Thesis
1月・2月と中国を舞台に研修を行なった。中国の北朝鮮・アジア観というものを理解するためだ。
最初の1ヶ月間は中国語の研修を受けつつ、自己の興味分野の方とのインタビュー、資料調査を行い、2月には、昨年訪朝した際に平壌で出会った中国人女性、中国人商人、在平壌大使館勤務経験のある中国外交官とのインタビューを行った。本当に現場のそして生の情報であって書物などでは得ることの出来ない貴重な経験・情報を得ることが出来非常に充実したものとなった。また、これとは別であるが、3月には東京で、中国・北朝鮮国境付近の街で父親が北朝鮮難民を労働者として雇いかくまっているという方と話をすることが出来た。その方は、中国の大学を出た後、訪日し都内のある大学で勉強している人である。難民の実情や北朝鮮国民の生の声を聞くとともに中国人の北朝鮮観等も聞くことが出来た。北朝鮮難民を助けること自体違法で、北朝鮮スパイがウロウロしている国境付近の現状それに怯えつつ生活する北朝鮮難民の実情を知りある種の衝撃を受けた。これらのインタビューは非公開の月例でさえも書くことを禁じられている。そのため今回は中国研修を通じて見えたものを書くこととしたい。
私自身、このまま日本が日中関係、対アジア政策において現状の政策を維持し続けた場合、経済成長した中国が急変し日中関係に大きな変化をもたらすのではないかと危惧している。この思いが今回の中国研修で更に強くなった。。
2月の寒い午前、私は中国の有名な学者である金煕徳氏と会うことが出来た。彼は、中国社会科学院に籍を置く若手研究家の一人で、アメリカそして日本にも留学経験のある学者だ。専門は国際情勢で昨年秋に書かれた南北首脳会談以降の南北関係という論文は中国国内で多くの人に読まれ、議論を巻き起こした。
さて、大変な経済成長を遂げている中国ではあるが、WTO加盟に伴う様々な改革から経済が停滞する恐れがあるとも囁かれている。実際、3月7日の中国全国人民大会で江沢民主席が最低でも年7%の成長が必要でありそうでなければ中国では農村の失業などが顕在化するとしている。ただ、ここ1年中国経済はある程度の減速は見られると考えるが、日本に比べれば超スピードで成長している姿に変わりはないといえるのだ。
中国人そして中国政府の頭の中には「経済」の二文字しかないと前掲の教授は言う。昨年夏のNEWSWEEKでも経済優先の中国で少女たちが平気で売春をする姿が報じられた。経済成長の真っ只中と言うイメージは北京ではあまり感じられなかったが、経済特別区を目指し様々な政策を打ち出している宇波市では経済一色の様子を見ることができ彼の話を実体験できた。インタビューの中で、彼は中国のあらゆる政策がすべて「経済」に結びついていると指摘した。経済政策はもちろん都市政策そして外交においてもというのだ。
ところで、私自身、1月の研修の際に多くの方に、北朝鮮に対する中国政府の反応を聞いたが、皆が一様に語ろうとしないのには驚かされた。私自身、友好国の中国ではあるが情報量が少ないこと。北朝鮮の研究をすればするほど北朝鮮の実情が見えてきて友好国として北朝鮮を擁護できる状態ではなくなるからだと解釈した。
北朝鮮との対応において中国は、朝鮮半島の主導権を取ろうという政治的目的がある一方、自国の経済成長において阻害要因となるであろうあらゆることを出来るだけ排除している姿が見うけられる。やはりここでも、経済優先姿勢が見受けられたのだ。北朝鮮との関係において悪化すれば、朝鮮半島の主導権を取れないばかりか中朝関係悪化の要因となり諸外国の不安を募らせ自国の経済成長阻害要因となるからだ。その意味で、現在協議されている不審船引き上げ問題においても、引き上げを助け北朝鮮の犯罪が明確になることは総合的に考えデメリットであると考えているように感じられる。その意味で、中国政府は不審船引き上げには反対の姿勢を貫くと考えられる。また、台湾問題にしてもある程度の牽制は行なうが戦争でも起こし経済発展の大きな損害(諸外国からの経済制裁など)を被る事を絶対にしないと考えられる。その意味で、考えれば北朝鮮へのアメリカの攻撃に対して中国は断として反対し、逆に北朝鮮を助ける姿勢を示すであろう。また、台湾問題にしても、中国が台湾を攻撃するということは少なくともここ10年は起こりえないと考える。ここで10年と言うのは、中国の経済成長がある一定のレベルに達した時期をいう。2008年のオリンピックが更なる経済成長をもたらし中国はここ10年で飛躍的に成長するものであると考えている。そして、経済大国中国になった後、中国が激変するのだ。
10年後、中国経済がある程度成長し、北朝鮮がどうしようもない状態になったとしよう。また、日本が経済的に衰退し、台湾が今の分断状態でいたとしよう。経済優先の中国から中国は脱皮するに違いない。中国人の思想の中には、アジアにおける大国は中国であると言う考えがある。この考えは今回のインタビューによっても理解できたし、また、中国の英字雑誌の中でも「中国人は古代からアジアを支配してきた。ここ200年だけが例外であって今後は中国がアジアの中でリーダーとしてやっていくのだ。」という意見をなす研究者の記事が掲載されていた。これを私は非常に危惧しているのだ。
中国経済の成長のためには隣国と仲良くしていくのがベストであると理解している中国、そして成長後その中国が一変するのではないかと言う考えだ。しかも、その頃の北朝鮮は中国の足を引っ張る存在になっていることであろう。そうすれば北朝鮮との友好を維持することにメリットを感じえなくなるに違いない。逆に朝鮮半島の統一を望むかもしれない。また、台湾にしても大きく中国の主張を行なっていくことも考えられよう。また日本に対しても中国の力を示す行動が目に余るほどになることも考えられよう。そうなった時、中国人のアジアにおけるリーダーとしての関心はさらにアジア全体に向くことになろう。これが、まさにあってはならない「中国の時代」なのだ。これを招かないためにも日本が今から手を打っておくべきであろう。
私自身、この政経塾で研究してきた経済圏(FTA)しかこの問題を総合的に解決することは出来ないと考える。経済的な密接な関係を醸成することが経済成長後の中国とも切っても切れない関係へと持っていくことが出来ると考えるからだ。事実、日韓関係を考えれば経済交流の情勢が今までのような日韓関係悪化の現象が起きても両国の国民的交流や人的交流おかげで日本・韓国間の亀裂を埋めてきたと言う経緯や日本に対する誤解に基づくマスコミ報道にもそれほど左右されずに現在まで来たと言う経緯があるからだ。日本、韓国、中国を含むASEAN+3のFTAに中国も昨年秋に積極的に参加するとの意見を述べた。日本はこれを非常に良い機会であると捉えるべきなのだ。顔の見えない外交、ビジョンのない外交とよく言われるが、ここで日本の顔をビジョンを見せる必要があると考える。今のこの時期だからこそ中国は非常に興味を引くであろう。
21世紀が共存共栄のアジアの時代になるためには、チャンスは今しかないのだ。日本だけではなく、アジア全体の未来がかかっているともいえる。日本が率先してアジアを正しい方向へ導いていくべきなのだ。
Thesis
Yoshio Gomi
第20期
ごみ・よしお
三得利(上海)投資有限公司 飲料事業部 事業企画部
Mission
日本の対アジア政策を考える