論考

Thesis

日本文化開放の残された課題

6月27日、韓国の文化観光相は日本の大衆文化の第3次開放策としてロックや演歌のコンサート等の歌謡公演の全面開放のほか年齢制限のない映画の上映などをすべて認めると発表した。
 韓国では日本による植民地時代(日帝時代)の記憶があり、第二次大戦後、一貫して日本文化を排除してきた。その中で、日韓において国交が回復し政治的にも経済的にも日韓の交流が盛んになっていった。しかし、まだ日本文化に対する過去のイメージが国民の中にあり日本文化は排除されつづけた。ところが、80年代に入って日本の伝統芸能(歌舞伎、能)の公演は認められるようになった。とはいっても、国民の間では伝統芸能に対して興味を持たない人が多くそれほど重大なことだとは考えられなかった。というのも、国民の間において、大衆文化とは日本の伝統文化以外のもの特に、現代映画、歌謡などと捉えられているからである。

 88年ソウルオリンピックを通じて韓国という国がはじめて良い意味で世界的に注目を浴び、日本からも韓国客が行き来し日本人に対してあらたな良いイメージを与えた。特にグルメとエステで女性客が増加し続けた。昨年、日韓を行き来した観光客は500万人を突破した。また、日本人向けの貿易なども増加し、韓国国内では日本に対して嫌でも接しなければならない状態になっていった。特に日本語の語学学習者は年々増加し必然的に日本への関心も国民に、特に若者世代に広まっていった。今年、高等学校における第2外国語の日本語選択率は50%を越えた。
 98年韓国では金泳三大統領に変わって金大中大統領が誕生した。金大統領は日本で生活を送った経験もあり日本をよく知る政治家の一人である。日本のマスコミでも彼の誕生を大きな変化のステップだと取り上げた。大統領は98年10月、訪日した際、日本大衆文化の段階的開放処置を発表した。この措置の理由として、韓国国内に日本文化に対する抵抗がなくなったこと、日本文化を開放しても韓国国内における影響が少ないと判断したためである。しかし、それよりも2002年のワールドカップ共同開催を良い機会に日本文化を開放し日本文化をもう一度見なおしてみよう。そして、大イベントであるワールドカップを成功させようとの意図によるものであると考えられている。第1次開放の実施後に韓国政府が実施した国民意識調査によると、1次開放を適切な実施だと考える人は49.8%、不適切が50.2%で賛否が分かれた。しかし、若者を中心として「ワールドカップ共同開催が行われるのに日本の文化だけ排除するのは問題だ」との意見が多く、若者の間においては賛成派が大半を占めた。
 98年10月の第1次開放では、漫画の単行本、雑誌の日本語版の解禁、日韓共同制作の映画、4大国際映画祭での受賞作品が開放された。
 99年9月の第2次開放では、日本人歌手の公演はそれまでの禁止から2000席以下の室内で公演する場合に許可されるようになった。
 そして今回、歌手の公演は全面解禁され、劇場アニメーションに付いては国際映画祭での受賞作品について許可され、映画は18歳未満禁止以外は全面解禁になった。また、放送も大幅に解禁された。この開放でまだ残されているものに、日本語で吹き込んだCDがあげられる。これらは今後の検討課題だとされている。しかし、日本文化開放は2002年までに全面開放されるという第1次開放時の発表を考えると時間の問題でもある。

 私は、この開放が両国にとって大きなものになると考えている。私の問題意識として、日本は戦後、欧米諸国に目を向けて行動していればそれで事足りていたこともあり、アジア諸国に対して目を向けることはなかった。そのため、日本人は韓国に対して無関心になっている。一方、韓国人は日本に対して大きな関心を示しているが誤解していることも多い。したがって、両国において国民レベルでの信頼関係ができていない。そして、それがひいては政治レベルにも影響していると考えている。韓国での開放によって韓国人は日本について今までのような誤解をする機会がなくなると考える。また、この開放やワールドカップを通じて日本のマスコミと韓国のマスコミが共同で、ドラマやドキュメンタリーを制作する予定だと言われている。これによって日本人も韓国に対して関心を示すのでないかと考える。

