついた。そして、一方的な意見ではなく、さまざまな意見を通じて考えていくことが本当の教育ではないかという考えを持つようになった。だから、その意味で、私は、今回の検定結果には多いに満足している。多くの論争を通じて子供自身が自分考え方・とらえ方を学んでいけば良い問題であると考えているからである。

 歴史教育に関連してエピソードがある。
 それは、ソウル市内にある西大門刑務所を訪れた時の話である。ここは、日帝時代に囚人を収容した刑務所である。そこは、現在、博物館となっている。私が訪れた時は、平日であったためか人もまばらであった。しかし、小学生の低学年であろうと思われる集団が社会科見学でこの博物館を訪れていた。この博物館はろう人形を使って日帝時代に日本が何をしたのかについて紹介している。私はこの光景を見た時、問題ではないかと考えた。
 というのも、この子供達は幼いため何も判断できない状態にあり、その時にこの衝撃的な人形を視覚という感覚を使って判断・記憶することが将来の人間形成・歴史認識についてまさに歪曲して根付くのではないかと心配したからである。私は、一方的な教育では、21世紀のモノ・情報が溢れる複雑化した社会で対応できる子供は育たないと考えている。いろいろな意見を自分の能力で判断していくことが本当に必要になってくると見ている。

 4月10日、ソウルの恩坪区にある佛光初等学校で全校生徒2500名、父母500名、地元住民ら100名が参加しての歴史歪曲糾弾歩き大会が行なわれた。この出来事は、日本では非常に大きく報道されたと聞いている。6日の児童総会で児童自身が日本教科書の歴史歪曲を糾弾する署名運動と日本製品の不買運動の決議に続き、クラス別で教科書の歪曲に関連する授業を受けて望んだデモであった。
 確かに、児童会の決議に基づいているのかもしれないが、低学年や高学年の一部の児童はなんの考えもなしに参加しているケースもあるはずである(私の経験・日本の児童会についての聞き取り調査)。つまり、右も左も分からないままで“日本が悪い”と一方的に決め付けられた情報が彼の脳に焼きつくことは非常に悲惨なことで、日本にとってもマイナスになるのである。

 そう考えれば、これは私の恐れる一方的教育が今も韓国で行なわれているということを示している。私の祖国日本がこうようになって欲しくない。物事を客観的に見ることが出来る人間が育って欲しいし、育てなければならない。

 この検定合格は明るい日本の将来への幕開けになるに違いない。
 最後に、日韓関係悪化を懸念して日本政府は今回の検定を再修正してはならない。これに介入することは政治問題になり、国民の信頼を失うと共に、諸外国からも日本という国に対しての疑問を持たれることになる。言いたいことを言い、相手のことを冷静に聞くという関係が本当の友好関係ではないであろうか。だから、日本はもっともっと言うべきことを言うべきである。そして、日本の態度を明確に示していく方が将来を考えた場合に必要であり、それが今求められているのである。

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五味吉夫の論考

Thesis

Yoshio Gomi

五味吉夫

第20期

五味 吉夫

ごみ・よしお

三得利(上海)投資有限公司 飲料事業部 事業企画部

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日本の対アジア政策を考える

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