論考

Thesis

韓国政治の現状

韓国政治の現状

 5月も引き続き韓国の政治そして、どのように議員の周りが政治家をサポートしているのかということを知るため国会議員である柳乾在事務所でインターンを行った。4月13日に選挙があり第16代の国会議員が選ばれたわけだが、5月30日までは15代の議員が活動していた。つまり、国会は6月はじめまで召集されないため5月は比較的時間があり選挙の疲れをとり新しい国会に向けての充電期間であるとも言われる。

 4月の研修では、受身的な研修であることを反省し、秘書達も忙しくないようなのでこちらからいろいろ積極的に質問をするように心がけた。そのため、今月は本当に多くのことを得たと思う。主に以下のことについて重点的に質問を行った。<1>386世代の快進撃をどうおもうか <2>落選運動をどう評価しているか <3>地域感情をどうおもうか <4>南北会談についてどうおもうか である。南北会談は6月12日に開催されることもあり多く人が関心をしめしていた。
 また、5月21日から27日まで21期生が韓国を訪問し政治経済について研修を行った。私もその研修に参加させてもらった。この研修では、中央人事委員委員長 金光雄氏・国会議員長 朴俊圭氏・元北朝鮮外交官 高英喚氏・民主党の金僅泰氏、李仁済氏・前大統領 金泳三氏・落選運動指導者 朴原順氏にインタビューをすることが出来た。この研修では日韓関係や南北問題に加え彼らの思想やリーダーとは何か、何が必要かについても意見を聞くことが出来た。この研修においても秘書達に質問した4項目について重点的に質問を行った。

386世代の快進撃について

 まず、今回の選挙では今まで以上に386世代が当選を果たしたわけだが、これを大きな変化であると考える人はあまりにも少なかった。国民の政治意識が変わっている証拠であるという意見もあるが、実際、彼らが議員になって何が出来るのか、今までの政治家とどこが違うのかについてわからないという意見が多かった。また、彼らも国会議員になって少し経てば普通の議員になるに違いないという悲しい意見を述べた現職国会議員もいた。国民はこの20世紀最後の選挙で、21世紀の希望のために彼らに投票した人が多い。彼らには国民の期待がかかっている。彼らの使命は大きいものであろう。落選した議員よりも『国』のために活躍が望まれている。しかし、残念なことにこの選挙で立候補し落選した386世代、当選した386世代の一部が国民の期待を裏切る事件を起こした。それは、光州でルームサロン(日本で言えばクラブのようなところ)で女性達とお酒を飲み約8万円の飲み代をタダにしてもらうという事件であった。この事件で国民は落胆し、失望した。『希望の星』が今までとなんら変わらない政治家だということがわかって・・。この事件で名が挙がった386世代の議員は与党民主党がほとんどであった。このこと自体で彼らが『政治家』として不適切かどうかについてはよくわからないが、国民の大きな期待を裏切ったということは事実である。「信用を失うことは簡単である。信用されるにはその倍以上も時間がかかる」と現役国会議員が言っていたのが印象的であった。

落選運動をどう評価しているのか

 これについては落選運動指導者に直接インタビューできるというチャンスをもらった。まず、彼らにはこの運動について自信を持ち、この落選運動が日本にも波及したことに大きな誇りを持っていた。「民主化は我々が学生時代に勝ち取ったものだ。そして今、政治を変えるときに来ている。我々の力で政治を変えよう」という言葉の中に気合のようなものを感じることが出来た。
 私が常から疑問に思っていたことに、落選させるべき3要件(納税・軍隊に行ったか・前科)で本当に彼が政治家として不適切であることがわかるのかということである。たとえこの要件に該当しても『政治家』としての能力を持っている人がいるのではないであろうか。決断力やビジョンを持った政治家が。日本でもこの点を見ずに落選運動をしているように感じる。この点について質問すると彼らも悩んでいた。実際、この能力をどうやって評価するのかという問題である。しかし、評価しなやればいけないという事を感じていた。次の課題はこの評価をどのようにしていくかということだ。
 日本と韓国の落選運動の大きな違いは、落選運動が全国的に行われたということである。それは、いままで環境や教育問題などを中心に活動してきた別々の市民団体がこの選挙を通じ『落選運動』を掲げ一つにまとまり活動したということである。やはり、民主化運動世代の彼らには政治に対して特に思い入れがあるようだ。日本ではまず全国的な運動は考えられない。いろいろ問題があるであろうが市民団体が活動できる基盤がまだ不充分であることがいえるのではないか。全国的な運動を進めるためにもまずは、基盤整備が今後急務の課題になっていくことであろう。

地域感情について

 この点はまずなぜ地域感情があるのか。その原因は。解決策は。いつまでこの感情に左右されなければいけないのか。ということを聞いてみた。日本にはないこの感情を理解するのはあまりにも難しい。この原因は今までの政権と韓国の政党に関係があるそうだ。韓国の政党は地域を基盤としたシステムになっている。ハンナラ党はヨンナン地域を基盤とし、民主党はホナン地域を基盤としている。また、自民連はテグ地域を基盤として成り立っている。選挙を見るとわかるが例えばヨンナン地域では約90%ハンナラ党が座席を占めている。このように地域によって偏っているため、歴代の政権党(金大中大統領は民主党、それ以前はずっとハンナラ党)は自分の地域を重点的に力を入れ政策を行ってきた。このため、日の目の当たらない地域が妬みそれが地域感情に進んだといわれている。解決策については、金大中大統領が当選した時、これからは地域感情をなくすような政策をしていくと言ったがどうやって解決していくのかについて明確な方法が今もってしめされていない。また、この地域感情が存在する理由の1つとして3金(金大中・金泳三・金ジョンピル)の存在があるからだともいわれている。だから、彼らが死ぬまでなくならないであろうと言う意見も聞いた。金泳三前大統領はこの地域主義は当分なくならないであろうと言っていた。
 韓国政治では、この地域主義が政策を決定する際も大きな障害になっている。これをなくす事を早急にすべきである。386世代の彼らにかかる大きな期待の1つでもある。もし、地域感情がなくならなければ南北統一を果たしたとしても北と南の新たな地域感情が起こるのではないかと考えるからである。