 21世紀の外交は今までのような軍事力や経済力、技術力などだけではなく文化面での外交も重要になってくると考える。国際社会において秩序維持、回復のための最終手段として軍事力は引き続き重要な役割を果たすが、冷戦構造が終わり、軍事のあり方自体が考えなおされてきている。また、技術の発展によって開発途上国の経済力が成長し日本にも劣らないような経済力を持った国がどんどん増えていく中、日本特有の文化での外交手段をもっと考えなければ世界的に取り残されてしまうことになりかねない。特に、日韓では、文化面でまず国の信頼を回復していくことが大きな意味をなすはずである。アジアにおける『円の国際化』を議論する際、「韓国としては日本が日本のためだけにそのようなものをすすめているとしか考えられない。また、アジアのために考えたとしても日本の姿勢が理解できない。日本がリーダーシップを発揮すること自体が帝国主義だ」と言う意見を何度も聞いた。韓国では日本という国がまだ信頼されていない。まず、日本がどのような国なのか、そして、国民は何を考えているのか、国の姿勢はなんなのか、そのためにも日本をもっと知ってもらう機会が必要ではないであろうか。したがって今回の文化開放が大きな意味をなすはずである。日本文化開放が全面開放されるのはまだ先のことではあるが今回の開放は今後の大きなステップになると考えている。
 しかし、もし実際全面開放された際に問題もないわけではない。というのは、今回は時期尚早として禁止された歌謡曲などの日本語によって吹き込まれたCDについてである。韓国では、現在CDは一枚12000ウォン(日本円で約1200円)で売られている。日本では一枚3000円である。そこで、もし、韓国で日本のCDが買えるようになり、それが安く日本に入ってきたら一枚3000円を出してまで日本でCDを買う人がいなくなるのではないであろうか。つまり、逆輸入の問題である。韓国で大量にCDを買って日本に輸入し、3000円よりも安く買えるようになれば日本市場は大きな打撃を受けることになる。韓国以外でも日本のCDを買える国は存在しているが、韓国ほど日本に対して興味・関心を持った国民がいる国は他にはない。したがって、日本市場並にあらゆるジャンルのCDが出回ることになるであろう。日本・韓国には在日韓国人を中心に日韓の貿易をする業者が多い。このことに注目しない業者はいないのではないであろうか。貿易問題にも発展する大きな問題になるであろう。
 また、韓国特有のコピー商品に対する規制も強化していかなければならない。実際、韓国の街を少し歩けば街中をコピーのブランドカバンを持った若者を多く見かける。若者のうち100人いれば99人はコピー商品を持っているといわれる。このように韓国ではコピー商品が大量にあふれている。そして、コピー商品を持つことに対して恥ずかしいといった考え方もない。このコピー商品は何もカバンのようなものだけではない。CDやビデオにおいても言えることである。実際、韓国ではX-JAPANやSPEEDといった歌手のコピーCDや「となりのトトロ」や「るろうに剣心」といった日本ではお馴染みのアニメのコピービデオも公然と売られている。CDは日本語で吹き込んであるため、またアニメビデオは韓国語の字幕スーパーであるため日本へのコピー商品の輸入も可能である。そう考えると、コピー商品の存在と逆輸入の問題は今後もっと大きな問題になるであろう。したがって、このことについて両国が真剣に考えなければならない。そして、特に韓国における規制強化をもっとハッキリ徹底させていかなければならない。それをせずに文化開放第4弾を行えば日本だけでなく韓国も大きな損害を被ることになるであろう。

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五味吉夫の論考

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Yoshio Gomi

五味吉夫

第20期

五味 吉夫

ごみ・よしお

三得利(上海)投資有限公司 飲料事業部 事業企画部

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日本の対アジア政策を考える

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