論考

Thesis

ノーマライゼーション社会の実現 ~すべての人が、自立し、自律でき、矜持をもつことのできる社会を目指して~

私は、これから「ノーマライゼーション社会の実現」をテーマに活動を行っていく。今回は活動にあたっての私の考え方や活動方針を書いていきたい。

◆「ひとはみな障害を持って生きていく」

「ひとはみな障害を持って生きていく。その障害が、生まれたときからすでに発生しているのか、その後の交通事故・病気等で発生するのか、年老いるとともに発生するのかの違いだ。」

 しかし、障害が自分のみに発生したとき、今の社会は障害を抱えた人が抱えていても十分に生きていけるのだろうか?

 これが、私の考え方の根底にあるものである。

 私は昨年、埼玉県の入間郡にあるろう重複障害者の入所型授産施設である「ふれあいの里・どんぐり」で3週間泊り込んで研修を行った。ここに入っている人が、「自分は、以前工場で働いていてそれなりに収入があった。もう一度その生活に戻りたい」と私に筆談で語ってくれた。

 社会に出て、働き、収入を得て、生活をする。このありふれたことを障害の有無にかかわらずすべての人が実現できる社会こそがあるべき社会ではないかと思っている。では、このことを実現するためには一体何が必要なのだろうか?そう考えたときに出会ったのが、「ノーマライゼーション」の理念である。

◆ノーマライゼーションの理念

 ノーマラーゼーションという考え方は、デンマークのバンク-ミケルセン氏が、知的障害者へのあり方に対して提唱したのが始まりといわれている。1959年法の中で「障害のある人たちに、障害のない人々と同じ生活条件を作り出すこと」と提唱した。

 その後、スウェーデンのベングト・ニィリエ氏が、ノーマライゼーションの原理を体系化し、プログラムを作成し、育て上げた。彼は、ノーマライゼーションの原理を以下のように定義づけしている。

「ノーマライゼーションの原理とは、生活環境や彼らの地域生活が可能な限り通常のものと近いか、あるいは、全く同じになるように、生活様式や日常生活の状態を、全ての知的障害や他の障害を持っている人々に適した形で、正しく適用することを意味している」

 その後、この考え方は障害者政策の重要な考え方として世界に広まり、現在では、「障害をもつ人も、持たない人も、地域の中で生きる社会こそ当たり前の社会である」と定義づけされている。

◆日本型ノーマライゼーション:「この子らを世の光に」

 日本にも、日本型ノーマライゼーションといわれる考え方がある。それが、近江学園を創設し、知的障害者の福祉に生涯を捧げた糸賀一雄氏が唱えた「この子らを世の光に」である。とてもすばらしい考え方なのでこの場でぜひ紹介させていただきたい。

 糸賀一雄氏はこの考え方について以下のように述べている。

「この子らはどんなに重い障害を持っていても、だれととりかえることもできない個性的な自己実現をしているものなのである。人間と生まれて、その人なりの人間となっていくのである。その自己実現こそが創造であり、生産である。私たちのねがいは、重症の障害を持った子供達も立派な生産者であるということを、認めあえる社会をつくろうということである。『この子らに世の光を』あててやろうというあわれみの政策を求めているのではなく、この子らが自らが輝く存在そのものであるから、いよいよみがきをかけて輝かそうというのである。『この子らを世の光に』である」

◆私の考えるノーマライゼーション

 バンク-ミケルセン氏、ベングト・ニィリエ氏、そして糸賀一雄氏の考え方をもとに私なりにノーマライゼーションとは何であるかを考えてみた。私が考えるノーマライゼーションとは以下のとおりである。

「生きていく上で、すべての人が自立し、自律できることによって、矜持をもつことができるように社会の諸条件を整えること」

 私の考えについてもう少し補足すると以下のとおりである。

 私の考える「自立できる社会」とは「障害があろうとなかろうと、また年齢や性別も問わず、すべてのひとがお互いのことを一個人として認め、お互いを尊重しあい、支えあうことができる社会である。」

 私の考える「自律できる社会」とは「障害があろうとなかろうと、また年齢や性別も問わず、すべてのひとが自分がやりたいと思い、行動できる社会である。自らが選択できる社会である。」

 私の考える「矜持をもつことのできる社会」とは「障害があろうとなかろうと、また年齢や性別も問わず、すべてのひとが社会のために働き(労働だけを指すのではない)、社会の一員として、社会を支えているんだと感じることによって、自らが必要な存在であると認識できる社会である。」

◆ノーマライゼーションを実現するには

 この考えをどのように実現するのかであるが、私は、福祉の考え方を転換することが必要であると考える。それは、“してあげる・守ってあげる”⇒“する(自立・自律)ことへの支援”に転換することである。どんどん地域に出て行く、社会に出て行く支援をすることを福祉の基本におくべきと考える。

“する(自立・自律)ことへの支援”を基本において、ノーマライゼーション社会を実現するには以下の要素が必要であると考える。

  • 障害者が力をつけ、力を発揮する支援(エンパワメント・セルフヘルプ)
  • 社会参加を妨げるさまざまなバリアの除去(バリアフリー)
  • 誰もが使える、参加できる形の形成(ユニバーサルデザイン)
それぞれの詳細については今後の活動の中で述べていく予定である。

◆活動方針:ノーマライゼーション社会の実現に向けて

 私自身のノーマライゼーションの考えに基づいて、それを実現するために何が必要であるかを見極める活動をしていきたいと考えている。活動を以下の3つに大別して取り組んでいきたい。

  • 障害者、高齢者の各種施設での研修
  • 地域でふれあい、支えあう仕組みの研究および実践
  • 障害者も働き、積極的に社会に貢献できる仕組みの研究

<参考文献>

  • ノーマライゼーションの原理 ~普遍化と社会変革を求めて~ 著:ベングト・ニィリエ
  • 福祉の思想 著:糸賀一雄氏
  • ホームヘルパー養成研修テキスト

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海老名健太朗の論考

Thesis

Kentaro Ebina

松下政経塾 本館

第22期

海老名 健太朗

えびな・けんたろう

大栄建設工業株式会社 新規事業準備室 室長

Mission

「ノーマライゼーション社会の実現」

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