南北会談について

 南北会談が6月12日から2泊3日の予定でピョンヤンで開かれる。これは韓半島だけの問題ではなく世界的に注目を浴びる問題になるであろう。南北が分断されてから55年目にして初の首脳会談である。金泳三時代にも首脳会談が開催される予定だったが金日成氏が死去し中止されるということがあった。ここ1、2年北はしきりに外交を活発化させている。イタリアとの国交樹立をはじめイギリス・オーストラリアなど。最近ではニュージーランドやフィリピンなどとも国交樹立の動きがある。この点については、世界的に孤立してしまった北朝鮮が国際的に地位を改善させ韓国との関係を模索はじめるためのきっかけ作りではないかと考えられている。
 国民がこの会談をどう考え、何を望んでいるのかについて国政広報が全国20歳以上の男女1000人を対象にアンケートしたものがある。その中で、国民は大きな関心を今回の会談に寄せている。しかし、すぐ何らかの結果が得られるとは考えていない。実に94.1%の人が『大きな成果を得るよりは、ゆっくり1つひとつ問題を解決していくのが重要であると』考えている。まさに、今回は金・金が会うこと自体が重要なのである。

 私がいままで多くの人に話を聞くと年代によって南北問題についての意見が分かれていることに気づく。50歳以上の人はほとんどが民族が同じであるという理由でどうしても南北統一はしなければいけないと考えているのに対し、20代では統一をすることを望んでいない、または、統一自体に関心を示さない人が多くいる。若い人はあまり興味がないようである。若者が統一を望まない理由の一つとして統一コストの問題を挙げる事が出来る。統一コストは、4000兆ウォン(日本円で400兆円)かかると言われている。景気が良いといわれる韓国でもこの金額を統一のために喜んで出せる状態ではない。金大統領は経済交流を中心に、北に対しての政策を進めている(太陽政策)。これを推し進め北の経済発展・生活水準の向上を待って統一コストを少なくしてから統一をしていく頃が大事になってくるのではないであろうか。しかし、統一まで時間が経てば経つほど積極統一派が少数になっていく。現状のままだと、あと、20年すれば多くの人が統一に対して反対であったり関心を示さない人が大半を占めるようになる。したがって、統一は早くしなければ難しくなる。しかし、早くすればコストや国内情勢の混乱など多くの問題を抱えることになるであろう。この矛盾をどうやって解決していくかが政府・政治家に求められていくものである。そのためにも、まず、現情の太陽政策をもっと推し進めていくことが重要になるではないか。

 今回の会談では、離散家族の再会、各種交流、91年に採択された南北基本合意書の誠実な履行、大量殺傷兵器開発の中断が話されると見られている。そして、この会談で両国が望むことは決定的に違うように思う。韓国側は朝鮮戦争が始まって50年の節目を迎え国民は、休戦協定体制から平和協定体制に考え方が変化し、軍縮に積極的になってきている。そこで、南北関係の改善と交流・協力が必要となり、そのためにも、この会談が必要であると考えている。つまり、韓国側は両国の平和、安全を求めている。これに対し、北は、南からの経済協力をまず求めているといって良いではないであろうか。このように、両国の利害が異なる会談ではあるが回を重ねることによって変化していくことであろう。また、金正日氏の「ソウル答礼訪問」が憶測では8月15日にあるといわれている。金氏の訪韓が実現すれば本当に南北関係は良い方向へ向かうであろう。そのためにも今回の会談は重要な会談になるであろう。

 韓半島問題については周辺国特に日本の協力も大事になってくる。5月28日、森首相が訪韓し、金大中大統領と南北会談についての日本の立場などを話し合った。また、6月8日には金大統領が訪日し日韓の協力体制を再確認した。日本も北朝鮮と国交を結ぼうという動きがここ5年で大きく騒がれるようになった。日本もある意味協力をしていかなければならない。しかし、北朝鮮のいままでの外交政策をみると簡単に協力することは考えるべきなのかもしれない。北は常に何か交渉する前に米や肥料などを要求しそれをもらわない限り交渉さえもしないということを続けてきた。また、日本側が日本人拉致疑惑やテポドン、不審船の話を持ち出すと北は交渉を中断させるということを繰り返してきた。北との交渉で日本は北に振り回されているといった様子である。もし、日本が今後北との交渉をしていく際にはハッキリものごとを言っていかなければならない。日本の国益を守るためにも。21世紀アジアは確実に大きな変化を遂げる。韓半島もその一つである。日本の外交も試されるときが来る。そのためにもいままでの外交姿勢を見つめ考えるときなのかもしれない。

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五味吉夫の論考

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Yoshio Gomi

五味吉夫

第20期

五味 吉夫

ごみ・よしお

三得利(上海)投資有限公司 飲料事業部 事業企画部

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日本の対アジア政策を考える

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